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第4回:世界はどこもかしこも水浸し


大雨・洪水は増えている

 気象庁によると、大雨の年間発生回数は有意に増加しており、より強度の強い雨ほど増加率が大きくなっているという。1時間降水量80mm以上、3時間降水量150mm以上、日降水量300mm以上など強度の強い雨は、1980年頃と比較しておおむね2倍程度に頻度が増加しているのだ。
 これは私たち自身が実感していることでもある。夏場にはゲリラ豪雨や線状降水帯、竜巻、ひょうなどが毎日のようにどこかで発生し、街中があっという間に冠水している様子などをニュースで見ている。大雨が増えている要因として、近年日本周辺の海面水温が温暖化の影響で異常に高くなっていることが挙げられる。海面から次々と立ち上る水蒸気のエネルギーが、強烈な台風や線状降水帯の発生と無関係であるはずがない。
 近年は気候変動の研究が進み、異常気象と地球温暖化との関係がより密接に関係していることが分かるようになった。最も有名なのはイベントアトリビューションと呼ばれる気候モデルによる解析で、温暖化が極端な気象現象の頻度や激しさをどの程度変化させたかを定量的に推定することによってその関係性が見えてくるという。
 この数値シミュレーションの結果、近年の顕著な災害をもたらした異常気象について、一定程度は地球温暖化の影響があったことが分かっている。例えば「令和元年東日本台風」の場合、1980年以降の気温が1℃上昇したことにより、総降水量が10.9%増加したものと評価されているのだ。また、「平成30年7月豪雨」については、50年に1度の大雨の発生確率が地球温暖化によって約3.3倍になったことによるものであり、同月の猛暑についても温暖化が無ければ起こりえなかったと結論付けられている。

世界で頻発する水害の数々

 海外ではどれほどの大雨・洪水被害が起こっているのだろうか。調べてみると、期間や地域をどこで区切るべきか迷うほど、世界中で記録的な豪雨水害が発生していることが分かる。論より証拠、ひとまずここでは2021年~2023年に発生した大規模水害の一部のリストを掲げておくる(BBCニュース他を参照)。

  • 中国河南省で記録的豪雨 12人死亡、1万人以上が避難(2021年7月)

  • ニューヨーク市内で浸水に鉄砲水、非常事態を宣言「アイダ」影響(2021年9月)

  • 中国山西省で洪水 200万人近くに影響(2021年10月)

  • カナダで記録的豪雨 ウシをジェットスキーで救助(2021年11月)

  • マレーシア「過去数十年で最悪規模」の洪水 8州で冠水し死者も(2021年12月)

  • ブラジル南東部、3時間で1カ月分の雨量、地滑りと洪水で94人死亡(2022年2月)インドアッサム州で大規模な洪水、420万人以上が避難(2022年6月)

  • 豪シドニーなどで洪水、約5万人が避難(2022年7月)

  • 米ケンタッキー州で洪水、死者37人を確認「数百人」が安否不明(2022年8月)

  • ソウルで記録的豪雨による洪水、少なくとも8人死亡(2022年8月)

  • 欧州の広い範囲で暴風雨 子供含む13人死亡(2022年8月)

  • パキスタンの洪水「全土の3分の1が水没」、復興には莫大な費用(2022年8月)

  • 韓国で台風11号のため大きな被害 地下駐車場で7人死亡(2022年9月)

  • リビアの洪水、死者2万人に上る恐れ 病気のリスクも高まる(2023年9月)

ビジネスへの影響は火を見るより明らか

 猛暑と同じように、大規模水害も否応なくビジネスにも大きなダメージを与える。少しさかのぼると、2018年に日本に襲来した台風21号の被害として、JR西日本は2019年3月期の連結純利益を従来予想の1110億円から14%減となる955億円に引き下げた。食肉大手N社は同期の連結純利益を従来予想の320億円から15%減となる230億円となる見通しを示した。JR西日本は7月に西日本を襲った豪雨災害からの復旧費用として215億円の特別損失を計上。N社も今回の台風21号や、北海道地震による停電などの影響で出荷できない在庫の評価損が発生したと述べている(日経ビジネスより)。
 また、2021年12月にマレーシアで発生した過去数十年で最悪規模の洪水の影響として、ジェトロのビジネス短信では次のように伝えている。「多くの日系企業が集積する地区では、床上浸水、変電所の損傷による電力供給の寸断、従業員と連絡が取れないなど操業再開のめどが立たない企業もある。ある工場は洪水を想定して立地を底上げしていたものの、膝下まで水没したとの報告も。大手電機製造企業は20日、被災した機械や設備の状況把握に1週間程度は必要で、当面は主力製品の製造を中止すると発表」と述べている。
 こうして見ると、豪雨災害の影響が最も大きいのは製造業や輸送関連であることが分かる。JRや食肉大手N社、ジェトロの例は、特定の災害で発生した特異な被害事例なのではなく、いつどこの国でも起こり得る典型的な被害の様相なのだ。

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