眼球運動と脊柱の運動連鎖
臨床において、運動指導をしていく時に「目」と「頚椎」の動きに注目していくと、同じ運動でも様々なバリエーションをつくることができます。
意外と見逃されがちですが
「目」の誘導から「頚椎」そして脊柱、体幹全体へ・・・
この連鎖反応がとても現場で使えます。
考え方からトレーニングの応用までお伝えしていきます!
●眼球運動と頭部の傾きから姿勢制御を見る
そもそも眼球運動と頚椎が連鎖するのは
人間の頭は地面に対して水平を保つように制御される
人体構造の直立機構をサポートするように体性感覚、前庭覚、視覚の3つの神経情報を統合して姿勢制御する
ことがわかっています。
もう少し深く見ていくと
人体内容物(内臓や液体成分)の慣性の法則による重心移動
前庭眼反射→姿勢を一定に保つ
緊張性頚反射・前庭脊髄反射→頭部、四肢、体幹を元の位置に戻す
というような働きによって姿勢を制御しています。
だから目を閉じて、誰かに押されても倒れないし、体が傾いても視線を一定に保つことができます。
つまり、
身体という姿勢保持機構と共に、頭の傾き(前庭情報)と眼球運動(視覚情報)は密接に関わって姿勢を制御している
ということです。
●不良姿勢が与える眼球・頭部固定のデメリット
では
よく見かけるデスクワーカーのヘッドフォワードポスチャーによる眼球と頭部の緊張を見てみましょう。
眼球運動➡︎固定(パソコン上で画面が動くため、ほとんど眼球は動かす必要がない)
頭部➡︎固定(ほとんどの場合、頭部が前方に変位しているため頚椎への負担は大きい)
こうなると、前庭機能も眼球運動も機能低下を引き起こして来ます。
それと同時に、後頭下筋群の過剰な緊張も引き起こします。
その影響でさらに頚椎の動きの制限が起こります。
また、頸部の筋疲労自体が眼球運動自体に影響を及ぼします。
頸部筋疲労が眼球運動におよぼす影響 J-STAGE www.jstage.jst.go.jp
この研究をまとめると
頸部に筋疲労を作る→頸部固有受容器への入力に異常が生じる
頸部に疼痛が出現→筋紡錘の感度亢進や交感神経活性化が生じる→頸部固有受容器から前庭神経核への入力に異常が生じる→眼球運動の機能低下に影響をおよぼしたと考えられ る
となります。
つまり、頸部に疲れが溜まると
痛みを引き起こし
感覚入力が悪くなり
眼球運動の動きも悪くなる
ということですね。
●首の動きが低下すると
では首の動きが低下するとどうなるのでしょうか。
と報告されています。
いうまでもなく、首を動かす機会が減ると、首を動かす筋肉も硬くなります。
ここでポイントになるのが「後頭下筋群」です。
●後頭下筋群と頚椎の関連性
「後頭下筋群」とは、首の後ろにある4つの筋肉の総称です。
後頭下筋群の役割で重要なのは、
首の位置や向き、目の調整に働きかけます。
いわゆる首の後ろのインナーマッスルです。
猫背姿勢になると、この後頭下筋群が硬くなり、過剰な緊張を生むようになると痛みを引き起こす原因となります。
後頭下筋群を見ていく上でキーポイントとなるのが
・後頭下筋群は筋紡錘密度が非常に高い(筋紡錘の数は臀部の51倍)
・視覚や前庭覚と統合する固有受容器として中枢神経系との感覚運動制御に関与
この2つです。
つまり、後頭下筋群の機能不全によって筋紡錘からの適切な情報が中枢にうまく伝わらない事態が起きます。
結果的に姿勢のコントロールも悪くなるということです。
論文では、
また、脳梗塞患者の後頭下筋群の形態的変化を調べた報告もあります。
脳梗塞片麻痺患者における後頭下筋群の脂肪浸潤に影響を及ぼす因子 J-STAGE www.jstage.jst.go.jp
まとめると
・片側の運動機能障害は頚椎を不安定にさせ
・頚部の筋繊維をType I線維からType II線維へ形質転換を引き起こし
・細胞内脂肪が増加する
・脳梗塞を発症することで大後頭直筋の脂肪浸潤は増加する
ということがわかっています。
日常生活に落とし込むと
頸部、眼球の運動機能低下
後頭下筋群の脂肪浸潤を引き起こす可能性
それにより頚椎の動きの制限と眼球運動の制限
という一連の可能性が考えられますね。
●視覚機能の8つの役割
静止視力:止まっている目標を見る能力
DVA動体視力:横方向の動きを識別する能力
KVA動体視力:前後方向の動きを識別する能力
コントラスト感度:色の明暗を鋭敏に識別する能力
眼球運動:眼球を素早く正確に動かす能力
深視力:正確に距離を認識する能力
瞬間視:瞬間的に多くの情報をつかむ能力
眼と手の協応動作:眼でみたものに素早く反応する能力
今回は
眼球運動と頚椎を動かして体の動きを誘導する方法をメインにお伝えします。
では、実際に運動パターンに眼球運動を取り入れていきましょう。
●文献から頭部と視覚情報が体幹に及ぼす影響を見る
実際のデータで「眼球運動」はどのように影響を与えるのかをみていきましょう!
