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「友近サスペンス劇場」というまさかの傑作ドラマ

数日前、「友近サスペンス劇場」がYouTubeで公開されました。

すでに知っている人もいると思いますが、これは、あの友近がフィルムエストTVという昭和の映像再現を得意とする映像作家チームと組んで、80年代の2時間ドラマを本当に作ってしまったという事件です。

そのこだわりぶりはすさまじく、番組前後のCMから提供の映像、ドラマの映像、シナリオ、音楽まですべて本気で作っていて、ドラマの舞台で友近・芝の地元愛媛県の各企業等からも協力を得ています。

私はこの映像により、友近、フィルムエストTV、出演者であるモグライダー芝らのファンを大いに喜ばせるのはもちろんのこと、もっと大きなくくりとして「2時間ドラマ」という懐かしいコンテンツを再生させるくらいのインパクトが生まれると感じました。

なぜそこまでの強い印象を持ったかご説明します。


① パロディではなく今の良い作品として成立している


フィルムエストTVの作品を見たことがあるでしょうか?

彼らは昭和後期のVHSビデオに録画された世界や、ブラウン管で見ていた80~90年代の深夜番組(トゥナイト2みたいな?)を再現する人たちで、私は前からよく見ていました。

ただその味わいはあくまで基本何かのパロディであり、「X」を昭和風(?)に「エッキス」と発音するような令和の諧謔と風刺的精神が主でした。


しかし友近というお笑い芸人は、今回のドラマをパロディという枠にとどめるのではなくちゃんと当時のレベルで作るという無謀すぎる夢を持ち、それを本当に実現してしまいました。

さながら彼女の得意な、市井の愛すべきちょっと変な人を演じているうちにいつのまにか本当にその人に見えてくる、というあの芸のようです。

繰り返しますが本当にドラマとして良いんです…

友近と芝は見事にドラマの世界に調和して往年のスターのような雰囲気を出しているし、あと時東ぁみが素晴らしくてもっと見たくなりました。

製作者の愛と技術が結びついた奇跡と言えるでしょう。


② 見てないのに郷愁、生まれてないのに懐かしい気持ち


いま流行っている80年代シティポップのMVを見たアメリカ人が、「当時は聴いてなかったのになぜか懐かしい」と言ったという話を聞いたことがあります。

おそらく音と映像の完成度が高いと没入感が増し、行けるはずがない映画の世界に迷い込んだと感じるのと同じように、知らないはずの80年代の音楽世界を追体験できたのでしょう。

今回のドラマはそれと同様の感覚を味わうことができます。
つまりは映像制作技術の勝利です。


フィルムエストTVのこだわりは病的ともいえるくらいで、彼らはおそらく当時の映像を似せるだけでなく、昭和のドラマ制作の精神を学習してそれをすべて現代の技術で置き換えるという恐ろしく面倒なことをしているように感じます。

絵と音だけ似せるならPCで加工すれば相当なことができますが、彼らは画面には映らないシナリオや演出、この頃の世間はこうだったはず、という時代まで再現しているので若い人でも楽しめるのだと思います。


③ 2時間ドラマという優れたフォーマットの再発見


彼らは過去の2時間ドラマからある魅力を再発見し、我々に提供してくれました。
それは、多くの人が忘れていたドラマの普遍的価値、「ドラマの時間を誰でも味わえて共有できる素晴らしさ」だと思います。

現代のドラマや映画は3つの特殊能力が見る側に必要です。

「反射神経」 非常に速くトリッキーな展開について行く力
「情報収集力」 語られない前提や背景的知識を持つ力
「脳内補完」 コンプラ等で表現できない本音を想像で補完する力

当然ですが視聴者側の負荷が高くなり、見る人を選ぶ作品となります。


2時間ドラマにはそういった心配は一切ありません。
友近サスペンス劇場はその価値を当時の空気とともに見る人に強く思い出させてくれます。

CG、AIといった最新技術を超えて、まさかこんなに懐かしいのに実は新しい作品ができるなんて本当に素晴らしいです。

過去のテレビドラマの良い部分を抽出して私たちに提供してくれた制作者や出演者に対し感謝の気持ちしかありません。
もしまだ見ていないならぜひ見てみてください。
決して損はしませんので。




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