情報戦と認知戦(プロパガンダとアジテーション)
オープニング
サイバー戦におけるプロパガンダは、従来の戦争とは異なり、認知領域を標的とする新たな脅威となっています。
この脅威に対処するためには、政府レベルでの対策だけでなく、市民一人ひとりが情報を精査し、俯瞰する能力を身につける必要があります。はじめに「情報戦」と「認知戦」の特徴を順番に追っていきます。
情報戦
情報戦は平時や戦時において、情報面で優位な状況をとるために国家レベルで活動を行い、物理的な戦闘だけでなく認知領域にも影響を与えます。
これは、敵の指導者や市民の認知に影響を与え、戦わずして勝つことを目指す戦略です。攻撃ではサイバー攻撃や偽情報の拡散、世論工作などが行われます。
情報戦は国家防衛の戦略として並行され、日本では偽情報の流布に対処するため、防衛省の防衛体制を強化し、同盟国との情報共有や共同訓練を実施、AIを活用した情報収集・分析機能の整備も進められています。つまり、国民に対する「情報統制」は情報戦のひとつとなっています。
情報戦は情報収集や分析を超えて情報を戦略的に利用し、相手国や世論に影響を与えるものです。近年のデジタル技術の発展により、その重要性と複雑性が日を追うごとに増しています。
認知戦
認知戦は、敵の心理や思考プロセスに働きかけ、その行動や意思決定を行うことを目的とした現代の戦争形態で、全世界の市民がターゲットとなり、人間の脳や認知領域をコントロールすることを目指します。
従来の権限のない武力行使者ではなく、情報操作や心理的影響を主な手段として、SNSやAIなどの最新技術を活用し、偽情報の拡散や世論操作を行います。
というように、認知戦は従来の戦闘とは全く異なり、情報や心理面での優位性を追求する新たな戦争形態で、国家間の対立だけでなく一般市民の認識や行動にも大きな影響を与える可能性があり、今後の環境において重要な課題となっています。
次に、私たちの認知に影響を与える「プロパガンダ」とは何か、改めておさらいします。
プロパガンダ
プロパガンダとは、特定の思想や意図に基づいて個人や集団の思考や行動に影響を与えようとする組織的な宣伝活動です。
またプロパガンダという言葉の起源は、1622年にカトリック教会が設立した「布教聖省(Sacra Congregatio de Propaganda Fide)」に由来し、ルターをはじめとする宗教改革の諸運動に対し、カトリック側の言論統制は一層強化され,同時に教義の積極的な宣伝がはじまったことが発端です。
布教聖省による言論統制や宣伝は、中世社会の崩壊とともに世俗的君主国家に受け継がれ,政治的目的のための統制として発達しました。
プロパガンダは政治的意図を持ち、特定の思想や主義を広めることを目的とし、情報による大衆操作や世論喚起の手段として用いられます。
現代では、SNSや生成AIの発達により、個人に合わせたターゲット化が可能になっており、メディア、広告、政治宣伝など、様々な分野で活用されています。
フランス革命時にはマリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と語ったとしたものや、首飾り事件に関するパンフレットがばらまかれ、反王室の気運が高まったのもプロパガンダによる世論工作です。
2024年パリ五輪の開会式は政治色が強く、キリスト教の品位を貶めるものや儀式、王室を揶揄したものに溢れたものとなりました。
また、マスコットキャラクターの「フリュージュ」は「フリジア(フリギア)帽」というミトラ教の関連の深い古代ローマに起源をもつ帽子のひとつで、「隷従から自由への解放」=「革命」の象徴とされています。
動画が削除されてしまいました。Eテレの「ジェンダー体操」、NHKの「官僚による内部告発」動画に次ぐ、今年3回目のアカウント・ロックを喰らいました。
Xの情報統制や妨害?行為も水面下でひどくなっています。noteに貼付しても表示されないポストや勝手に削除されているポストもあります。
情報操作
本来、プロパガンダと情報操作は違いますが、情報戦と認知戦の違いのように境目が曖昧になってきており、主戦場がテレビや新聞などのオールド・メディアからインターネットやSNSなどのニュー・メディアに移ってきているのが要因の一つとして挙げられます。
さらに、「情報の宣伝」よりも「情報の拡散」が重要視されていることや心理学やAIの発展により「偽情報・誤情報」の見分けがつかなくなってきています。
特に「情報の拡散」に関しては「感情」が大きく関与しているのは間違いありません。具体的に例を挙げます。
わかりやすいアイコン詐欺・経歴詐欺の例。谷本真由美のWikiをご確認ください。この経歴を見て信用できる人物でしょうか?
