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竹岡式ラーメンを訪ねて

竹岡式ラーメンの説明は省きます

鈴屋と梅乃家、自称醤油の国、千葉で元祖と云われる大凡作り方が同じふたつの竹岡式ラーメンは全くの別物だった。

醤油(宮醤油)で煮た豚肉の煮汁を、麺の茹で汁だけで割る出汁を引かない竹岡式だが、鈴屋さんに感じる出汁感はなんだろう、豚バラの旨みを引き出す茹で時間の妙なのか、旨みを持つ肩ロースも忍ばせてるのか、昆布によるグルタミンの乗算なのか、(ちなみにグアニル酸を発見したのはヤマサ醤油の研究員、故國中明氏)料理として成立している美味しさだ。ポクポク感を残した低加水または半乾麺ような、醤油色がうっすら染み込みこんだ独特のストレート麺は、しょっぱいスープを必要以上に纏わせないのが相性を良くしてる。漁師飯だけあって、この濃い醤油味はご飯泥棒だし、ご飯と麺の固さが食感の対比にもなって、必然的に麺硬めコール無用の合理さ。竹岡式と言えば玉ねぎだけどこれは長ネギが正解。竹岡式ラーメンの入口は絶対鈴屋さんだ。

一方、梅乃家さんはローカル色がかなり強いピーキーな味の仕上がりだけに文化的な味覚を携えていきたい、郷土料理またはソウルフード(風土)のカテゴリーだ。
スープの色を見て。房総半島に数多く分布するモール泉、特に飯岡温泉並に真っ黒な醤油温泉は、生姜がリミッターとなって、色の割に塩味は歪んでいないが、旨味はほぼバラ肉のワンイシュー故か、乗算を用いた旨味を活かす技法に囚われておらず、しょっぱい煮トゥーマッチ豚を胃の奥まで流し込む役割に徹しているようだ。
つがいと言ってもいい独特の乾麺は、肌を褐色に染めあげ自ら醤油を血肉化し、メドゥーサの如く、つがいであるスープを全て絡めとろうという気概に満ちた、ねじれ現象ならぬ強ちぢれ麺。こうなってくるとメンマもザク玉もトッピングではなく、塩分を薄めるための助け舟状態。漁に出て死に物狂いで魚を獲る漁師の、働き過ぎてバカになった頭を強制的に再起動させるのは梅乃家さんだ。

この強烈なラーメンは港のすぐ近くにある。頭に直接叩き込む、港で待つ女たちの味は漁師たちの帰巣本能に組み込まれ、必ず家に帰ることを約束している。

私が食べている間、何人かのお客さんが食べ切れずに残していた。店員のお姉様方にはいつものことなのだろう、淡々とお客さんを回転させていたが、厨房に食器を戻すと「またこれだよ」ってお互いの顔を見合わせ、みなマスクを整える。そんなに残されちゃ表情も崩れるよ。
万人に受けるよう整えられた既製品ばっかり食べてるお前らが食べるラーメンじゃねえんだ。
宛もなく私に怒りが湧いてきた。

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