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アスリートの引き際 - ルイス・ハミルトン
自動車レースの最高峰はフォーミュラ1、F1ですが、今年も3月20日に開幕し、1年で20戦以上世界を回って戦います。
私は1990年前後、セナのいた頃のF1ブームからのファンですが、その後あまり興味がない時期もありました。
しかしここ数年は世界的に非常に盛り上がっていて(日本を除く・・・)、毎週DAZNで楽しんでいます。
そこで、ルイス・ハミルトンというF1ドライバーに触れないわけにはいきません。
彼は2007年(平成19)にF1デビューし、前人未到の103勝、予選最速(ポールポジション)も103回など数々の記録を作り、現在37歳で計7回のチャンピオン(M.シューマッハに並ぶ1位タイ)となっています。
もうすでにレジェンドの域に達している、憎たらしいくらいに強いドライバーなのですが、なんと今年のF1では大苦戦しています。
ハミルトンは、去年の最終レースのしかも最終周で、同点でチャンピオンを争っていた13歳も年下のマックス・フェルスタッペンに歴史的な逆転負けを喫し、そのショックから引退までささやかれていました。
もちろんそんな逆境には負けず今年もレースを続けているのですが、何か以前のような強いモチベーションを感じません。
さらに今年からF1はルールが大きく変わり、各チームがマシンを設計し直したのですが、ハミルトンが乗るメルセデスチームの開発が失敗し、そのせいで4/24の第4戦は13位という見たことがない順位に沈みました。
今までの彼からすると信じられないことが起きています。
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カーレーサーはアスリート
カーレースは座ってハンドルとペダルを操作するだけの競技ではなく、時速300km超えの加減速のコントロール、恐怖に勝つ精神力、動体視力、持久力、冷静な判断力という、鍛え上げられた人だけが戦える世界です。
そのため、他のアスリートと同様に年齢や体力的なピークがあります。
ちなみに各競技のピークは、女子の体操やフィギュアスケートが10代、サッカーが20代後半。マラソンは30代でも活躍でき、ゴルフは40代以降でも十分戦えるようです。(もちろん例外はあります)
ではF1はというと、年間チャンピオンを初めて獲得した年齢の平均は30歳で、ある程度の経験を積むことで強くなる競技だと言えますが、多くの場合35歳を超えると成績が伸びなくなるようです。
競技継続の障壁
スポーツのレジェンドが衰えて引退への道を向かうとき、肉体の変化と、競技環境・ルールの変化の両方が彼らを襲うのだと思います。
F1の場合はどうでしょうか。
① 抗えない身体の衰え
車の運転に欠かせない動体視力は、40歳代から急速に衰え始めます。
20代のピーク時に約0.8ある動体視力は、なんと70代では0.1になってしまうそうです。
F1ドライバーは一般人とは比較にならない高いレベルの動体視力を持っていますが、それでも30代後半には衰えはじめ、ほんの少しのレベル低下でもトップを維持することが難しくなるのではないでしょうか。
特に速度が高い競技でそれが顕著に表れるようです。
野球のイチローも視力の衰えや老眼に苦しんでいたという話があり、どれだけ体を鍛えてもいつか必ず衰えていきます。
② 速すぎる技術の進化や変化
世界各国の自動車メーカーやレースチームが技術を常につぎ込むF1では、数年おきに技術革新が起きて勢力図が入れ替わります。
1990年代、平成の初めごろまでに、ホンダを筆頭にF1マシンにコンピュータ制御が全面的に導入され、職人が手作りしていた過去の技術は世界的な大メーカーの最新技術に置き換えられました。
さらに2000年代になるとマシンの開発から管理の多くの部分に最新のIT技術が導入され、技術革新の速度が大幅に向上しました。
その結果、あるサーキットでは2016年から2020年の4年間で、1周のタイムが何と5秒も速くなりました。
F1を見ている方なら分かると思いますが5秒というのは絶望的な差です。
(トップは1周0.1~0.3秒くらいの間で争っている)
そのような変化に対し常にキャッチアップし続けなければ、例えチャンピオンでもすぐに置いていかれてしまいます。
現代のテクノロジーの進化と変化の速さは、一般社会と同じようにF1にも大きな影響を与えていて、特に2000年代以降はその変化が顕著です。
今のF1のステアリング(ハンドル)には何と24種類の表示とボタンが付いていますが(マシンにより多少異なる)、そのような複雑な技術の下で育った20代前半の世代が台頭しており、ただでさえ体力が低下しつつあるベテランには非常に厳しい状況です。
まるでスマホネイティブのZ世代とパソコン主体のベテラン世代との対立のようなF1の世代間バトルの中で、果たしてルイス・ハミルトンは生き残れるのか?ベテラン世代の私も注目していきたいと思います。
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