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『学校で起こった奇妙な出来事』 ①

① 「自殺中継」


 全12話

       ① 自殺中継
       ② キャスティング選挙
       ③ 教頭をやっつけろ
       ④ Who is くそったれ
       ⑤ ゾンビ便所
       ⑥ 学校が燃えた夜
       ⑦ 十代の不吉な予兆
       ⑧ 廊下でダンス
       ⑨ ひりひり、からから
       ⑩ そして夏休みがやってきた
       ⑪ 新学期の視線
       ⑫ 落ちこぼれ

 3年D組の登場人物

   ・落ちこぼれ二人組     ジュンこと金森淳
                 テツボーこと佐伯哲男
   ・快活な女の子       A子こと長瀬叡子
   ・清純な女の子       書記長こと篠川久美
   ・よくいる優等生      カイチョウこと河野純一
   ・体育会系アイドル女子   トーテキ姫
   ・風変わりな女子転校生   フォロー中
   ・能天気くん三人組     ハカイシ
                 クッパ
                 ザッカヤ
   ・いじめられっ子三人組   玉キン
                 アホ賀
                 大タコ
   ・仲良しライバル二人組   スタンダリアン
                 ビーダマイヤー
   ・わが道を行く二人組    ケイリン
                 オキナ


○  空

    爽やかな5月の朝。

    初夏の空気がみなぎる。

    霞がかかった青い空に白い雲が一つ、珍妙な形をして浮かぶ。

    その空を一人の少年が横切っていく。

    一瞬、まるで空を飛んでいるかのよう。

    3年D組の金森淳が跳躍し、学校の塀を飛び越えていく。

    続けて、同じように佐伯哲男が塀を飛び降りてくる。

    ちょっとつまづき気味で、不恰好。

○  中学校・全景

    古くからの街並みと新興住宅街がある丘陵地。

    その間にある、神奈川県北西部の〇〇中学校。

○  通学路

    登校してくる生徒たち。

    三々五々に歩くごく普通の風景。

○  裏山の草地

    金森と佐伯が陽を浴びながら寝そべる。

    グラウンドを半分ほど見渡すことができる二人のさぼり場所。

    朝の陽射しがふりそそぎ、薫風が気持ちよく睡魔を誘う。

    早朝練習をするサッカー部。

    その声が風に乗って聞こえてくる。

 佐伯哲男 「あいつら、張り切ってるなあ。試合を前にすると燃えてくる      
       のかな」

    ちらりとグランドへ目をやる金森。

 金森淳  「いいね。……どうでも」

 佐伯哲男 「ほかの部活の連中より有望らしいじゃん」

 金森淳  「だから、どうでもいいのさ」

 佐伯哲男 「そうだよなあ」

    お互い、それ以上言い合うつもりはない。

    木々が揺れ、ひんやりとした空気の塊がやってくる。

 金森淳  「上着を持ってくるんだった。鞄もいい枕代わりとなったかも 
       しれない」

 佐伯哲男 「たまに早く登校するのもいいもんさ。教頭の生活指導につか
       まったら面倒だからね」

 金森淳  「風邪をひいてもか」

 佐伯哲男 「まっさきにここまで飛んできたのは、そっちだからな」

 金森淳  「朝っぱらから、ほかにどうやって暇をつぶせばいい」

 佐伯哲男 「俺はここ気に入ってる。朝の景色はいいもんさ」

 金森淳  「うれしいね」

 佐伯哲男 「この微妙な空気の肌合いを、全身で感じてみるんだ。陽射し
       は気持ちいいじゃないか。頭を空っぽにしろ。腕を広げて、
       この風を力いっぱい抱きしめてやれ」

