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第2回:気候変動によって企業が被る被害と影響


 主な経営資源とライフラインへの影響

 2030年に異常気象がもたらすであろう物理的リスクは、どのような形で顕在化するだろうか。「物理的リスク」とは主に自然災害(台風豪雨・熱波・干ばつ・渇水・海面上昇など)のことを指す。熱波などは日本では災害と見なされていないようだが、今や大地震にも匹敵する正真正銘のカタストロフィックな気候災害である。
 その熱波だが、夏場は40℃を超える高温多湿の状態が断続的に何週間も続き、従業員、特に屋外で働く労働者に深刻な影響をもたらす。熱中症や脱水症にかかりやすくなり、生産性の低下や欠勤者、離職者の増加を招く。一方、大雨による浸水や冠水は交通インフラを混乱させ、従業員の通勤を困難にし、従業員の生産性が低下して業務コストが増加する。
 次に、ライフライン(電気・ガス・水道)への影響がある。暴風雨や洪水のような異常気象は、送電塔、電線、変電所、水処理施設に損害を与え、サービスの中断につながる。異常気象はこれらの資源のコンスタントな供給サイクルを混乱させる可能性があるため、企業はエネルギーと水の調達コストの増加に直面する可能性が高い。
 ITをはじめとする事業資産への影響も無視できない。情報システムの場合、洪水、暴風雨、猛暑はデータセンターや ITインフラに損害を与え、データ損失や事業運営の中断につながる可能性がある。インフラの損傷は通信の途絶をもたらし、内外のコミュニケーションに影響を及ぼすだろう。熱波や洪水、散発的な山火事の発生は、建物、機械装置、設備、社用車などに直接的、間接的な損害と多大な修理・交換費用を発生させる。

 

原材料・製品・サービス提供への影響

 異常気象は、生産性の低下と業務中断の頻度を高める。この結果、一貫性ある製品や業務サービスの提供に支障が出て価格や品質の維持が困難になる。例えば農業などでは生産活動に制約が生じる。異常高温によって極端に豊作になる作物や不作になる作物が出てきて供給過剰や供給不足、品質低下により仕入価格が慢性的に不安定になるだろう。こうした自然資源や生物資源に強く依存する食品業界も顕著な影響を受ける。
 一方、製造業の原材料価格なども慢性的に不安定となっている。理由はエネルギー需給の変動である。2030年にはピークアウトすると予想された化石燃料が依然として優位であるとしても、温暖化が2倍のスピードで進む欧州などを中心に脱炭素や再エネへの転換圧力は引き続き高まると考えられるからだ。化石燃料と再エネ・脱炭素のせめぎ合いでエネルギー価格が不安定になり、製造業や運輸業のコストに影響を及ぼす。
 また、輸送、生産、流通ネットワークが被害を受けることによってサプライチェーンが混乱する。製品やサービスの提供に遅れをもたらす可能性がある。災害の増加で、企業は断続的な生産停止や減産を余儀なくされる可能性が高く、顧客の需要に応えるのがむずかしくなる。グローバル・サプライチェーンの物流や輸送コスト高も招く。これはそのまま原材料・部品・製品価格に反映されたり、品薄・品不足につながるだろう。

財務への影響

 2030年において、気候変動がもたらす財務への影響は、多面的かつ甚大なものになる。誰もがすぐに思い浮かべるのは「事業停止に伴う損失と復旧費用」である。台風や豪雨による水害、山火事の発生などは、事業資産やインフラに深刻な損害を与える。損害を受けた資産の修理や交換費用が発生する一方で、売上損失や契約上の損害賠償の支払い等が生じ、経営を圧迫する。
 次は「評価減のリスク」。異常気象の頻度と激しさが増すため、物的損害や事業中断に関連する保険金の請求が急増する。保険金請求の増加は企業の保険料の値上げにつながる。保険会社は気候パターンの変化と地理的特性の両面からリスク評価を調整するため、気候災害が起こりやすい地域で事業を営む企業は保険料が大幅に値上がりするかもしれない。
 一方、気候リスクの影響を受けやすい地域に不動産を保有する企業は、不動産価値や資産価値の下落を経験する。その土地のぜい弱性や長期的な存続可能性への懸念があるからだ。
 さらにこの頃になると、これまでのような確率や可能性に基づく「もしもの場合に備える」ためのリスク対策ではなく、「毎年のように起こるべくして起こっている危機事象」にいかに対処するかが鍵となる。企業はこうした脅威に立ち向かうため、持続可能なビジネス・プロセス(あるいは生産プロセス)への転換を行う必要に迫られる。つまり、より実効性ある多角的な災害対策の導入や既存の業務プロセスの変更に伴う投資やコストが、企業の財務を圧迫すると考えられる。

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