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シン・ノアの方舟計画Part3.75


オープニング

 私たちの時代、特に2025年は急速に変化するテクノロジーとそれに伴う社会的課題に直面することが予想されます。特にトランプ政権やその支持者によって、急速な変化が求められる状況が続くと思います。

 今回はトランプ政権を裏で支えるピーター・ティールについて探求します。ティールの思想は現代社会における欲望の形成や競争の本質を解き明かし、私たちがどのように未来を創造していくべきかを考える手助けとなります。ティールの視点を通して、変化の兆候を見ていきましょう。



ピーター・ティール

ピーター・アンドレアス・ティール

 ピーター・ティールは、1967年10月11日にドイツのフランクフルト・アム・マインで生まれ、1歳の時に家族とともにアメリカに移住します。

 父クラウスは複数の鉱山会社で働くエリートで、そのため転勤を繰り返しました。その結果、ピーターは7度にわたる小学校の転校を余儀なくされ、1977年にカリフォルニア州サンマテオ郡フォスターシティに定住します。

  ティールは1985年にスタンフォード大学で「哲学」を専攻、1989年に同大学を卒業し、その後スタンフォード・ロー・スクールに進学。

 1992年に法務博士号を取得して卒業後、合衆国控訴裁判所第11巡回区で裁判官ジェームス・ラリー・エドモンソンのもと法務事務官として1年間勤務。

 その後、ニューヨークの法律事務所サリヴァン&クロムウェルで証券弁護士として働き始めましたが、仕事に対する充実感を見出せず、わずか7ヶ月で退職。退職後はクレディ・スイスでデリバティブトレーダーとして短期間勤務しました。この経験がティールの思想に大きく影響を与えます。

 1998年、ティールはマックス・レヴチンと共に暗号化ソフトウェア会社コンフィニティを設立し、これが後にPayPalへと発展。2000年にイーロン・マスクのX.comと合併し、2002年にはeBayに15億ドルで買収されました。

パランティア・テクノロジーズ ロゴ

 その後、ティールはPayPal売却後に多岐にわたるベンチャー投資や起業活動を展開し、2003年にはビッグデータ分析会社「パランティア・テクノロジーズ」を設立。この会社については『シン・ノアの方舟計画part5』で取り上げます。

 翌2004年にはソーシャルメディア「Facebook」に初期投資を行い、これが投資家としての名声を確立する重要なステップとなりました。

 また、複数の投資会社を設立し、その投資戦略は単なる経済的利益を超え「人工知能、宇宙探査、生命延長技術」といった未来を形作る革新的な技術に積極的に投資しており、これによりビジョンとリスクを恐れないアプローチを反映しています。

 ティールは「ペイパルマフィア」と呼ばれる起業家集団の一員であり、その中でも「ドン」と称され、革新と独占市場の創出に重きを置きました。

 また、2016年の大統領選挙ではドナルド・トランプを支持し、125万ドルをトランプ陣営に寄付し、その後もトランプ政権に関与し、政権移行チームでの役割を果たしました。

 直近では、ティールはトランプ陣営からの資金提供の要求を断り、2024年大統領選挙に対して距離を置く姿勢を見せています。しかし、ティールは副大統領候補のJ.D.バンスへの支援を続けており、バンスはティールを「良いメンター」と位置付けています。

 ティールの今後の動きがトランプ政権に与える影響は見逃せない重要なポイントです。次にティールに影響を与えた思想について追っていきます。



ミメーシス理論

 ティールが影響を受けた「ミメーシス理論」は、スタンフォード大学で哲学的人類学に属するルネ・ジラール教授が提唱した概念で、人間の欲望や行動が他者の模倣によって形成されるという思想です。

ルネ・ジラール

 ジラールは「人間の欲望は他者の欲望を模倣(ミメーシス)するという性格を持っており、こうした模倣は無意味な競争を引き起こす。また、競争はいったんそれ自体が目的となると進歩を抑制してしまう」と主張しました。

