塾いらずの中高一貫校って本当なのか?→あるけれど注意したい
「うちは塾はいりません!むしろ学校の勉強だけした方が効率が良くて…」
聞き覚えがある声が聞こえて顔を上げた。
春に開かれた、某私学合同説明会の会場だった。
見てみれば、とある学校の入試広報部長である。前年に行った説明会でも壇上に立っていたし、Web説明動画にも度々登場している。
実は20年以上前、その先生は私の担任だった。なぜかその頃から見た目が変わらない気がするのが不思議だ。いい年のはずなのだが。
その近くにあるのは、母校のブースだったのだ。
私は若干冷ややかな感想を抱きながらその場を去った。
因みに、母校は設備が素晴らしいので参考程度に、と実家に顔出しがてら娘と説明会に行ったのだが、「音楽嫌いだし遠いからやだ」の一言で早々に候補から外されていた。
2x年前(敢えて伏せる)最近よく聞く「ゆる受験」すら名乗れないような雑な受験をして入学したこの学校は、今ではそんなことしたら到底受からないような難関校になってしまった。
偏差値爆上がり校としてよく話題に上る、人気校である。
この人気急上昇の元になったのは、主に施設、進学実績だろう。
施設は本当に素晴らしくて、20年前くらいに建てた校舎なのだが、その後に建てられた他校の校舎と比較してもなかなか勝てるところはない。卒業生の贔屓目抜きにしてもだ。
しかし、それよりも進学実績の急上昇こそ、この学校が伸びた理由だろう。
親になってからわかったことだが、進学実績というのは、中学受験の志望校を決めていく上で非常に重要な要素と考える人が多いようだし、私もそれ以外を最も大事と考えてはいるが、一応気にして見ることにはしている。多分注目する部分は少し違うと思う。これは後述する。
この進学実績をとにかく上げよう、という先生方の意識、私が在学していた頃は際立っていた。多分今より厳しかったはず。
中学の頃から大学受験の話をされたし、進路指導部が毎年作る合格体験記の冊子は中2以降全員が配られた。
高校の卒業式の頃には私大の合格者が目立つところに掲示され、予備校の壁のようになっていた。それは一年間掲示されっぱなしだった。
受験対策の講習も、ものすごく充実していた。
中1の春休みから任意参加の季節講習が開催され、普段の授業とは違う演習系の講座が複数、塾に通うよりも格安の値段で受けられた。
中2からは、ネイティブと少人数で会話のできる課外講座が開催され、こちらも世にある英会話スクールとは比べ物にならない格安で受講できた。
中3だったか高1だったか忘れたが、その頃になると、平日の課外で受験対策の講座が始まり、これも予備校ではありえない格安で受講できた。受ける人が少ない講座だと先生と3:1くらいの授業になった。もはや個別指導塾の域。
更に、課外講座とは別で、受験対策に英語の多読をしたい人はTIMEなんかの記事を和訳する課題をもらえたようだが、私自身は多読する際の逐語和訳に意義を感じなかったことと、その頃には英語がかなり嫌いになっていたからやっていなかったので、詳細はわからない。やる子は毎日のようにやっていた。慶應を受ける子に多かった気がする。
勿論普段の授業もそこそこ宿題は多い。
それよりも多いのは定期テスト後に行われる数学の再試験だった。
とにかく高すぎるな、という目標点が取れるまで、授業が始まる前に数学のテストを受け続けるのだ。
英語もあったかもしれないが、引っかかったことがないので知らない。単語テストの再テストは時々あった気がする。
これでも成績下位になると、放課後に一科目あたり週一回の指名補習なるものを受けなければいけない。この辺の補講系は無料だが、次の定期テストまで絶対解放してもらえないので、みんなそこは避けたがっていた。これを避けるために個別塾に行った子もいたし、最早学習意欲がなく、指名補習から逃げ続ける猛者もいた。
とにかく、色々な手を打って、学校内で勉強を完結させ、学力を底上げしている時期だった。
中学受験界隈でいう、「お得校」とか、「面倒見の良い学校」とかの先駆けである。その名に偽りはなかった。
そうして、年々進学実績は伸びていった。
私が入学した頃は早慶に受かったら大金星といったところだったのが、高校生になって進路選択する頃には、文系選抜クラスの人は早慶上智を受けない人がほぼいない程度にまでなっていたのだ。多分延べ人数なら15人くらいは受かっていたかな(重複はある)
さて、丁度中2か中3かの頃、当時の担任には
