意匠・特許の長所を生かした戦略的活用方法
40代弁理士の石川です。今日は、意匠・特許の長所を生かした戦略的活用方法と題してコメントします。
意匠法は、令和2年の大改正によって、関連意匠の後出しが認められるなど、大変にユーザフレンドリーな法律になりました。そこで、このように使いやすくなった意匠と、これまでも有効だった特許とをうまく組み合わせて活用していくことが、他社に対する自社の競争優位性を確保するうえで非常に重要になってきています。
そこで、今日は、特許と意匠を有機的に連携させた戦略的権利活用方法・他社けん制方法の一例をご紹介します。
1.特許出願と意匠登録出願の長所の対比
まず、特許と意匠の長所について改めておさらいをします。
2.特許出願の長所とイメージについて
特許出願は、出願から最低3年間は、審査請求可能な期間が認められています。したがって、出願を未確定な状態で、出願から最低3年の期間、特許庁に係属させることができます。
また、1件の特許出願には、複数の実施形態を盛り込むことが可能で、権利に幅(汎用性)を持たせることができます。この権利に汎用性を持つことができる点が、特許出願の最大のメリットとなります。
特許出願のイメージとしては、大型の潜水艦・母艦として海中に潜らせて活用できるイメージです。
ただし、一旦権利化した後は、権利内容がはっきりとしてしまうので、回避の対象が明確となります。したがって、相手方からすれば、回避も容易であるし、権利の無効化をする際の攻撃対象も明確となります。
すなわち、特許出願の権利化して特許権とすることは、潜水艦を海上に浮上させた後に、巨大戦艦や巨大空母として改修して活用するイメージに近いです。巨大戦艦・空母なので、海上で戦うことができますが、その分、敵からの攻撃を受けやすい状態でもあります。
特許成立後の特許権は、海上にむき出しな状態なので、相手からの攻撃(無効化)に弱いという問題もあります。もちろん、特許同士でバチバチ打ち合う場面も実際には多いですが・・・。
状況によりますが、実際には特許では戦わずに、特許による威嚇によるけん制効果を生かしたほうが良い場合もあるかと思います。
話は少し飛躍しますが、アメリカ軍が保有している原子力空母は、戦略兵器ではありますが、戦術兵器ではありません。
原子力空母が実際に戦うことは現実問題としてあり得ません。
空母を喪失した場合の被害が大きすぎるからです。それよりも、原子力空母は、航空打撃群による威嚇効果を狙っており、圧倒的な戦力差により戦わずして敵を屈服させる戦略兵器であることは明らかです。
状況によりますが、知財の世界でも、特許では戦わずに、次に説明する別の手段で戦うことが望ましい場合もあり得ます。
3.意匠登録出願の長所とイメージについて
意匠の最大の特徴は、早期の権利化と費用の安さです。意匠登録出願の権利化までの期間は、平均7.4月となっており、特許出願の権利化までの期間の15.2月を圧倒しています(特許行政年次報告2022年版)。
また、意匠は、特許とは異なり、進歩性という考え方を取らないため、基本的にデザインが新しければ登録されるという制度となります。進歩性≠創作容易性であることは、意匠審査基準からも明らかであり、意匠が創作容易とされる例は、意匠審査基準に限定的に列挙されるのみです。
したがって、訴訟などにおいて、意匠が無効になってしまうケースはほとんどありません。
このため、意匠は、アタッカーとして優れた側面を有しています。つまり、意匠は、特許よりも安い費用で出願でき、早期に権利化が可能であり、さらに、相手からの反撃(無効化)にも強いのです。なので、分かりやすい例でいえば、意匠は、ステルス爆撃機のイメージになります。
1件の特許出願又は分割特許出願から、複数の意匠権を作成することができます。
4.戦略的特許・意匠の活用方法
もうここまでお話しすれば、私がお話ししたいことはお分かりかと思います。
まず、最初の特許出願を行います。こちらは、戦略兵器・母艦であるので、この特許出願がそのまま戦うことはあまり想定しません。この特許出願には、できるだけ多くの実施形態・変形例・図面を盛り込んでおいて、後々に、分割出願や意匠への出願変更に柔軟に活用できるようにします。巨大な潜水艦・母艦のイメージです。
予め想定される敵が表れた場合には、この特許出願を分割します。分割出願は、2回以上行うことが望ましいです。
第1分割出願は、意匠への出願変更の基礎となります。1件の分割出願から、複数の意匠登録出願への変更が認められています。アタッカーとなる意匠権は、複数作成しておくことが望ましいです。必要に応じて、先に出願された意匠に対する関連意匠とすることもできます。なお、意匠への出願変更をすると、基礎となる分割出願は、みなし取り下げとなります。
第2分割出願は、出願日から3年間、特許庁に係属しておくための出願となります。権利内容が不確定な出願を特許庁に係属させておくメリットは、とてつもなく大きいです。そこからさらに分割出願をすることができますし、意匠への変更出願の基礎出願とすることもできるからです。他社としては、どのような権利内容となるか分からないので、けん制効果としては、権利内容が確定している特許権の比ではありません。
さらに、必要に応じて、親出願は、早期審査などを行って、早期に権利化させます。これは、特許権を早期に成立させて、特許権による威嚇を狙ったものになります。
権利行使は、無効化に強い意匠権で行うことが望ましいです。場合により、意匠権と特許権による複合的・波状的な攻撃も可能です。
権利行使を主として意匠権で行うことで、虎の子の母艦(特許出願)を失わなくても済みます。
5.まとめ
これまで、意匠権はどちらかというと、守りのイメージがあったかと思いますが、このように、意匠の早期に権利化でき且つ潰れにくいという特性から、アタッカーとしての優れた側面を見出すことができました。
このため、意匠権を専らアタッカーとして活用するという新しい権利活用方法もあるのではないでしょうか。そして、特許出願は、権利を再生産・供給するための母艦として活用する、という戦略的な活用方法があるのではないでしょうか。
知財って面白いかもと思ってもらえますと、幸いです。
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