第7回:EVはどの程度普及しているのか?
世界のEVの普及率は?
電気自動車(EV)は、脱炭素社会に向かうための最も象徴的な切り札の一つだ。けれども、高速道路上の車が渋滞し、遠く霞んで見えなくなるくらいに延々と数珠繋ぎになっている光景を目の当たりにしたりすると、膨大な数の車がEVに置き換わるまでに一体どれほどの時間を費やすことになるのだろうかと嘆息せざるを得ない。
国際エネルギー機関(IEA)は昨年10月、EVへのシフトが進むことで、世界の石油使用量が2030年までに日量約1億200万バレルでピークを迎えると予測。今後の数年で道路を走る電気自動車の数が、現在の約10倍になるとの見通しを示した。こうした予測と私たちの生活実感とはかなりの隔たりがあるようにも思える。実際のところはどうなのだろう。2022年の世界のEV普及率は次のとおりだ(EV充電エネチェンジより)。
EV普及率が上位を占める国々は欧州に集中している。ノルウェー(88%)、アイスランド(70%)、スウェーデン(54%)、デンマーク(39%)、フィンランド(38%)で、販売された車の5台に1台以上がEVだ。欧州以外の国では中国が29%、次いでニュージーランド・イスラエルが13%で、日本は3%にとどまっている。
このように、世界的に見れば飛ぶ鳥を落とす勢いでEVは普及しつつあるのだが、日本ではなぜEVの普及が進まないのだろうか。そこには、総論ではCO2を減らすべくEVの普及には賛成という人も、自分事となると二の足を踏む人が少なくないという現実が垣間見える。次にその具体的な理由を、利用者目線で見ていこう。
EVはドライバーの懸念を払拭できるか?
まず一つは、「価格が高い」こと。EVは、国の補助金を使っても現状ではガソリン車の上位機種と同等の価格と言われている。しかし今後はEVのさらなる量産化と市場競争を経て、いずれガソリン車並みの価格に落ち着くのではないだろうか。
次は、EVはすぐに電池切れを起こして「航続距離が伸びない」のでは?という心配。ガソリン車の航続距離は満タンで500~800キロ、EVはフル充電で300~400キロ(国産車の場合。輸入車なら400~600キロ)と言われている。関東近県であれば都心から往復するには問題なさそうだ。今後は高性能でコンパクトな電池の開発により航続距離は次第に伸びていくことは間違いない。
最後は、「充電インフラが少ない」こと。今やガソリンスタンドは減少する一方で充電設備は全国的に増え、2022年時点で2万1千ヶ所以上(ガソリンスタンド数の6割以上)あると言われている。ただし人口の少ない地域や建物・施設の種類によっては大きな格差がある。住宅は一戸建てが中心で集合住宅などへの普及は進んでいない。
総じて、EV自体は技術革新と市場競争を経て、これからも普及していくと考えらるが、背景にある環境整備まで考えると必ずしも楽観はできない。欧州や中国に比べると充電設備の絶対数はまだまだ不足しているし、充電設備の普及を阻む問題(電力契約やメンテナンスコスト等)、国の補助金頼みではない、純粋な消費者ニーズとしてのEV普及へ移行するためのインセンティブ等の課題が残されているからだ。
自動車業界は歓迎か敬遠か?
一方、日本の自動車関連業界では世界のEV普及の勢いをどのように見ているのだろうか。2023年の帝国データバンク(TDB)の調査を参考にまとめてみよう。
まず、EVの普及が自動車産業に「マイナスの影響」があると回答した割合は全体の5割近くに上った。2022年の調査と比べるとこれは2.7ポイント増で、一方「プラスの影響」があると答えた割合は同年の調査から2.2ポイント減って14.3%だった。EV シフトにより、基幹部品が内燃エンジンから電気部品へと変わっていくことで部品点数がガソリン車よりも大幅に減る、つまり受注減を警戒している様子が伺える。
また、EV事業への参入については、日本のカーボンニュートラル宣言前である「3 年以上前から該当する事業あり」が15.6%、「3 年以内に新規事業として参入済み」が6.3%、「参入予定あり」が22.2%だった。「参入済みもしくは参入予定」を合わせると、4割超の企業が何らかのかたちでEV市場に関わっていく意向を持っていて、EV関連への事業拡大で収益を安定化させようとする動きがみられる。バッテリーやモーターなど需要が増加する部品もあるし、充電ステーションなど新たなサービスを拡充する機会が広がっていることなどがその理由であると調査は推測している。
なお、この調査で少し気になったのは、全業種を対象とした場合、EVシフトへの「影響はない」と「分からない」の合計が7割超にのぼることだ。カーボンニュートラルを目指すのであれば、自動車関連だけでなく、より幅広い業種で影響は出てくると思われるが、脱炭素社会への移行リスクに対する実感の乏しさを表しているのだろうか。
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