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第16回:気候の現状から未来へ
私たちの意識は変われるのか?
これまでさまざまな観点から、気候変動によって変わりつつある(あるいは停滞したままの)社会や経済の様相を見てきたが、最後の仕上げとしてわたしは、この現状を将来に照らして3つの疑問に置き換えてみた。すなわち「私たちの意識は変われるのか?」、「エネルギーはどうなるのか?」、「地球の気候はどう変化するのか?」ということだ。本稿ではこれらの解説を以て、まとめとしたい。
まず「私たちの意識は変われるのか?」について。気候危機に対する理解と認識を深め、実践的なアクションを起こせるかどうかは、2つのグループの人々がベクトルを合わせられるか否かにかかっているとわたしは考える。グループの一つは「企業経営者」であり、もう一つは「気候変動に否定的な意見を持つ人々」だ。
今日、若い世代(Z世代やミレニアル世代)を中心に気候危機に対する認識は少しずつ高まってきているようだが、私たちが最も変化を受け入れてほしいと願うのは、現在の企業経営を主導するY世代以上の人々だ。年々悪化する気候変動は、企業リーダーたちがミレニアル世代やZ世代へ交代するまで待ってはくれない。
一方、世の中にはさまざまな理由から気候危機に対して否定的な人々がいる。例えば情報不足による誤解。彼らはともすると気候問題に懐疑的なインフルエンサーの意見を鵜呑みにしがちだ。また、自分の快適な生活や利便性が奪われてしまうことへの不安もあるだろう。さらに、これまで慣れ親しんだビジネスモデルを変えたくない企業は、無条件に脱炭素不要論や気候否定論を支持したいと考えるだろう。
エネルギーはこれからどうなるのか?
次は「エネルギーはこれからどうなるのか?」について。エネルギーの問題は「二酸化炭素の排出」と「電力需要」の問題と言い換えることもできる。どちらも右肩上がりに増大し続けており、将来的に目に見えて減少に転ずる要因はほとんど見当たらない。
二酸化炭素が増える要因としては、石炭火力発電の存続、ガソリン自動車や航空機(とくに富裕層のプライベートジェット)の利用存続、短期サイクル商品の過剰な生産と消費・廃棄、森林の伐採と山火事、世界で相次ぐ紛争、そして今後はAIやDX、そしてエアコンの社会・経済への爆発的な普及・浸透であろう。
電力エネルギーについては、今後も再生可能エネルギーとEVの普及が鍵を握ることになる。再生可能エネルギーは、今は太陽光発電が主流だが、今後は洋上風力発電も増えるだろう。ただし、もっぱらカーボン対策が十分に進んでいない新興国の再エネ製品を輸入するだけでは、CO2の低減にはあまり貢献できない。再エネの普及を阻害する要因(設置場所や環境問題)を政府や行政主導で解決できるかどうかも注視していく必要がある。
EVの場合、今後価格が下がり、一般庶民が購入できる水準に落ち着くまでにどれだけの時間を要するのか、そしてEVの利便性を確実にするための技術やインフラ(軽量バッテリーや走行距離の延長、充電スポットの普及など)をどこまで充実できるかにかかっていると言える。残された時間は多くはない。今後、再エネやEVの普及を上回る勢いで大気中の二酸化炭素が増えていかないための努力が求められる。
地球の気候はこれからどう変化するのか?
3つ目の「地球の気候はこれからどう変化するのか?」について。地球温暖化は加速的に進んでいる。どんなに夏が暑くても、季節が変ればその暑さを忘れてホッとするものだが、将来は季節が極端化して一年の四季が二季(暑いか寒いか)になると予測する専門家もいる。これまでの常識的な温度範囲を基準としてきたビジネスモデル(モノの生産、保管、そして消費者行動)が通用しなくなる時代に入ってきたのであり、将来を見据えて見直す必要が出てきそうだ。
気候変動にともなう異常気象はさらに極端化して、地震とともにしばしば想定外の災害を引き起こすだろう。また、山に積もる雪が減ってダムの水位が下がり、渇水や干ばつによる不作、サプライチェーンの停止など、さまざまな想定外のリスクが顕在化するようになる。気候変動のようにリスクが常態化する世界にあっては、大地震と異常気象による複合災害の発生も現実的な想定に含めておかなくてはならない。
以上、第1~16回にわたって気候の現在を知るための記事を書いてきた。次回からは「最悪のシナリオ」について見ていく。私たちの社会が既存の枠組みから抜け出すことができず、結果的にこれまで通りのペースで大気中の温室効果ガスが増え続けて2030年を迎えた時、どのような日本、そして世界になっているかを描く。いわば2030年の気候リスクアセスメント、もしくは被害想定といったところだろうか。それではお楽しみに。