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【考察】 # 4 四家に対する # 15島谷のコンタクトはアンスポーツマンライク・ファウルに当たるのか

※本記事は誌面のスペースの関係上、敬称略といたします。あらかじめ御容赦ください。
※サムネイル画像は、先日プロ・レフェリーになった阿部聖さんです。(ご活躍、陰ながら応援しています)

2023/11/7 宇都宮ブレックスHOMEのレバンガ北海道戦において、レフェリーのジャッジに対して疑問が生じたシーンがあったので、調べた範囲で検証いたします。

シーン紹介

 今回取り上げたいのが、# 4 四家が出血してレフェリーが止めたシーンです。(4q 残り6:24)
 まず、選手が出血しているのでレフェリー・タイムが発生しました。この事象については、よく見られるシーンであり、ルール上も自然だったように思えます。
 このレフェリー・タイム(出血が生じてプレイ続行ができなくなったことに対するタイム)に対して、宇都宮ブレックスの佐々HCがヘッドコーチ・チャレンジを要請し、それをレフェリーが受け入れたことに対して疑問に思ったことが2点あります。

①  一度ノーコールになった判定を遡ることができるのか
②  # 15 島谷の左手が #4 四家に当たった事象は暴力行為に該当したのか 

疑問1 ノーコール判定が覆ることはあるのか

 JBAのプレーコーリング・ガイドライン(2023)によれば、「審判がノーコール(ノーファール)とした暴力行為に対してチャレンジを請求」した場合に、これはヘッドコーチチャレンジの要件を満たすと記されています。理由は「IRS対象のため」とのことです。
※IRS= インスタント・リプレー・システム

 以下、参考までにJBAのレフェリー判定記事より引用です


JBAプレコーリング・ガイドライン 2023年版

ヘッドコーチチャレンジを請求する場合の手順(14ページ目)
❶ 審判によるIRSを使用する際に規定されている項目のみがチャレンジの対象となる。
❷ 審判がファウルやバイオレーションを宣した事象、かつIRSの使用が認められている項目以外はチャレンジの対象外。
(成功したショットがショットクロックバイオレーションかどうか、暴力行為の可能性についてはノーコールの場合でも対象)
- 審判がブロッキングと判定したケースに対してチャレンジを請求 → 不可、IRS の対象外のため。
- 審判がノーコール(ノーファウル)としたプレーに対してチャレンジを請求 → 不可、ファウルを宣していないため。
- 審判がノーコール(ノーファウル)とした暴力行為に対してチャレンジを請求 → 可、IRS 対象のため。
❸ IRSで規定されている時間帯の制限は適用されず、ゲーム中あらゆる時間帯でチャレンジを請求できる。
- 1Q 5:00 でボールをアウトオブバウンズにしたプレーヤーの特定するためにチャレンジを請求 → 可、HCC は時間帯の制限はないため。
❹ ヘッドコーチは最も近い審判に対して大きな声で「チャレンジ」と言い、同時に定められたHCCのシグナルを行う。
❺ チャレンジの請求期限は、事象が起きてから審判が何らかの理由でゲームを止め、次にボールがライブになるまで。
❻ 審判によって一度チャレンジの請求が認められた後はその請求を取り下げることはできない。

http://www.japanbasketball.jp/files/referee/rule/5on5_Guide20230629.pdf?fbclid=IwAR3HEAAD0gDxHmgbkunJ46PwfYPr3dkqV17KSfpngCuBO1_EsfqD616EHVg


 以上から、佐々HCのヘッドコーチチャレンジはルール上、妥当であるという判断になります。請求期限も上記ルール内の活用であり、適切だということが分かります。

疑問2 当該するコンタクトが暴力行為に相当するか

 続いて、インスタント・リプレイをした結果、「# 15 島谷の# 4 四家に対するコンタクトが暴力行為に値し、アンスポーツマンライクファウルに該当する」というジャッジに至ったことに対する疑問です。