国連やIMFの職員を1名20万円で紹介するという謳い文句で人材紹介を行い、外務省が事実無根として「注意喚起」の声明を出すほどの猛者です。
そこまでチェックしない方が大半なので、こういうアカウントの誘導に引っかかってしまいます。
これも似たようなアイコン詐欺。このアカウントは全く違う内容の字幕を付けることで有名ですが、気づかない人は容易に誘導されます。
文章内容を見れば「明らかにバカにしてる」ことは明白ですが、気づかない方が多く、コメントも肯定的なものばかりでゾッとしました。
指摘している方は多数いるにもかかわらず、懲りないというよりより悪質さが増しています。特にパリ五輪で「本領発揮」といったところです。
こういったアカウントが偏った投稿を続ける理由は、ドーパミンやアドレナリン、オキシトシンなど「脳内物質」の分泌に大きく関わっており、フォロワー獲得やインプレッションにつながることが考えられます。
このような情報に接するたびに、私たちの認知は歪められ、思い込みは強化されてしまうので注意が必要です。これが「認知戦」です。次に「感情」を利用した戦略を取り上げます。
アジテーション(扇動)
アジテーション(扇動)は、19世紀〜20世紀にかけて様々な政治運動や政治の中で発展し、ロシアのマルクス主義革命家でソビエト連邦の建設者ウラジーミル・レーニンがアジテーションの概念を定義し、政治闘争に不可欠な戦略として位置づけました。
またレーニンは、アジテーションを大衆向け、プロパガンダをインテリ向けとして区別し、1920年9月、ロシア共産党中央委員会書記局の一部局として「扇動宣伝部」が設立されました。
これ以降、共産主義運動においてアジテーションは一般的に行われました。 ここでプロパガンダとアジテーションの具体例を見ていきましょう。
プロパガンダの具体例
戦時中の愛国心を高めるポスターと映画
政治家や政治家を支持するための広告キャンペーン
企業製品やブランドイメージを向上させるための広告
映画や音楽を用いた国民高揚
偏向報道による印象操作
アジテーションの具体例
労働運動における街頭演説や集会
政治家の抗議活動やデモ
SNSを利用した拡散を促す投稿
革命や暴動を煽る演説や文書
これはほんの一例ですが、プロパガンダが組織的で決定的な思想や行動の変化にアプローチするのに対し、アジテーションは即時行動や感情の喚起に影響を与えるアプローチを行い、市民運動やデモに結びついていることがわかります。
現代のメディア環境では、アジテーションとプロパガンダの境界が曖昧になってきている点にも注意が必要です。
両者は相互に政治・社会・文化的影響力を発揮する上で重要な役割を果たしています。次に市民運動に直結する重要人物を紹介します。
ソウル・アリンスキー
ソウル・アリンスキーは、アメリカのコミュニティ・オーガナイザーおよび作家であり、近代における住民組織化の手法を確立した人物です。
アリンスキーはシカゴのスラム街でロシア系ユダヤ移民の子として生まれ、シカゴ大学で考古学を専攻しましたが、大恐慌の影響で犯罪学に転向し、イリノイ州で関連する職を得ました。
その間、アル・カポネのマフィア組織に入っていた経験から、人を操る術を学び、貧困に対する政府の無関心さに反感を抱くようになりました。
1938年に職を離れてから住民組織化に専念し、アリンスキーの手法は1960年代に流行した草の根運動(グラスルーツ運動)の基礎を作り、ラルフ・ネーダー、シーザー・チャベス、ジェシー・ジャクソンなどの大衆運動に影響を与えました。
アリンスキーの住民組織化の手法は、大学生や若い活動家に引き継がれ、大学構内での組織化戦略の一部となりました。タイム誌は「アメリカの民主主義は、アリンスキーのアイディアによって変化した」と述べています。
「持てるもの」と「持たざる者」
アリンスキーの「持てる者」と「持たざる者」の概念は社会変革理論の中心的な要素で、主に持てる者は「A層」を、持たざる者は「C層」を指します。
またアリンスキーは、持てる者は「現状維持」を望み、持たざる者は「変革」を求めると指摘し、「持たざる者」が組織化することで力を得られると主張しました。
つまり、アリンスキーの住民組織化の手法は、この力の不均衡を是正するためのものでした。言い換えると、資本主義に対する「戦術」や「組織化」を理論化したのがアリンスキーです。