●前屈時の脊柱の運動学に対する頭と姿勢の向きの影響
The effect of head and gaze orientation on spine kinematics during forward flexion - PubMed Compound, or awkward, spine postures have been suggested as a pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
頭部・視線を変えた状態で前屈をして、脊柱に与える影響を計測した研究。頭部、頸部を上向き、下向き、左向き、右向きの条件で計測して脊柱への動きにどのように影響を与えるか?
という内容の論文です。
簡潔にまとめると
・頭部、視線のねじりは頚椎と胸椎のねじりを誘発する
・頭部、視線の上向き下向きの場合は頸部と上位胸郭の屈曲ー伸展運動を誘発する(C7~Th5の上位胸椎)
・頭部の上向き、下向きは胸腰部(T7~L2)の屈曲-伸展運動も変化させる
ということがわかりました。
これらの知見は、頚部の屈曲・伸展姿勢の変化と脊柱のの胸腰部領域の屈曲・伸展運動との間に機能的な関連性があることを示す根拠になりますね。
つまり、
頭部の誘導
視線の誘導
この2つのポイントに対するキューイングは、脊柱の運動を引き起こす上でとても重要になるということです。
では、これまでの客観的な文献データと運動生理学を理解した上で、臨床の動きに置き換えていきましょう。
1.体幹屈曲パターンと眼球運動
体幹を屈曲させて、フロントラインを活性化する時には、眼球を下方に誘導します。
眼球運動を下に持っていくことで屈曲パターンへの力が入りやすくなります。
つまり、腹筋運動に力を入れやすくなります。
お腹周りのトレーニングをするときは眼球を下に向けていきましょう!
この時のポイントは
眼球を下方に持っていく
アゴを引く(頚椎椎前筋を使い、インナーマッスルを働きやすくする)
※頸部深部屈筋と眼球運動筋の固有受容器は、頭の位置を保持することがわかっているので、しっかりとアゴを引くことがポイントになります。
さらに
「頸部深部屈筋トレーニングと眼球協調を同時に行うと、頚長筋の厚みが増加する」ということもわかっているので、肩こりの人にも効果が期待できます。
The effects of eye coordination during deep cervical flexor training on the thickness of the cervical flexors [Purpose] The purpose of this study was to identify changes i www.ncbi.nlm.nih.gov
2.伸展パターンと眼球運動
体幹を伸展させる時には眼球を上方い誘導します。
それにより、脊柱伸展筋への刺激が入るようになります。
この時のポイントは
眼球を上方へ誘導する(過剰にいきすぎないように注意が必要!)
アゴを引いて頚椎の過剰な伸展を抑える
胸椎の伸展を促す(頚椎・腰椎の過剰な伸展を抑える)
腰椎をニュートラルポジションでキープ(過剰な伸展を抑える)
つまり、頚椎や腰椎の過剰な伸展を抑えながら動きましょう!ということです。
また、頚椎伸筋の収縮は腰椎の脊柱起立筋、外腹斜筋、胸鎖乳突筋の活動を活性化することも報告されています。
Neck posture during lifting and its effect on trunk muscle activation and lumbar spine posture - PubMed Neck and head posture have been found to have a significant i pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
3.回旋パターンと眼球運動
左右に眼球を大きく動かすことで、体幹の回旋を誘導することができます。
臨床でよく目にする、体幹の回旋方向に目が向かず、正面で目が止まっている状態は、頚椎の動きが伴わず体幹の回旋が出にくくなりますので、眼球もしっかり誘導していきましょう。
回旋運動の可動域がうまく出ない時に目線が止まっている人には、目線を誘導することで解決することもありますので、お試しあれ!
4.眼球ストレッチ
それでは、眼球自体の動きが制限されている時にはどのように対処したらいいのでしょうか?
実際、頚椎の動きが低下していると眼球運動も悪くなります。
やることはとてもシンプルで
眼球を大きく動かすことで改善できるのですが、より効果を上げるためには眼球と頚椎の運動分離を行う必要があります。
実際の動きは
視点を固定した状態でゆっくりと首を左右に振り向きます。
次に、視点は同じく固定した状態でゆっくりと首を上下に動かします。
至って単純な動きですが、丁寧にやることで眼球の動きがスムーズになってきます!
※めまいがある場合は、負担がかかる動きなので注意してください。
●まとめ
ここまで、眼球運動に伴う脊柱、体幹の運動連鎖について確認してきました。
普段行っているエクササイズに眼球運動の要素をプラスするだけで、運動効果やエクササイズの付加価値はすごく上がります。
運動する際や、運動指導する場合は、視線に注目しながら行ってみてください!