 アンスポーツマンライクファウル(以下、UFと表記します)の項目は、ガイドラインの7-8ページに記載されています。(他の項目と比べるとUFの項目は分量が多いです。)
 UFには、4つの判定基準(=クライテリア)があり、それぞれ、「C1」「C2」「C3」「C4」と分類されています。起きた現象(=これをアクションと呼びます)のみで判定を行い、それが故意かどうかの意図は上記4つの判定基準を適用する上で考慮しないと明記されています。これは、従前の「インテンショナル・ファウル」と明確に区別させるための記述だと考えられます。

 今回のコンタクトについては、C2(クライテリア2)に該当します。C2は「プレイヤーがボールや相手に正当にプレイしようと努力していたとしても、過度に激しいコンタクト(エクセシブハードコンタクト)」に対して適応されます。

・手・腕・肘・膝・脚などによる首から上に対して過度に激しいコンタクトに対しては故意かどうかに関わらず、そのコンタクト度合いと程度を判断しC2を適用する。

 今回のUFは、この記述箇所が根拠になったと思われます。他方、パーソナルファウル(いわゆる通常のファウル)に該当するケースも存在します。

【例外事項】パーソナルファウルに該当するケース
UFのクライテリアと判断した場合の中に、パーソナルファウル(首から上へのコンタクトなどでも)と判定するケースがあります。
1.通常のバスケットボールの動きの中で起きてしまうコンタクトで、過度なインパクトを伴わないもの
例1) ショットのためにおこしたアップモーションの一連の動きのなかで起きてしまったコンタクトなど
例2) リバウンド時に、お互いに絡み合って手や肘が当たってしまったものなど
2.インシデンタル・コンタクト(エルボースティングや、WIFを伴わないもの)
バスケットを普通にプレーする中で、不可抗力で起きてしまったコンタクトと判断されたもの

参考文献)

 今回のシーンでは、# 4 四家のドリブル保持を # 15島谷がベンチ側のサイドライン方向へクロスステップで追いかける際に、挙上していた島谷の左上肢が視界外からスクリーンに来た# 42 フォトゥ選手に当たってしまいました。その結果、島谷の左手が不可抗力的に# 4 四家の顔面に当たってしまったという現象です。(フォトゥのコンタクトが無ければ発生していなかったと推測されます。) 
 この一連が上記の「インシデンタル・コンタクト」と見なされなかった、という判断だと解釈いたしました。この疑問については、UFと判定されるケースの中で例外事項としてパーソナル・ファウルに該当するか否かが論点になりそうです。(素人目には「インシデンタル・コンタクト」と見なし、インスタント・リプレイの結果、通常のパーソナル・ファウルとして処理するという判断の方が適切のようにも思えました。ライセンスをお持ちの方に意見を伺ってみたいところです。)

結語

 このような判断を緊迫した試合の中、限られた時間の中で下すとなると、確実な知識と起こった事象の正確な把握とが前提となります。素人が遠目に見て、反射的に「UFだ!」「UFなのはおかしい」と叫ぶのは、やや軽率な行為のように思えました。
 見ている側も、バスケットボール競技のルールを勉強することが重要ですし、今後はレフェリーやリーグ側から「なぜその判定になったのか」という情報公開(即時的/事後にかかわらず)をしていただけるような仕組みが出来たら見ている方も納得感が増すと思いました。

 Bリーグの人気が高まっている中で、観客の数が増え、ファン層にも多様性が生じているのが体感として分かります。その中で審判のジャッジに対する陰性感情は、プレイヤー・ベンチスタッフだけではなく、観客・視聴者にまで及び、リーグが抱える課題の一つだと考えています。
 プロレフェリーも4名に増え、今後も後続者が育成されていくことが予測されますが、個々の能力だけではなくリーグとして、あるいはブースターとしてレフェリー醸成の文化を支えていきたいと思いました。

文:アズマリュウセイ
写真:民谷健太郎

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