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第11回:世界の紛争がCO2削減努力の足を引っ張る!


世界の紛争と気候変動

 気候変動対策の中心課題は「いかにCO2を削減するか」であり、その矛先として火力発電所やガソリン自動車がターゲットとなっているわけだが、なぜか国際的な排出量削減目標から除外されている最も大きなCO2排出要因がある。それが「紛争(戦争)」だ。
 戦車や物資輸送車、戦闘機、武器などから排出されるCO2量、標的を攻撃して爆発炎上したときに排出されるCO2量、そして車による避難民の移動や破壊された街のインフラの復旧においても、はかりしれないほどの膨大な量の二酸化炭素が排出されている。がしかし、紛争によるCO2は、可視化されないまま黙認されているのである。
 紛争がごく稀にしか起こらないのであれば度外視してもよいのかも知れないが、テレビや新聞を見てのとおり、今の世界は紛争だらけだ。2022年12月17日付け東京新聞のウクライナ問題関連の記事には、次のような衝撃的な数字が出ていた。「侵攻が始まった今年二月から九月の間に、戦闘による弾薬や燃料使用で二酸化炭素(CO2)換算で八百八十六万トンが排出された。それに加えて建物や森林、畑の火災で二千三百七十六万トン、避難民の移動で百四十万トンなどとなっている。今後のインフラ再建に伴う排出四千八百六十七万トンを加えれば八千万トンを超え、二〇二〇年度の東京都の排出量(五千九百九十万トン)を上回る」。
 ウクライナをはじめ世界各地の紛争は今も続いているから、CO2の排出量はすでに1億トンをはるかに超えているはずだ。人類に課せられた脱炭素の努力とはいったい何なのだろうか。そんな疑問と虚しさを抱かずにはいられない。

CO2の排出を加速する紛争の数々

 過去にさかのぼれば数えきれないほどの紛争があり、平和を維持すれば避けられたであろう膨大な量の二酸化炭素排出の原因を作ってきた。ここでは温暖化を加速させる近年の主要な紛争について取り上げる。
1)アフガニスタン紛争
 南アジアと中央アジアの狭間に位置するアフガニスタンは多民族国家であり、1979年末のソ連軍侵攻以来、今日に至るまで混乱状態の中にある。2021年8月にアメリカがアフガニスタンを撤退したが、不安定な状況であることに変わりはない。
2)ミャンマー内戦
 アウン・サン・スー・チー氏と国民民主連盟(NLD)が、旧軍政体制の完全解体に乗り出したことが根本的な原因にあるが、直接のきっかけは、2020年11月の総選挙でNLDが圧勝したことにより、軍が暴走を引き起こしたのがきっかけと言われている。
3)ロシアによるウクライナ侵攻
 ロシアのプーチン政権は、ウクライナ東部のロシア系住民をウクライナ軍の攻撃から守るという口実でウクライナへの侵攻を開始。その意図はウクライナをロシアにとって従順な国に変え、西側の脅威から自国を守るための緩衝地帯としておくことだ。
4)イスラエル・ガザ紛争
 1948年にイスラエルが建国を宣言して以来、これを容認しないパレスチナ人やアラブ諸国との対立によって4度の中東戦争が続いている。その都度米国の支援で占領地を広げてきたイスラエルだが、難民化したパレスチナ人との軋轢はおさまっていない。
 昨年10月7日のハマスによる襲撃以来、すでに4万人以上のガザ市民を殺戮したイスラエルは、今度はレバノン侵攻に矛先を向けている。常軌を逸したイスラエルの行動は、もはや抑制が効かなくなっているが、依然としてイスラエルに武器を供与し続けるアメリカと、これを見て見ぬふりをする欧州各国の姿勢もまた、火に油を注ぐ要因となっている。

「先が読めない」ことのリスク

 一般に、紛争というのは次のようないくつかの要因で起こる。一つは「宗教間の争い」だ。宗教は本来融和的なものだが、中には過激な信条を持つ宗教や宗派が争いを起こすことがある。典型的なのがイスラム教のスンニ派とシーア派の対立だが、そこには政治・経済的な利害の対立も含まれている。
 次は「民族間の争い」だ。1国内に複数の民族がいたり、1つの民族が複数の国にまたがっていたりすると起こる。また、ミャンマーに見られるように「不安定な政権」から起こる場合もある。政権の腐敗や独裁政権、あるいは政権の弱体化が、国民の蜂起や軍事クーデターを引き起こしたりするわけだ。
 さらに最近目立つのが「大国の介入」だ。アメリカや中国、ロシアなどの大国が介入することで紛争がエスカレートし、場合によっては代理戦争につながって収拾不能な状態に陥ってしまう。古くはアフガニスタン・イラクへの侵攻、近年ではウクライナ戦争などもその典型と言えるだろう。
 最後は「領土(資源)の獲得」だ。表向きは領土の獲得であっても、その裏には石油資源やダイヤモンド、レアメタルなどの鉱物、水資源等の獲得、地政学的な優位性の確保などが目的である。

ローカルな紛争も止められないのに…

 紛争の引き金となる要因は、突き詰めれば人間同士の利害と感情の対立に他ならない。敵国に対しては自国の力を誇示したい、領土を手に入れたい、世論を味方につけたい、戦争の混乱に乗じて利益を得たい。そうした為政者の面子や利害意識が働く限り、紛争はなくならないし、いつどこでどんな紛争が起こるのかはすべて為政者の腹積もりであって外からは見えない。
 そして何よりも、国連を中心とする世界の国々は、こうした紛争の解決や調停には常に及び腰であり、ほぼ100%止められないという現実がある。ローカルな紛争ですら止められないのに、世界規模の気候変動対策で足並みを揃えられるはずがない。戦争という現実を考えるにつけ、パリ協定の1.5℃目標などという数字は、単なる机上の空論でしかないという冷めた気持ちになるのは、筆者だけだろうか。

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