 金森淳  「聞いたふうなせりふだな」

 佐伯哲男 「ジュン、このまえ自分が言ってたんだよ」

○  通学路

    校門先にある坂となった三叉路。

    生徒たちの姿がそこで膨れ上がる。

    道沿いに並ぶ文房具屋をかねた書店、みすぼらしいスポーツショッ
    プ、食堂をかねた駄菓子屋など。

○  正門

    朝の挨拶をしながら門を入っていく生徒たち。

    と、竹刀を持った教頭の声が響きわたる。

 海老田洋 「没収!」

    3年C組の生徒、ヤブが青ざめて立っている。

    持ち物検査だ。

 海老田洋 「本当に風邪薬なのか」

 ヤブ   「6時間おきに飲めるよう、分けて持ち歩いてるんです」

 海老田洋 「妙な包み方をしてるじゃないか」

 ヤブ   「そういう性格なんです」

 海老田洋 「なおさら怪しいやつだ。却下!」

 ヤブ   「そんなあ」

 海老田洋 「それで死にはせんだろ。服用するときは職員室へくるんだ」

    かたわらを足早に歩く一人の女子生徒。

 海老田洋 「おい長瀬、ちょっと待て」
    と首をひねり、男子生徒にもう行けと手を振る。

 長瀬叡子 「何か問題でもあるんでしょうか」
    と、地団駄ふむように体を回転させる。

 海老田洋 「食ってかかるような言い方だな。いい天気じゃないか。朝の
       挨拶ぐらいしたらどうだ」

 長瀬叡子 「……おはようございます」

 海老田洋 「うん、おはよう」

 長瀬叡子 「では、もう行っても」

 海老田洋 「だめだ。こっちへこい」

    苛立ちまじりに髪を掻きあげる叡子。

 海老田洋 「その悩ましい仕種はよすんだ」

 長瀬叡子 「そんなつもりありません。どうして呼び止められるのか疑問
       なだけです」

 海老田洋 「やはり、染めてるんじゃないのか」

 長瀬叡子 「これは私の地毛。いつも同じこと言わせないでください」

 海老田洋 「金森と佐伯はどこだ」

 長瀬叡子 「そんなこと私が知るわけないでしょ」

 海老田洋 「一人なのか」

 長瀬叡子 「見ればわかるじゃないですか」

○  階段の踊り場

    告知板に模擬試験、遠足、球技大会を知らせる貼り紙。

    その横にPTA総会での教頭の講演を伝える学校新聞。

    “信頼を我らに”という見出しが“下着を我らに”と書き換えられる。

    余白にはパンツをかぶった教頭の似顔絵。

    あきれながらも、くすくす笑って読む叡子。

    と、下級生らしき数人の女子が駆け降りてきて、叡子とぶつかる。

 長瀬叡子 「キャッ」

    あやうく倒れかけ、背中を壁に打ちつける。

    振り返ると、一人が下の階で申し訳なさそうに頭を下げている。

    髪の長い女の子(1年生の新井裕子)だ。

 長瀬叡子 「あのさ」

    言葉をかけようとしたとたん、逃げるように姿を消す。

○  廊下

    校内に始業準備のチャイムが鳴り響く。

    急ぎ足で教室へ向かう生徒たち。

○  放送室・前

    頑丈そうなドアの上に“ON AIR”を示すランプが点灯。

○  同・副調整室

    タイマーによって機器類に電源が入る。

    動画データが再生されるようだ。

    モニターに暗い部屋が映り、ナレーションが流れはじめる。

 N    「……おはようございます。こちらは放送特別委員会です。休
       止されている“朝のかたとき”にかわり、只今より臨時番組を
       お送りします。モニターのスイッチを入れてください」

○  裏山の草地

    のんびり寝そべる金森と佐伯。

    二人とも両手を頭にやり、うっつらと空を眺めている。

 N    「……今日の天気は五月晴れでしょう。日柄もよく中庭のツツ
       ジも満開で、爽やかな一日となりそうです」

○ 3年D組

    肩を押さえ、北校舎4階の教室の入口へくる叡子。

 ハカイシ 「オッス」
    と背後から肩を叩き、飛び込んでくる寺の一人息子ハカイシ。

    思わず顔をしかめ、彼の後頭部を叩き返そうとする叡子。

    が、再び痛みが走ってドアに寄りかかる。

 N    「……これから5分間『中学生における免疫不全症候群/その
       症例と問題点』と題し、重要な研究報告をお届けします。鑑
       賞の準備はよろしいでしょうか」

