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反響の潮流(サイバーカスケードとホメオスタシス)



オープニング

 スマートフォンを手に取るたび、私たちは情報の大海原に飛び込んでいます。SNSは「いいね!」や「シェア(リポスト)」を通じて、瞬時に情報を拡散し、情報社会を形成します。

 しかし、この便利さの裏には、情報過多や脳内物質の過剰分泌という脳の負担が潜んでいます。実際、多くの人がSNSによる情報の洪水がストレスやメンタルヘルスに影響を与えていると感じています。

 ここで注目すべきは「サイバーカスケード」です。これは一つの投稿が瞬時に広まり、次々と連鎖反応を引き起こす現象を指します。この現象によって、個々の意見や感情が大きな流れとなり、社会全体に影響を及ぼすことがあります。

 私たちがこの情報の海で溺れないよう、「サイバーカスケード」やそれらに関連する事象を探っていきたいと思います。



サイバーカスケード

 サイバーカスケードは、アメリカの憲法学者キャス・サンスティーンが提唱したインターネット上で起こる社会現象で、同じ考えや思想を持つ人々がネット上で強く結びつき、その結果、閉鎖的で極端な意見を持つコミュニティが徐々に形成されていきます。

サイバーカスケードの特徴

同質性の強化
特定のウェブサイトやSNSで同じ考えを持つ人々が集まり、閉鎖的な環境で議論が行われることで、意見が極端化しやすくなる。

異なる意見の排除
サイバーカスケードが進行すると、自分たちと異なる立場や意見を無視したり排除したりする傾向が強まる。

意見の先鋭化
議論が進むにつれて、元々の主張がより純化され、先鋭化していく。「リスキーシフト」に発展。

 サイバーカスケードは、ネガティブな影響ももたらします。例えば、災害時に誤った情報が拡散されたり、憶測が飛び交ったりすることで「犯人探し」や「勧善懲悪」思考に繋がり、問題の単純化や思考停止状態に陥ることがあります。

 このような傾向がエスカレートすると、特定の個人や集団に対する誹謗中傷が増加し、社会の分断を深めます。

 SNSのアルゴリズムが、サイバーカスケードのプロセスを助長している側面もあります。アルゴリズムは、過激な意見や感情的な投稿がエンゲージメント(いいね!やコメントなど)を生みやすいと判断し、優先的に表示する傾向があるためです。

 その結果、知らず知らずのうちに「情報の拡散」ではなく、「感情の拡散」を軸としたコミュニティ形成が進行してしまいます。

 フィルターバブルやエコーチェンバーといった現象もサイバーカスケードと深く関わっています。これらの現象によって「ワクチン反対派」や「ワクチン推進派」といった正反対の意見や立場がAIによって強化され「お互いの感情を煽る空間」に閉じ込められることがあります。

 その結果、必要以上に特定の情報に執着し、冷静な判断が難しくなる状況が生まれます。ほぼコレに、やっつけられている方が多いです。

 このような状況は、「過剰ポテンシャル」や「平衡力」という概念で説明できます。

  • 過剰ポテンシャル:特定の対象や状況に対して必要以上の意味や価値を与えることで生じる、思考エネルギーの不均衡状態

  • 平衡力:過剰ポテンシャルが生じた際にバランスを回復させようとする物理現象

 SNSにおける対立構造は、まさに「過剰ポテンシャル」が生み出した「世界(情報空間)」で争うように仕向けられているといえるでしょう。

SNS偽情報、違法例示す指針策定へ」より引用

 サイバーカスケードが深刻化すると、政府による情報統制やSNS規制の必要性が議論されるなど「表現の自由:に関わる問題にまで発展する可能性があります。

 便利なコミュニケーションツールであるネットやSNSが、時として極端な意見の温床になる可能性があることを認識し、多様な意見に触れる努力が必要です。次にサイバーカスケードがもたらす集団化の一面を取り上げます。



リスキーシフト

 リスキーシフトとは、1961年にアメリカの社会心理学者ジェームズ・ストーナーによって提唱された心理現象で、個人では慎重に行動する人が、集団になるとリスクの高い選択をしてしまう傾向を指します。

リスキーシフトの特徴

匿名性
SNSの高い匿名性により、個人の責任の所在が曖昧になり、「誹謗中傷をしても自分が誰だかバレない」という感覚が生じる。
集団性
SNS上では多くの人々が集まり、集団としての振る舞いが生まれやすくなることで個人の責任感が薄れ、「失敗をしても誰かが責任を負うだろう」という心理が働く。
過激な意見の影響力
SNS上では過激な意見が注目を集めやすく、それに影響されて全体がより危険な方向に傾く。

