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GR86レビュー(SZ/6MT)

中古車市場が高騰していた

見識ある人には今更な話だが、日本では2020年から始まったコロナ禍はおよそ人類活動のほぼ全てに大なり小なりの、また良し悪しの影響を与えた。
自動車産業は影響を受けた産業の筆頭のだろう。大きく、かつ、悪い方で。

新車の納期は地球と大マゼラン星雲の距離ほど長くなり、かろうじて工場から出てきた新車には転売屋が殺到し、新車価格325万円のカローラクロスの中古がなぜか約500万円で販売された。

トヨタ「カローラクロス」の中古高騰なぜ? 新車300万円が中古500万円に!? 異常事態といえる中古市場とは
https://kuruma-news.jp/post/533498

くるまのニュース

こうなるとアホらしさを感じた人々が殺到するのが中古車であり、ビッグモーターという会社のフリをした暴力団が暴れたりしたのだが、そんなわけで僕の乗っていたカローラスポーツも買取価格が跳ね上がっていた。
カローラスポーツを降りるつもりでいた僕に、ディーラーの敏腕営業マンがGR86の期間限定受注(後でわかったが4ケタ造ったか怪しく、約4日間だったそうだ)の連絡を寄越し、トントン拍子でGR86に乗り換えることになった。


トラクションコントロールのモードに応じてメーターが自動で切り替わる。

このGR86は走るのに必要なものが全て揃っている。屋根のある軽量な車体、レスポンスに優れよく回る水平対向エンジンとそれを受け止める後輪駆動。しっかりとしたフィールで確実に入る6速マニュアルトランスミッション。レバーで引く本物の、よく効くサイドブレーキ。オートエアコン、そしてラップタイマーだ。
つまりここに無い物は全て「無くても構わない物」であり、競技で走るためにドライバーとコ・ドライバーの分でドアも座席も2つだけだ。後部座席と呼ばれる物が付いているが、僕が知っている座席ではない。なので、車検証の乗車定員が4名になっているのはトヨタとスバルのミスだろう。

エンジンは自然吸気らしい軽快なレスポンスで、約230馬力の程々のパワー全てを後輪に叩き込む。トラクションコントロールはよく出来ており、ノーマルモードでは恐怖を感じることはほぼ無い。つまる所、幾つかの点を我慢すれば買い物など街乗りも出来る車ということだ。

トラクションコントロールをTRACKモードにすると介入が大幅に減り、GR86の本性が現れる。車の伝えてくるインフォメーションの豊かさが、高速道路でも峠でも「次にどうすべきか」をドライバーに考えさせる。そしてドライバーの意志と操作に正確に応答してくれる。どこから踏んでもパワーを出してくれるエンジンと、優れた味付けのステアリングと後輪駆動には、性能やラップタイムの良し悪しを超えた純粋な楽しさがあると思う。

SZグレードには価格を下げるためにグリップしないタイヤが付いているが、このタイヤが実は悪くない。破綻する直前に明確に挙動が怪しくなるため、練習で坊主にするのには悪くない。またグリップが程々で、アクセル操作やサイドブレーキで簡単にスライドに持っていけるのも気に入っている。この辺りはライフや財布と相談だろう。

エアバッグとABSに加え、登り坂発進時に1秒ほどブレーキを保持する「ヒルホールドシステム」があるだけでも贅沢だが、定速クルーズコントロールが付いていることも評価したい。その速度制御が20年前のレガシィB4から全く進歩していない点は、スバルの優れたコスト抑制ということにしておく。
ピットレーンの規制速度に利用する物と思っているが、高速道路でも使えないことはない。


好みの話だが、先代より落ち着きつつ攻撃性ある前後フェイスが僕は好きだ。

シャープなエクステリアと、スポーツ性に富んだエンジンを低重心FRに組み合わせた古式ゆかしきライトウェイトスポーツカーが、約300万円から購入できる。こんな時代は恐らく今が最期だろう。トヨタの抵抗には期待したいが多くの人が予感していると思う。
その事実の前にはドアの枚数も乗り心地も収納の貧弱さも、雨の日にマンホールを踏むと滑ることも、大阪製軽トールワゴンのLEDヘッドライトの眩しさも気にならない。嘘ついた、最後のは絶対に許さん。

2023年12月現在、アプライドモデルCに移行したGR86/BRZは僕が購入した時より価格が上がり、AT・MT共にアイサイトが装備され販売されている。その是非について僕は何か言う気はないが、購入を迷っている人がこれを読んでいるなら、「迷う理由が値段なら買え、買う理由が値段ならやめとけ」という先人の言葉を贈る。
10年後に走行距離4万kmのGR86を200万円で買う、なんて想像するだけでも馬鹿らしいのだから。

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