名も知らぬ君へ
GOOD COMIC CITYお疲れ様でした。
私事ではありますが、実に2年ぶりのイベント参加でした。
2年も空くとなると、色々様変わりします。
スペースの顔ぶれとか、一般参加者の顔ぶれとか、ジャンルの盛況具合などなど。
そういうわけで、若干の浦島太郎気分を味わいながらのサークル参加でした。
結論から言うと本当に楽しかったです。
さて。
私個人の話をしますと、ここ2年ばかし(あるいは3年弱)同人活動がほとんどできておりませんでした。
理由は明白で、仕事が忙しかったからです。
当時、私は書店員でした。
長年勤めた店舗が閉店になってしまい、あまりの過酷さに人員が頻繁に入れ替わる魔境店へと異動になりました。
魔境店での出来事は書き始めると横道にそれてしまうので割愛しますが、『魔境店』と呼んでいる時点で多少お察しいただければと思います。
サービス残業、休日出勤は当たり前。治安はお世辞にも良いとは言えず、店内禁煙にも関わらずタバコを吸い出す人、タバコの吸い殻を本の上に捨てる人、自転車で店舗に突っ込んでくる人、店員に刃物をちらつかせる人、店内にむき出しの筑前煮を落としていく人など、数多の客と出会いました。
そういうところに長年務めている店長はとっくに不可逆的悪堕ちしており、店員をケアすることなど到底できるはずもなく、私は2年足らずで体も精神も病んでしまい、退職しました。
だいたい異動したあたりから小説が書けなくなりました。
そんなこんなで転職をしました。
次の仕事は勤務形態はホワイトだけれど仕事内容がまあまあ苛烈な仕事でした。心機一転がんばるぞー、と思っていた私でしたが、魔境で蝕まれたHPとMPがそうすぐに回復しているはずもなく、入社から半年後に始まった夜勤で体調を崩し、働けなくなりました。
この辺からメンタルがゴミになっておりました。
小説を書くどころか、小説を読む事すらできなくなっていました。
病院に通って処方箋をもらって薬を飲んだりリハビリをしたりしておりましたが、一向に良くなりませんでした。
そんな中、友人たちがTRPGに誘ってくれたのはとてもありがたいことでした。あれがなければ私はもっとダメになっていたと思います。
閑話休題。
そういうわけで私は小説が書けなくなっていました。
CoCシナリオを書いたりはしていましたが、骨格は書けても肉付けはできないような状態でした。
自己嫌悪に拍車がかかり、なんとか書こうとする度に些細なことでポキリと折れてしまって結局書けない日々が続きました。
ちょっとこのままじゃあダメだなと思いました。
よし、締め切りを設けよう、と思いました。
締め切りを設けたら、無理にでも書かなくてはなりません。
私は今回のイベントに申し込み、ずっと手付かずだった新刊を書き始めました。
執筆作業は難航し、結局その原稿は落としてしまったのですが、ここで諦めたら私は一生何も書けない気がしたので、再録本という形で無理矢理新刊を出しました。
そうやって、今日というイベントの日を迎えました。
緊張のあまり、昨日は全く眠れませんでした。カビゴンの周りでポケモンたちがとてつもなく眠そうな顔で私を見ていました。ごめん。
ド緊張のままスペース入りをしました。
前回のイベントでスペースに来てくださった方は3人だったので、「今日は3人以上の方が自分の本を手に取ってくれたらとりあえず自分を褒めてあげよう」と思いながら設営をしました。
結果は、思いのほか多くの方がスペースに足を運んでくださり、私の本を手に取って下さいました。
この場を借りて、改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
今日、スペースに一人の女の子がやってきました。
売り子さんと二人で、きっと中学生くらいかなあという話をしていました。
幼さの残る彼女は、小銭を握りしめて震えながら私のスペースへとやってきました。
「いりさんですか?」
震える声で聞かれました。そうですと答えると
「あなたの小説はすらすら読めるんです。大好きです。ありがとうございます」
と、震える声で言われました。
耳を疑いました。あとで売り子さんに確認をとったので、幻聴ではなかったようです。
まだ多少マスク社会で良かったなと思いました。不細工な泣き顔を晒さずに済んだので。
あの時の、名も知らぬお嬢さんへ。
おそらくあなたは勇気を振り絞って、当スペースに足を運び、そして私に声をかけたのでしょう。本当にありがとうございます。
あなたのまっすぐな言葉のおかげで、私は今とても心穏やかです。
当初予定していた新刊を落としてしまいごめんなさい。けれど、あなたのおかげでもう私は大丈夫です。今ならどこまでだって何だって書ける気がします。
あなたの勇気が私を救ってくれたのです。本当に本当にありがとうございます。
いりさんより。
今後のことは何も決まっていませんが、また前向きに頑張れるようになりました。
けれどもいつかまた心が折れることがあるかもしれないので、そのときに今日のことを思い出したらきっと幸せになれるので、忘備録として今日のことをnoteに残します。
これを読んでいるいつかの自分へ。
私は、大丈夫だよ。
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