 この傾向がエスカレートすると、言葉の強い意見やリーダーに流されやすくなり、極端な言動が注目されやすくなります。

 SNSにおける誹謗中傷の増加は、リスキーシフトと密接に関連しています。SNSの匿名性と集団性が集団心理と相まって、個人では控えるはずの危険な行動を促進させる環境を作り出しているといえます。

 そして、リスキーシフトの反対の現象として「コーシャスシフト(慎重化)」があり、これらを合わせて集団極性化現象と呼びます。



コーシャスシフト

 コーシャスシフトは、集団で話し合う際に、個人で判断するよりも慎重な選択をしやすくなる社会心理学の現象で、安全志向や現状維持を優先する傾向を示します。

コーシャスシフトの特徴

  • 集団内に安全志向の人が多いと発生しやすい

  • 意思決定に大きな影響を与え、保守的な判断につながる

  • 日常生活やビジネスの場面でよく見られる現象

 この現象は日本的であり、組織文化において顕著に見られることがあり国会やフジテレビ問題に顕著に表れていると思います。

 例えば、政党内で政策を決定する際、革新的なアイデアよりも従来の路線を踏襲する傾向や、複数の政党が協力して取り組む課題において、リスクを避けるために消極的な対応を選択する点などが挙げられます。

 また、「保身」と受け取られるような企業統治にも見受けられ、そこを見抜かれて「外圧」をかけられているのが現状だと思います。

 「保身」の背景には「認知的要因」や組織文化が深く関わっており、それらを改善するためには心理的・制度的アプローチの両面から取り組む必要があると思います。



ホメオスタシス(生体恒常性)

 ホメオスタシス(生体恒常性)は、生物が外部環境や内部の変化に対して体内環境を一定に保つ仕組みを指します。この機能は生命維持に不可欠であり、神経系や内分泌系、免疫系などの複数のシステムが連携して働きます。

 ホメオスタシスは、精神活動においても現状維持を好む傾向として現れます。特に変化に対応するにはエネルギーを必要とするため、本能的に省エネを求めます。

 人間の脳は、体重のわずか約2%しか占めていませんが、全身のエネルギー消費量の約18~25%を使用します。

桃太郎理論とコンフォートゾーン」より引用

 そのため、脳は効率的にエネルギーを使おうとする傾向があり、「コンフォートゾーン」と呼ばれる快適な状態を維持しようとします。

 つまり、ホメオスタシスが情報空間によって脅かされることで、私たちは「ハッキング」される危険性に直面します。その際、大きな役割を果たしているのが「認知バイアス」です。



認知バイアス

 認知バイアスは、私たちの意思決定や判断に影響を与える心理的な偏りであり、これを悪用することで、人々の行動や思考を操作することが可能になります。主な認知バイアスは以下のとおりです。

確証バイアス

【トレンド図解】『確証バイアス』より引用

自身の既存のイメージを支持する情報に注目しやすくなり、一度形成された印象は、それを支持する情報ばかりが目につく。

正常性バイアス

異常な状況を無視し、普通のことを信じる傾向があります災害や危機的状況でも「自分は大丈夫」と過小評価してしまう。

ハロー効果

ある対象の一部の特徴的な印象に引きずられ、全体の評価をしてしまう。

 これらの認知バイアスは、私たちが変化や新しい情報に柔軟に対応する力を弱めてしまう可能性があります。

 しかし、自分がどのようなバイアスの影響を受けているかを認識し、意識的に対処することで、その影響を軽減することができます。

 SNSは便利で強力なツールですが、その影響力を正しく活用するためには、自分自身の認知バイアスと心理的傾向を理解し、より健全で多様な情報収集と交流を心がけることが重要だと思います。



エンディング

 インターネットなど、私たちを結びつけ、理解を深めるために作られたツールが、皮肉にも私たちの視野を狭めて既存の信念を強化し、社会の分断を助長することがあります。

 これを絶望する理由ではなく、むしろ哲学的な洞察と注意深さを促す契機と捉えるべきかもしれません。

 最終的に情報の受け手であり、発信者でもある私たち一人ひとりが情報の消費者であり創造者であるという責任を負うことになると思います。

 私たちが共有する現実の未来は、私たちを結びつけるアルゴリズムそのものではなく、そのつながりに対して私たちが発揮する知恵と共感によって形作られていきます。

 その未来は、私たち一人ひとりの自由意思によって、より良い方向へ導かれる可能性に満ちています。


進歩の技術とは、変化の只中で秩序を保ち、秩序の只中で変化を保つことである。

アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド


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あいひん
私の人生、みなさまの良心で成り立っております。私に「工作費」ではなく、「生活費」をご支援ください🥷