ただし、この概念は、「持たざる者」の声を政治に反映させることで、より公平で民主的な社会が実現できると考えたため、社会主義や共産主義ではなく、民主主義の理想を実現するための手段として位置づけられたことが興味深いです。
また、オバマ元大統領は「なぜ組織化するのか?」というエッセイで黒人教会を通じた住民組織化の重要性を説き、ヒラリー・クリントンは卒業論文を「アリンスキーが恐れられるのは(キング牧師と同様)彼が最も過激な政治信条 -民主主義- を信じているからだ」と結んでいます。ここでアリンスキーが提唱した「13の戦術」をみてみましょう。
13の戦術
アリンスキーの著書『過激派のルール(市民運動の組織論)』で提唱された13の戦術ルールは、「現実的過激派のための実用手引書」であり、社会変革を目指す運動家のための実践的なガイドラインとなっています。
権力は、あなたが持っていると人々が信じているものではなく、実際に持っているものである
敵の規則の範囲内にとどまるな
敵の領域の外に出よ
敵を自身のルールブックに従わせよ
嘲笑は人間の最も強力な武器である
良い戦術は、あなた方が楽しめるものである
戦術は長引くほど重荷になる
圧力を維持せよ
脅威は通常、その実行よりも恐ろしいものである
主要な前提は、消極的な反応の発展である
十分に押し進められた敗北の代償は、勝利に変わる
攻撃の代替案を提示せよ
特定のターゲットを選び、個人化し、分極化せよ
これらのルールは権力構造に挑戦し、社会変革を実現するための戦術的アプローチを示し、アリンスキーは、これらの戦術を通じて「持たざる者」が「持てる者」に対抗し、自らの声を政治に反映させることができると考えました。
マフィアと関係が深かったアリンスキーだからこそ、目的のために手段を選ばない+正当化にあふれた戦術となっています。
住民組織化
住民組織化(コミュニティ・オーガナイジング)とは、地域住民が共通の利益のために協力し、行動するよう組織化する手法で、この概念は以下の特徴を持っています。
目的
社会的に弱い立場にある人々(移民や貧困層など)の意見を政治に反映させ、生活状況や環境の改善を図る。
手法
住民自身に問題意識を持たせて議論し、解決のために組織化して行動することを促す。
リーダーシップ
コミュニティ・オーガナイザーと呼ばれるリーダーが重要な役割を果たす。
特徴
一時的な動員ではなく持続的な組織づくりを目指し、擁護者による代弁ではなく、影響を受けている人々自身が発言することを重視。
ここで気をつけるべき点は住民組織化は「活動主義」と違う点です。また草の根運動が、いつの間にか扇動家による『人工芝運動(アストロダーフィング)』にすり替えられてしまう点も挙げられます。では活動主義とは何でしょうか?
活動主義(アクティビズム)
活動主義(アクティビズム)は、社会的、政治的、環境的な変革を目指し、活動家は「デモ、キャンペーン、ロビー活動」など、特定の問題についての意識を高め、人々に積極的な関与を求めます。
目的
特定の社会問題に対する即時的な変革や抗議を目指すことが多い。
手法
デモ、抗議活動、キャンペーンなどを通じて直接的な行動を起こすことで注目を集め、変化を促す。
リーダーシップ
しばしばカリスマ的リーダーや特定の団体が中心となって行動する。
特徴
特定の問題に対する一時的な動員が多く、長期的な組織づくりは必ずしも目指さない。
住民組織化と活動主義は、どちらも社会変革を目指す手法ですが、アプローチや目的にいくつかの違いがあり、この違いはプロパガンダとアジテーションの類似点と共通しています。
つまり、プロパガンダと住民組織化は思想の固定化につながり、アジテーションと活動主義は感情的即効型となります。
また住民組織化は、地域住民が自らの力で問題を解決するための意識と行動を促す点に特徴があり、ボトムダウンではなく、ボトムアップの民主主義を実現する手法として重要視されています。
自律分散型コミュニティーが目指す社会は、個人が主体性を持って行動し、責任と権限が分散された状態で協働する社会をいいます。
自律分散型社会では中央集権的な管理が存在しないため、各メンバーが自己管理能力を持つことが求められます。 具体的には、自分で目標を設定し、進捗を管理し、問題解決に取り組む能力が必要です。