 まさにティールの「競争」に対する視点は、ジラールの理論に基づいています。そして「ミメーシス理論」の要素は以下の通りです。

模倣的欲望
人々は他者の欲望や行動を模倣することで、自らの欲望や行動を形成する。

社会的影響
個人の選択や行動は、周囲の人々や社会の影響を強く受ける。

競争と対立
模倣的欲望は、人々の間に競争や対立を生み出す要因となる。

 ミメーシス理論は、現代のソーシャルメディアやテクノロジー企業の成功を理解する上で重要な視点を提供しています。また、TikTokやInstagramなどのプラットフォームは、ユーザーの模倣的な行動を促進し、それによって急速に成長しています。

 TikTokは音楽やダンスを中心に若者の間で人気を集めており、Instagramはルッキズムを助長する傾向があります。

 これらのプラットフォームは、それぞれ独自のアルゴリズムを用いてユーザーの行動を巧みに誘導し、模倣的な行動を促進し、依存を引き起こしています。「Xのアルゴリズム」については後述します。

 そしてティールは、この理論をビジネスや投資で応用しました。例えば、彼がFacebookに初期投資した理由の一つは、ソーシャルメディアが持つ「模倣的性質」を深く理解していたからです。

 ティールは「良くも悪くも、これは非常に模倣的なものになるとわかっていたので、私は模倣に賭けたのです」と述べています。

 言いかえると、自分たちは「競争」や「模倣」に関与せず、一般市民を「競争」や「模倣」に駆り立たてることで「独占的な市場」を築いて富を蓄積するというスタンスです。

 また、ミメーシス理論は主に「三角欲望」「スケープゴート理論」の二つの要素から成り立っています。



三角欲望

 三角欲望は、欲望が他者を通じて形成されるという概念です。具体的には、欲望する主体(自分)、模範となる他者(モデル)、そして実際に欲求される対象(対象)の三者の関係性を示します。

欲望の模倣性
人間の欲望は本質的に模倣的であり、他人が欲しがるものを自分も欲しがる傾向がある。

間接的な欲望形成
欲望は対象に直接向けられるのではなく、他人(モデル)を通じて間接的に形成される。

競争と対立の源
模倣的欲望は、同じ対象を求めて競争や対立を生み出す可能性がある。

存在への欲望
ジラールは、人間の最も強い衝動は「ある種の存在を獲得すること」だと考え、これを「形而上学的欲望」と呼んだ。

 つまり、ジラールは「人間の欲望は、他者との相互作用によって生まれ、強化される過程が競争や対立を生む」と指摘しています。

 ここに巻き込まれないためには、「社会の期待や他者の定義に縛られることなく、個人が自らの内なる声に従い、真の自己を実現するプロセスを強調する」ユングの「他者に自分を定義させない」という「個性化」が有効な思考法です。



スケープゴート理論

 スケープゴート理論は、社会が直面する問題や不安を軽減するために、特定の個人や集団に責任を押し付ける現象を説明します。

 これにより、コミュニティは一時的な安定を得ることができますが、その代償として選ばれた犠牲者は深刻な苦痛を受けることになります。そして社会の混乱を解消するプロセスは↓の「4段階」です。

4段階のプロセス
⒈模倣的感染

社会が混乱し、暴力が蔓延する。
⒉スケープゴーティング
混乱の原因を一人または少数の犠牲者に帰属させる。
⒊神格化
追放された犠牲者が逆説的に神聖視される。
⒋制度化
犠牲者を中心に新たな神話や制度が形成される。

 理性と論理に導かれたと自負する現代社会でも誰かを非難し排斥しようとする傾向が残っており、スケープゴートの論理は依然として機能しているどころかSNSを通して、より強化されている気がします。ネットリンチや他責思考が典型例です。

 このようにスケープゴート理論は、人間社会における暴力の循環と、その解決策としての犠牲のメカニズムを深く洞察し、文学、人類学、社会学、宗教研究など多くの学問領域に影響を与えています。


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