    怪訝そうに顔を上げる教室の生徒たち。

○  職員室

    まじめな顔をして教頭の訓示を受ける職員たち。

    ここに放送は流れていない。

○  放送室

    暗闇のなか機器類のランプが浮かび、小型モニターに人の姿。

    オフとなった職員室へのスイッチ。

 N    「……発表は3年D組の、今は亡き玉城敏夫くんです」

○  3年D組

    画面に登場したのは、二週間前に自殺した玉城敏夫。

    驚いた生徒たちがモニターの前に集まってくる。

 長瀬叡子 「えっ、どういうことなの」
    と、教室を見まわすように。

 ザッカヤ 「玉キンが映ってる」
    と、やっていたゲームを中断し。

 クッパ  「だってあいつ、自殺したんだろ」
    と、好物のトウガラシをくわえ。

 ハカイシ 「やっぱ、生きてやがったんだ」
    と、女子生徒のノートを写し取りながら。

 オキナ  「本当かい」
    と、観葉植物を抱えて。

 ケイリン 「すごい実況力だ」
    と、なぜかジャージ姿で。

 トーテキ姫 「何ごとも圧トーテキがいちばん」
    と、砲丸を投げるふり。

 フォロー中 「この学校ってこうなんですか?」
    と、トーテキ姫の後ろの席で。

 ビーダマイヤー「大騒ぎして損したぜ」
    と、指相撲をしつつ。

 スタンダリアン「生きててよかったじゃないか」
    と、その相手をつとめる。

 長瀬叡子 「いったい、どういうことなの」

 ザッカヤ 「元気そうだね」

 クッパ  「確かに生きてる」

 ハカイシ 「俺たちをだましやがったんだ」

 オキナ  「本当なの」

 ケイリン 「どうやって」

 トーテキ姫 「圧トーテキだわ」

 フォロー中 「いつもこうなんでしょうか?」

 ビーダマイヤー「うまくハメられたもんだぜ」

 スタンダリアン「たいした度胸じゃん」

 ハカイシ 「許せねえやつだ」

 アホ賀  「違う!」
    と、かつての仲良しをかばうように大声で叫ぶ。

大タコ  「彼は死んだんだ!」
    と、それに同調して声を荒げる。

アホ賀  「きっとこれは録画したもので」

大タコ  「遺言にちがいない」

長瀬叡子 「えっ、どうなってるの」
    と、みんなの顔を見やる。

ザッカヤ 「ということは」

クッパ  「自殺の録画中継?」

ハカイシ 「ドヒャーッ!」

長瀬叡子 「いったい、どうなってるのよ」
    と、不安げな表情で繰り返す。

    全員がモニターを見守る。

    じっと目を凝らす。

○  モニター画面・イメージ

    厳粛な面持ちの玉城敏夫。

    バトンから吊るされたロープ。

    ジャンプする足。

    揺れる壁。

    めくるめく宙ぶらりんの世界。

    鳥の鳴き声のような異様な音がかぶさる。

○  裏山の草地

    ずっと寝そべる金森と佐伯。

    霞がかかった青空に現れる雲の一群。

    黒い一羽の鳥が飛んでいく。

 佐伯哲男 「変ちくりんな雲だな」

    気がなさそうにうなずく金森。

 佐伯哲男 「いまごろ、みんなどうしてるかなあ」

    黙っている金森。

 佐伯哲男 「そろそろ戻ろうか」

    金森は身動きひとつしない。

    むくむく膨らんくる上空の雲。

    だんだん人の顔面に似てくる。

 佐伯哲男 「ん?」

    びっくりして跳ね起きる佐伯。

    雲が突然、にっこり笑う。

佐伯哲男 「お、おい、見たかよ! 雲が笑いやがったぞ」
    と、上半身を起こして空を見上げる。

 佐伯哲男 「しかも、玉キンの顔そっくりなんだ!」
    と、懸命に指をさす。

    が、金森はよだれを垂らしたまま。

    夢を見ているのか、歯茎を出してにやっと笑った。



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