「授業きちんと受けてれば塾行かなくても大丈夫だから!」
とよく言われていた記憶がある。
奇しくも、私学合同説明会の会場で耳にしたのと同じ声だったような。
果たして、本当にそうだったのか。
答えはYES。だが、条件付きだ。
当時の母校は、学校始まって以来であろう東大合格者を出すことを水面下で目論みつつ、基本的には国立よりも私大対策寄りだったのだと思う。目指すはとにかく早慶といったところ。そこを目指して実際にはGMARCH以下への進学が多かった。
高2の文理選択以降、文系ならば数学の授業が激減し、理科は生物のみとなった。
代わりに、現代文や古文、歴史系の授業が毎日あった。英語は二回という日も。
理系は知らないが、授業時間が同じである以上、似たようなことは起きていた筈だ。
そして高3になると、数学と理科の必修授業はゼロだ。
授業で扱うのは私大の過去問や類題の演習。
私大の対策には良かったはずだ。というか、一年間予備校に行ったようなものだったのではないだろうか。
そんなわけで、学校がターゲットとしていただろう私大文系なら早慶レベルまで「塾なし」合格は可能だった。そういう子はたくさんいたし、成績上位の子ほど塾には行っていなかった。
さて、私自身は、国立大学受験をしなければいけなかった。
相変わらず何を考えているのやらさっぱりわからない親から、「大学行くなら国立か○○(のちの私の母校)しか認めない!最悪早慶なら許す。MARCH?そんなの大学じゃない!勿論現役のみ!」と滅茶苦茶なことを言われており、許された中で受ける学校を増やすためには国立受験が必須だったのだ。
都内の国立大学の受験には、センター試験で最低限数学の受験が必要で、私の場合は理科も必要だった。
更に二次試験は、国語や英語に選択肢問題など僅かだし、社会では語句補充系の問題など一問たりと出ない。数学に至っては解答用紙に枠線すら引かれていない程度に記述式だ。
私立向け対策が全く役に立たないわけではないが、根本的にやるべきことが違う。知識の量は私大より少なくても戦える気がするが、本質の理解が深くなければどうにもならないのだ。
学校ではどうしても私大向け演習ばかりで、これらの対策は放課後以降にしかできない。数学や理科は、授業自体がないから、ほぼ独学だ。
学校の授業には事前課題や宿題が当たり前のようにある。
それらをこなすことで、学校側が狙った力はつくのだろうが、私には私のやるべきことがあるのだ。とにかく効率が悪いし、時間が勿体無い。
こうなると、家で勉強して授業中は寝るか内職かのどちらかだ。
大っぴらに「あなたは内職してていいから、授業中黙っていてね…」とおっしゃった先生もいらしたが、普通はそんなことしていたら怒られる。そもそも、いくら授業中に全部の問題に答えてしまうからって、そんなこと言って良いのだろうか。
学校がその時にターゲットにしていなかった学校を志望すると、非常に効率が悪いことになるのだ。
おそらく、単科で良いから予備校に行っておくのがベストだったのだろうな、とは今ならわかることだ。
だから、一部の「YES」はこうだ。
「その学校が重点的なターゲットにしている大学を志望するなら」塾いらずの学校は存在する。
そして、そこから外れるなら、塾なしなんていわず、塾でもなんでも使った方が良い。できれば生徒の塾通いにあーだこーだ言わない学校だともっと良い。
私が、中受親の端くれとして説明会などで進学実績を見る時、単に学校名と数字だけを見ないようにしているのは、自分のこういった体験からだ。
その学校が狙っている大学はどのラインなのか?国公立は視野に入れるのか?カリキュラムから推察する。
自分が、ターゲットからズレた大学を志望して、本物の「面倒見の良い学校」で大変な思いをしたから。
或いは、塾通いへの許容度を量る。
塾に行っても構わないというスタンスなら、それはそれで自由にできるからだ(お金はかかるけれど)
そして、進学実績以前に、何よりも生徒の個性を大事にしてくれる学校だと、信じられること。
まぁ、私の20年前の経験が、そのまま子供に役立つかはわからない。そもそも、まだ受験が終わっていなくて進学先だってわからない。だから、偉そうなことは何一つ言えない。
それでも、「塾いらず」を大々的に謳う学校には、どうも素直になれないのだった。
(この話は事実を元にしたフィクションということにしてください)
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