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第4回:気候難民・食料危機・再エネの停滞


気候難民受け入れのカウントダウンへ

 気候変動による異常気象(台風、竜巻、洪水、熱波、水不足、海面上昇など)は、住んでいた土地を追われる多くの「気候難民」を生み出している。国内での移住を余儀なくされるならまだしも、大洋に囲まれた小さな島国の中には、母国そのものが消滅しつつあるところもある。気候難民が2億人に達すると推定される2050年を待たずとも、2030年にはグローバルな主要課題となっているだろう。
 もともと世界的に見ても難民受け入れのハードルが高い日本(難民認定率0.3%)の場合、従来の政策を維持したままでは次のような問題に直面するに違いない。例えば、諸外国は日本が気候難民に対する人道支援により積極的に関与することを求めるだろう。金銭的な支援のことではなく、年間何人を受け入れるかといった割り当て数のことだ。もしこうした要求に対して否定的な姿勢をとれば、国際社会は日本が温室効果ガス排出国としての人道的責任を放棄しているとみなされ、深い懸念とあつれきを生む。
 このような影響は外交問題にとどまらず、日本の企業にも及ぶ可能性がある。国際社会からの監視や懐疑的な見方が強まれば、世界市場における日本の競争力はさらに低下することが考えられる。日本の企業は海外の消費者やパートナーから社会的責任へのコミットメントを疑問視され、社会的・環境的イニシアチブの見直しを迫られるだろう。

食料・水・エネルギー供給の不安定化

 気候危機が現在よりも悪化する2030年には、世界の食料・水・エネルギー問題がより深刻になっている可能性がある。これらの問題がアメリカや中国、インド、日本などの主要国にどのような影響を及ぼすかについて推測してみよう。
 まず米国だが、気候災害の多発で作柄の乱れや収量減少が懸念される。これが飼料や食糧価格の上昇を引き起こし、国内外の食料市場に影響を及ぼす。一部地域では渇水が慢性化し、産業の水需要にも支障を来すだろう。米国内のエネルギーはトランプ政権の旗振りによって当面は安泰かもしれないが、食料の代わりに化石燃料を食って生き延びるわけにはいかない。石炭火力の延命は気候災害を悪化させる。米国ではこれからも毎年のように超大規模な山火事や熱波、ハリケーンが多発し、企業や国民の財産を蝕んでいく。
 2030年、中国は度重なる大洪水や土壌劣化、干ばつ、水不足などの課題に直面し、食糧の安全保障が脅かされつつある。水不足は産業や農業に影響を与える。中国のエネルギー源は主に石炭と水力だが、各地域で渇水が続いて水力発電が当てにできないとなれば、今後さらに再生可能エネルギーの拡充を加速させるに違いない。中国は再エネ設備容量で世界ランキング1位であり、2位の米国を3倍以上超える規模で拡大させている。
 経済成長著しいインドは食料資源を供給するのはほとんどが小規模農家であり、洪水や干ばつなどの気候災害の影響で生産・供給量が慢性的に不安定になっている可能性がある。急速なエネルギー需要は自国の石炭やバイオでは間に合わず、ガスの輸入をさらに増やすかもしれない。
 日本は食糧及びエネルギーの輸入依存度が著しく高く、世界的な食糧不足やエネルギー不足の影響を受けやすい。水不足で水位が低下するダムも増えるため、同時に火力発電や原発の稼働率も高まっていると考えられる。日本には本腰を入れて再エネを拡充したり、企業の脱炭素を支援していこうという姿勢は見られない。トランプ政権の反脱炭素政策に便乗して、ズルズルと中途半端な対応を続ける中で2030年を迎えることになる。

多くの主要国がより内向きな自国第一主義へシフト

 この2030年のシナリオでは、化石燃料(石炭・石油・天然ガス)への依存度は依然として高いと推測する。これに加え、先進諸国では原発も増えていく。水不足やダムの渇水で貴重な水力発電が再生可能エネルギーの実現手段から脱落すれば、残る主力はソーラーと風力発電だ。しかしどの国も、再エネだけでは経済の安定と成長は達成できないと考える。
 化石燃料を使い続ける限り、温室効果ガスの増加が止まることはない。原発は核廃棄物の処置や災害時の放射能漏れの懸念を度外視すれば、そこそこクリーンかも知れない。しかし原発に頼るのは経済成長の推進力を得るためであって、すでに大気中に蓄積した温室効果ガスの削減に貢献するものではない。原発で作り出したエネルギーをこれまで通りに過剰な生産と開発と消費に投入し続ければ、二酸化炭素は減るどころかさらに増えていくのは明らかだ。
 一方、気候難民問題や食料・水・エネルギー問題については、別の懸念が顕在化する。それは、主要経済国の政治力学がより内向きなアプローチへとシフトすることである。例えば、(先に述べたことと矛盾するかもしれないが、もう一つの想定として)欧州や米国などが気候難民の受け入れを厳格化し、国内の雇用や社会の安定を最優先する。受け入れを拒否された多くの気候難民がどのような行動に向かうかは想像に難くない。なぜなら彼らには気候危機の責任は先進国にあるという強い被害者意識があるからだ。地政学的に見れば、先進国と気候難民の衝突が最も早く顕在化するのは欧州かもしれない。
 一方、主要な農業生産国が、相次ぐ異常気象のために自国の食料の確保が難しくなったと感じれば、農業の保護と食料備蓄の充実を図り、輸出制限が強化されるのは当然の帰結である。著しく食料自給率の低い日本などはあらゆる食料価格が暴騰し、より深刻な事態に直面するのは目に見えている。そんなときに食料非常事態宣言のようなものを発出しても手遅れである。生活に余裕のない多くの国民に、潜在的な飢餓(栄養不足による体力低下や心身の病気・ストレス)が拡がり始めることだろう。

 以上が最悪のシナリオの概要である。次回からは気候変動による事業への影響を業種別に見ていく。

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