第10回:世代間における気候危機意識の違い
気候・環境意識の世代間格差
今回は、気候変動や環境問題に関する人々の意識について考える。ここで参考にするのはチューリッヒ保険会社が2022年に実施した『世代間における気候変動に関する意識調査』で、Z世代(18歳~25歳)、ミレニアル世代(26歳~35歳)、Y世代(36歳~45歳)の3世代の特徴を比較している。
まず、気候問題への関心度だが、最も関心が高いのは「Z世代」で63.2%、「ミレニアル世代」より8ポイント高だ。関心を持ったきっかけは、3世代とも「生活の中で感じるから」が最多。とくに「気温の上昇」に関心があるようだ。脱炭素に向けた取り組みについては、Z世代の約半数が私生活で意識的な取り組みを行っており、ミレニアル世代比16.7ポイント高となっている。その内容は、3世代共通で約半数が「公共交通機関や自転車、徒歩の利用」「省エネ家電への買い替え」など。
次に排気ガスへの関心とこれを減らす取り組みについては、68.0%のZ世代をはじめ、3世代とも約6割が日常生活の中で「排気ガス」を気にしており、排気ガスによる地球温暖化や子どもへの影響を気にしている。車の所有率は「Y世代」が66.5%で最多だが、車を所有するZ世代の79.0%が「車から出るCO2排出量」を気にした経験あり、Y世代と比較すると22.8ポイントの差だ。
また、3世代の約半数が、車のCO2排出量を抑えるため「加速・減速の少ない運転」を実施。CO2排出量をオフセット※する方法の認知度は、第1位「Z世代」60.1%、第2位「ミレニアル世代」40.3%、第3位「Y世代」37.9%の結果に。(※ オフセットとは、自らが排出した二酸化炭素などの温室効果ガスについて、他の場所での排出削減や吸収に貢献することを通じて埋め合わせること)
テレビの世界に気候危機は存在しない?
このように、どの側面をとっても若い世代ほど気候変動や脱炭素に対する意識が高い傾向にあることがわかる。なぜだろうか。若い世代の情報収集はネットが中心で、テレビや新聞はあまり観ないと言われるが、どうやらこのあたりに理由がありそうだ。
まず、インターネットでは、海外に劣らず日本でも気候変動問題が積極的に取り上げられている。各省庁や各自治体のホームページをはじめ、YouTubeなどの動画投稿サイトでも、公共・民間テレビ局などが制作した地球温暖化や気候危機をテーマとするさまざまなコンテンツがあふれている。若い世代は、ネットを通じてこうした情報に触れる機会が多いと考えられる。
一方、テレビではなぜか「気候変動」や「気候危機」という用語はまったくと言ってよいほど使わない。気象予報士の解説を見ていると、異常な猛暑や大雨が頻発するメカニズム(偏西風の蛇行やエルニーニョ)については詳しく説明しても、その背後に気候変動という大きな力が働いていることには言及しない。このため視聴者は、たまたま起こった猛暑、たまたま起こった大雨という印象を受けてしまう。
一方、アメリカのABC News、CNN、イギリスのBBC newsなどの海外メディアでは、アナウンサーも気象キャスターも日常的に、当たり前のように「気候変動」や「人間活動によって引き起こされた地球温暖化」という言葉を多用する。また、イギリスBBC放送には「気候記者およびデータチーム」という専門部署があり、日々、気候変動に関する内外のニュースを積極的に報じているし、アメリカABC放送にも同様の部署があって、気候災害に関するニュースや気象解説を積極的に発信している。
Z世代の関心は本物なのか?
このように、インターネットを活用する世代ほど気候変動や環境問題に対する意識が高いのは、日本国内の気候変動に関する情報ソースに大きな偏りがあるためと考えられる。企業経営の担い手が、Y世代からミレニアル世代、Z世代へと移行していけば、意識の偏りはなくなり、多くの企業で気候問題と真剣に向き合う姿勢が養われていくのかもしれない。
しかし、確かに若い世代は気候危機対策の将来の担い手ではあるが、楽観できないことも事実だ。電通総研が実施した「国際比較版気候不安に関する意識調査」はZ世代を対象としたものだが、ここには次のような傾向が見られる。
まず、気候変動を心配していないと回答した日本は14.6%で、11か国で最も高かったこと。気候変動がもたらす感情として日本は「不安」が72.6%と非常に高く、10か国の平均を上回ったものの、「喪失感」や「絶望」、「怒り」といった激しい負の感情、「罪悪感」や「恥ずかしさ」など気候変動を自己の責めに帰することから生じる感情は、他国と比べて非常に低くなっていること。日本は「他の人と気候変動について話さない」が41.6%と11か国中もっとも高く、気候変動に対する関心の低さがうかがえること。
最後に、Z世代の気候危機意識について同調査はこう結んでいる。「気候変動に対して不安を抱きながらも、人類の未来にもたらしうる具体的な影響を深刻に捉えている人は他国よりも少ないという、日本の若年層の姿が浮かび上がりました。また、本調査のテーマである"気候不安"という現象は日本でも確認されたものの、気候変動を十分に"自分ごと化"している人が少ないという問題も存在することがわかりました」。
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