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City Popと藤井風

2021年の紅白歌合戦で世間に大きく認知が広がった藤井風ですが、その前から、ホンダのCMやドラマの主題歌などで知られるようになっていて、好きな人からしたら「ようやく」という感じでしょう。

私もそういう状態で、「何なんw」「優しさ」「帰ろう」「もうええわ」といった初期の楽曲に衝撃を受けたときから、売れる売れないは分からないとしても、洋楽が多い自分の再生履歴の多くを占めるようになっていました。


また私は、関ジャムで川谷絵音も絶賛していた「罪の香り」という、昭和テイストあふれる楽曲に本当に驚かされました。


特にこの曲は、曲調やアレンジが南佳孝や大野雄二といったかつて角川映画を彩ったアーティストを連想させて、

「City Popの80sサウンドだけど新しい感じもする、30歳くらいのすごい新人アーティストが突然現れた」

と本当に思いました。


これらはリアルタイムではなく後で知ったのですが、改めて聞くとものすごい濃密な昭和感ですね…。

みなさんもビジュアルなしの音だけで聞いていただければ、きっとそう感じると思います。少なくとも当時21歳とは思わないはず!
平成に生まれたはずの藤井風から、時間をさかのぼって昭和の良質な大人のポップスを感じたのです。

その後正体を知ってさらに驚くのですが、年齢も若く、ビジュアルやMVの完成度も高く、変な話ですが、良すぎるビジュアルに足を引っ張られて楽曲の良さが伝わらないのではと勝手な心配をしてしまうくらいでした。


新曲「まつり」



藤井風の二面性として昭和歌謡とヒップホップの両方を好んでいると感じられるテイストがありますが、この曲からはそれが今まで以上に強く感じられ、初期の「もうええわ」で垣間見せたヒップホップ大好き感を完全に取り込んだ曲だと思いました。


ちなみにですが、私は「もうええわ」で2番の冒頭をラップで歌った横浜の日産スタジアムでのライブでのアレンジが非常に気に入っています。

なので個人的にはもっとラップしてほしい。それかラッパーとの共演とか見たいですね。m-floとかもいいのではと勝手に想像します。


また同じくヒップホップを感じる「へでもねーよ」という楽曲が新しいアルバム「LOVE ALL SERVE ALL」に新バージョンで収録されていますが、この曲は発売当時のアレンジが他の曲と違う異質な感じで、Youtubeの再生数も少ない状態でした。

しかしそのアレンジをかなり大きく変え魅力を非常に高めていて、彼のこの楽曲へのこだわりを強く感じます。


ロジカルな戦略


またこの新曲には、素の藤井風のおそらく非常にユニークな個性とともに、戦略的にいくつものフックが組み込まれているように私は感じます。
もちろん悪い意味ではなく、それがうまく組み合わさって魅力をさらに高めています。

Yaffle氏やチーム風と呼ばれる周りを固めるメンバーが、藤井風の個性を生かしながら作品を売り出すために知恵を絞っているのだと思います。

① 日本

一目で分かると思いますが、MVの舞台、登場人物、和の楽器などいたるところに日本を感じます。

AdoやMAISONdes「ヨワネハキ」のような和への回帰というか、和に新しさを感じる人々が多くいて、歌詞からも感じられる(今の若い世代はもう知らない)日本の懐かしさを演出しているように感じます。

② ダンスとファッション

意識して「うつけもの」感を出そうとしているように思います。うつけものとは織田信長のような派手好きな革命者で、この曲の歌詞から連想される「心の中の自由を取り戻そう」というメッセージを体現しようとしている、と私は思いました。

③ 「まつり」とは

祭り、祀り、政(まつりごと)。祝うこと、ほめること、大事にすること、自由でいること、自律することと読み取りました。

前作の「燃えよ」でも形は違えど同じメッセージが込められていたように思いますが、静のイメージの楽曲でより多くの人に受け入れやすいよう工夫されていると感じました。


まあ、そんな理屈が本当にあるかは分かりませんが、それらを超えた楽曲と個性の魅力があるので、もしまだフルで聞いていない人がいたら、ぜひお聴きください!


City Popが、昭和の良質な音楽をNight Tempoのような目利きが今の新しい音楽に乗せ換えたことで多くの人に再発見されたように、藤井風は、平成生まれから見た過去の良質な音楽を吸収し、なつかしいのに新鮮、という新しい切り口を私たちに提示してくれているように思います。

まだまだこれから楽しみですね。


[マガジン] 平成って何だったの? こちらからもぜひお読みください!

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