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中小企業・個人は、『意匠』をどんどん取るべき

40代弁理士の石川です。ゴールデンウイークの中日の今日は、「中小企業・個人は、意匠をどんどん取るべき」と題して書きます。

令和元年に改正され令和2年4月1日から施行された改正意匠法は、元々意匠法が持っていた優位性に加えて、さらにユーザーフレンドリーな改正が加えられ、中小企業・個人に適したツールとなりました。でも、世間一般からの認知は、十分とはいえません。

意匠の優位性や改正後のメリットについて、改めて説明していきます。

1.費用面での優位性について

意匠は、特許・実用新案に対して、比較的に安い費用で出願・登録まで持っていくことができます。

なぜなら、特許・実用新案には、願書に明細書と呼ばれる文章を添付する必要があるのに対して、意匠には明細書が必要ないからです。特許の明細書がどのようなものであるかについては、下記拙稿をご覧いただければと思います。

そして、明細書作成には、それなりの時間がかかってしまうので、我々弁理士の手数料もそれなりの金額になってしまいます。安い事務所でも最低20万円くらいはかかってしまうのではないでしょうか。

意匠であれば、願書は作成しますが、明細書を作成する必要がありませんので、特許・実用新案に比して安い費用で出願までこぎつけることができます。

また、審査請求費用がかからないことも非常に大きなメリットです。特許の場合、権利化までに審査請求という手続きが必要です。この審査請求が中小企業・個人には結構な負担であり、20万円弱の費用(特許庁印紙代)がかかってしまうこともざらにあります。

そうすると、特許を選択すると、権利化までに、最低でも、明細書作成20万円+審査請求20万円弱=40万円弱の費用が必要になります(中間処理費用を考慮せず)。

それに対して、意匠登録出願の場合には、特許出願よりも低額に事務所手数料を設定している特許事務所がほとんどであると思われ、審査請求もないので、意匠願書作成10~15万円で権利化までもっていくことができます(中間処理費用を考慮せず)。

このように、意匠を選択すれば、資力に乏しい中小企業・個人でも、無理なく知的財産権を保有することができます。これは、大きなメリットといえるのではないでしょうか。

一方、特許を取得するとなると、40万円弱の費用が必要となり、中小企業・個人にとってはかなりの負担になってしまいます。

また、見落としがちですが、権利を維持するための年金(特許庁印紙代)も、特許よりも低額であるので、資力に乏しい中小企業・個人にとっては、権利維持のための負担を抑えることができるメリットがあります。

2.権利の安定性について

意匠の優れている点として、権利の安定性を挙げることができます。要するに無効になりにくく、権利行使にも強い権利であるということがいえます。意匠の権利行使の優位性については、下記拙稿をご覧いただければと思います。

一方、これまで、中小企業・個人が取るべき知的財産権の代名詞として、実用新案がありました。

こちらは、簡易版の特許と言えるのですが、近年、全く法改正がなされておらず、時代遅れとなっている感が否めません。

正直、意匠がこれほどユーザーフレンドリーに改正され、低額の費用で権利が持てるのに対して、実用新案は出願までにある程度の費用が必要(特許と同様に、明細書作成に最低でも20万円程度)になってしまい、弁理士が実用新案をあえてお勧めする理由がありません。

実際上、実用新案で権利行使をするには、実用新案技術評価を特許庁から取得する必要があり、取得した評価書が否定的な内容(権利の有効性を否定する内容)の評価書になってしまった場合には、実質的に権利行使の道が閉ざされてしまいます。

これに対して、意匠は、低額の費用で知的財産権を取得できるだけでなく、権利が安定で、権利行使にも耐えうるコスパの良い権利であると言えます。

3.権利取得の容易性

意匠法には、進歩性という考え方がなく、基本的に新規性があれば登録できるという考え方があります。審査基準では、創作非容易性が必要となっていますが、いわゆる限定列挙であり、特許で必要とされる進歩性レベルでの工夫が求められることはありません。

よって、技術力がまだまだ十分ではない中小企業・個人でも、最初のステップとして、意匠権を取得するというのは、十分に意味のあることです。

まずは、意匠を取得することで、事業の飛躍の足掛かりとし、いずれは、特許取得というように、段階的にステップアップして行けばいいのです。

ECサイトやホームページに、意匠権取得済みと書けることは、非常に大きなアドバンテージであり、大きな宣伝広告効果や他社けん制効果が見込まれます。

いずれ、時代が追い付いてくれば、特許権と同様に、意匠権取得によって中小企業の価値が向上し、融資を受けやすくなったりする日がくるのも時間の問題と思われます。

4.権利の存続期間も長いこと

意匠のもう一つのメリットは、長い存続期間を確保できるということです。出願日から25年というのは、特許よりも長期の保護が与えられるということです(特許は、出願日から20年)。

実質的に無期限である商標や、著作権(著作者の死後70年)にはかないませんが、それでも25年の期間を確保できれば、ロングライフになりうる製品に対する保護期間としてはかなり魅力的です。

それに対して、実用新案権の存続期間が、出願日から10年というのは、保護期間として見劣りするものがあります。実用新案法の改正が待たれるところです。

5.意匠権の権利範囲の狭さを関連意匠や部分意匠でカバーできる

さらに、令和元年改正(令和2年4月1日施行)の改正意匠法により、最初の出願から10年以内であれば、関連意匠の後出しが認められるようになりました。

これまで、意匠の問題点として、1個の意匠権の権利範囲が狭いという点があったのですが、バリエーションの意匠を後から追加的に出願していくことによって、意匠権の束を形成し、効果的に他社けん制をできるようになりました。他社がやってきそうな回避案を、バリエーションの意匠として後から出願することで、効果的に模倣を避けることができるようになりました。

この改正によって、意匠権の束を形成することで、権利範囲の狭さを克服できるようになりました。これは、改正意匠法における大きなメリットです。また、部分意匠制度を活用することで、ある程度の広さを有する意匠権を形成することもできます。

意匠の束や効果的な包囲網の作り方、部分意匠としての要素の抽出のやり方は、弁理士にノウハウがありますので、意匠を取り扱っている弁理士に相談してみてください。

6.まとめ

以上のとおり、改正意匠法には、費用面での優位性、権利の安定性、権利取得の容易性、権利の存続期間の長期性、権利範囲の狭さの問題の解消、について、それぞれメリットがあることを説明させて頂きました。

中小企業の経営者や、個人事業主の方には、是非とも、この使いやすくなった意匠制度を活用され、自己の事業の飛躍の足掛かりとして頂ければと思います。

弁理士は、中小企業・個人の方の事業の発展に貢献することができます。


弁理士の石川真一のフェイスブック
facebook.com/benrishiishikawa

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