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関ジャム「プロが選ぶ年間マイベスト」が相変わらずよかった件


私の楽しみのひとつ、関ジャムの年間ベスト曲の発表が先日ありました。
そして、作詞家いしわたり淳治氏のマイベスト1はTOMOO(ともお)の「Super Ball」でした。

TOMOO|Super Ball

今まではどちらかというと蔦谷好位置氏のマニアックな選曲に共感することが多かったんですが、今回は彼の選択が納得のベスト1だと感じました。


TOMOO:戦わないのは負けじゃない


TOMOOさんのことはほとんど知らずMVも以前に少しだけ見たことがあった程度ですが、この曲の詞がとにかく良くて、胸が熱くなって涙が出そうになりました(泣いてはいません)。

「真四角になれる素質なんて 誰も持っていないのに」
「誰かが今日零した溜息は 氷の礫になって降る
 傘も持たず今君が居るなら 踊る様に並んで歩こう」

そして

「揺れもしない強さなんて 要らない」
「“槍出せ 角出せ”は要らない 丸いまま貫いて」

何かに急き立てられるかのように自分を理論武装し、外向けにきれいに仕立てた悪意を撒き散らすことが、あたかも正当な権利であるかのようにふるまう人ばかりの今、その流れに背いて自分の強さも弱さもありのままで貫き続けたい、というメッセージと私は受け取りました。

TOMOOの「Super Ball」は、そんな大人の悪意に対抗するより、自分の良さを見つめるほうがいいんじゃない?と言っているように感じます。

あとよく考えると、「スーパーボール」って存在自体が謎ですよね。
何に対してスーパーなのか?っていう。
でも、ただのゴムの柔らかい玉なのに弾ませるときのわくわく感はものすごいというのが、大人社会の堅さの対比としてとても映えていると思います。


死の側から生を俯瞰する藤井風


藤井風|花

こちらは川谷絵音氏が第1位に挙げていました。
藤井風ならではの力の抜けた俯瞰目線、シンプルなんだけど独自の表現、良質のポップス的な音などが素晴らしく、当分活躍が続きそうだと感じます。

今回ももちろん納得の順位ですが、この藤井風のオリジナリティがどこから生まれて来るのか考えるため、その思考をなぞってみたいと思いました。


表現者が自らの表現を、外界の何物からの影響も出来るだけ排除した自分だけのオリジナルな視点で作りたいと願ったとき、二つの考え方があるように思います。

ひとつは、純粋な内なる衝動による表現。

内なる衝動は自分の生命力、執念、精神から湧き出る生きる力や、逆にすべてを飲み込み破壊する力だと思います。

古いですが、スティングがいた80年代初頭のバンド、「The Police」のオメガマンという曲からあふれるパンクの影響を受けた破壊的で創造的なメッセージは、リアルタイムではなく後追いで聴いた自分の耳にもはっきりと伝わってきました。


そしてもうひとつが、個人の思惑や状況からの影響を排除した俯瞰的表現。

俯瞰的な表現については、それができるための究極的な立脚点として、宇宙的視点、徹底的にロジカルな視点、そして死の世界から生の世界を覗く視点が考えられます。

LTJ Bukemという、ドラムンベースの創始者ともいわれる90年代の伝説的DJは、リズムを歌の補助的な存在から脱却させ、リズムパートとベースの精緻な構成で音楽を成立させることに成功し、その圧倒的な空間の深さと合理的な構成が宇宙的な印象を与えています。


藤井風の詞からは明らかに「死」という視点の存在が色濃く感じられます。
「死ぬのがいいわ」「帰ろう」など直接的に言及している場合もあれば、「花」のように必ず年老いていく自分を想像して書かれた詞もあります。

死ぬという不変の地点から生を見つめることをまだ26歳の若い人が当たり前のように説得力を持ってやってのけ、それをポップで上質な曲に仕上げ、にもかかわらず辛気臭くも説教ぽくもなっていないというのは凄いです。

私は正直、最初の頃の「帰ろう」「優しさ」のような内向的なイメージから、きっと彼は悩みの多い繊細な若者で、作品のクオリティが不安定で時には迷走しがちなタイプだろうと思い込んでいましたが、いい意味で完全に裏切られました。

ここ最近の藤井風の安定していい曲を出し続けるペースは素晴らしく、ベテラン大物アーティストのような風格さえ漂ってきています。
若いときの黒歴史(あえて言うならアマチュア時代のYouTube動画)も、それはそれでファン目線では貴重でありがたいんですが、逆にそういうものなしに順調に進んでいるのは本当に奇跡的です。

そして最後に、TOMOOやデビュー当時の藤井風に限らず、一般には知られていない良曲やアーティストを定期的に発掘してくれる関ジャムのこの企画が、今後も長く続くことを願いたいと思います。



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