![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/74052165/rectangle_large_type_2_fc63aeccea1a3fbf32273719698b30b3.png?width=1200)
マイブームという発明
みうらじゅん氏は1997年(平成9)に「マイブーム」という新語で流行語大賞にノミネートされました(大賞は「失楽園」)。
「自分の」というmyと「景気・流行」というboomをくっつけた造語で、異なる2つの言葉の組み合わせという異化効果による、新しい意味の発見だと思います。
みうらじゅん氏がそのような考えでこの言葉を作ったと言っているわけではなく、私が勝手にそう思っています。
私はこの「マイブーム」という言葉がとても興味深く、ちょっと大げさですが、平成時代の発明のひとつだと思っています。
もちろんみなさんご存じの通り、みうらじゅん氏はタレントのようなアーティストのような、ユニークでよく分からない存在で、インタビューなどの発言もたいてい面白おかしく話されていてなかなか本心が掴めないように感じる人です。
ただ、「マイブーム」以外にも、「ゆるキャラ」「クソゲー」という言葉を流行らせた実績(?)があり、間違いなく言葉の天才だろうと思います。
では、私がなぜ「マイブーム」という言葉にそこまでこだわるのか?
それは彼の生い立ちから現在までの経緯に時代の変化を感じ取れて、そこに非常に共感を覚えるからです。
居場所がなかった少数派
彼は小学校時代から仏像に並々ならぬ興味を抱き、いわゆるオタク的嗜好を持っていたというのは有名な話ですが、子供時代に世間や周囲とはまったく関係のない謎のこだわりを持っていた人は少なくないと思います。
私は、中学高校時代に洋楽にはまってしまい、最初はいわゆる80年代以降のアメリカやイギリスの音楽を聴く程度でしたが、いつの間にかマニアック度が高まり、輸入レコード屋から中古CD屋まで歩き回り、自分でも聴いたことがないようなアーティストを探してジャンクを買い漁っていました。
当然そのこだわりを理解できる人はごく少数で、そもそも周りへの説明自体が難しく、その趣味を隠して過ごしていました。
きっと「マイブーム」という言葉があればいい感じに伝えられたのに、と今でも思います。
当時の知り合いにはもっと世間的に憚られる趣味の人もいて、その頃の大変さや肩身の狭さを思い出します。
いわゆる昭和の「根暗なオタク」といった蔑まれる存在に近いものがありました。
こだわりとして認められた今
しかしいつからか、「おたく」という言葉が「他人とは違うこだわりを持つ人」という良いイメージに転換し、○○おたくという活用形が普通に使われるようになり、自己主張の一部になっています。
その変化が何をきっかけに定着したか分かりませんが、もしかするとアキバ系オタクが注目されるようになった「電車男」からでしょうか?
それとも、アイドルオタクが流行を作った、AKB48あたりでしょうか?
偶然かもしれませんが、その両方とも2005年ごろから秋葉原から発信された人気コンテンツで、ネット掲示板住人やアイドルファンというオタクっぽい存在が普通になった時期と言えます。
2000年前後のその頃、なぜかそのような空気の変化があり、「マイ」と「ブーム」という矛盾した言葉の組み合わせが多くの人に受け入れられたのだと思います。
みうらじゅん氏が、「個人の独特なこだわりを尊重すべき」という、2000年ごろに主流となりはじめた概念(シニフィエ)に、「マイブーム」という新しい言葉(シニフィアン)を当てた、とも言えるのではないでしょうか。
氏は「ゆるキャラ」という、これも有名な言葉を同時期に生み出し、地方創生などで多数出現した、謎の地方のこだわりが詰まってはいるが決して出来がいいとは言えないキャラクターを受け入れる言葉を教えてくれました。
普通では見えない大きな流れをいち早く読み取って新しい考えを提示できる人は非常に少ないですが、みうらじゅん氏はその才能を持っている選ばれた人なのかも知れません。
[マガジン] 平成って何だったの? こちらからもぜひお読みください!