10.
「人の名を名乗ると言うことは、あなたは妖なのだろうか」
猫教授の言葉に坂井さんは頷く。
「ちゃんと人間に見える?」
坂井さんはこんなことを言うけれど、どこからどう見ても人間にしか見えない。
僕と猫教授がそういうことを告げると坂井さんは嬉しそうに笑った。
「本当? よかったぁ。俺さ、化けるの下手だってよく言われるんだよね。妖気っていうか、今様の言い方をすると”オーラ”っていうの? なんかそういうのがダダ漏れだってさ」
坂井さんはそう言うけれど、残念ながら僕はオーラなんて生まれてこのかた見たことがなかった。
「吾輩はまだそういうのに疎くてな」
猫教授もそんなことを言いながらデザートのマンゴープリンを口に入れる。
「俺としてはその方がありがたいよ。俺の本当の名前を知っている奴らは、みんな俺を遠巻きにするもの」
……もしかして坂井さんは悪い妖怪なのだろうか? とてもそうは見えないけれど。
僕がそんなことを考えていると
「もしかすると坂井さんは悪い妖怪なのかね」
と猫教授がど真ん中ストレートの球を放り投げた。
すると坂井さんは笑って
「見ようによってはそうかもね」
と答える。
「それはどんな存在にも言えることだろう」
猫教授が言った。
「それもそうか」
坂井さんはなんだか嬉しそうだ。
僕はふと店内のあちらこちらに設置された砂時計に目をやる。
幸いなことに砂はまだ半分ほど残っていた。
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