魔王の契約
「よく来たな勇者よ。世界の半分をお前にやろう」
魔物の侵略によって恐慌した世界、勇者は苦難の果てついに魔王の玉座に辿り着く。
「ふざけるな!お前を倒して世界を解き放つ!」
「まあ待て、半分と言っても地下だぞ。俺は陽の光が溢れる地上が欲しいだけだ」
「論ずるまでもない!というか地上なかったら住めないじゃん」
「でも地下全部だよ?石油もレアメタルもダイヤモンド鉱山も全部お前のだよ。あっ海は共有資源ね。大金持ちになれるぞう」
「………ちょっとありだな」
「結構アリよりのアリでしょ!」
魔王は破顔した。取引に目がある嬉しさ、というよりはその道の通が理解してくれる同志を見つけた時のような満面の笑みだった。
ちょっと可愛げがある。
思わず勇者はたじろいだ。勇者に5のダメージ。こころがどうようした!
「だが地下資源で大金持ちになったって地上に家を建てれないんじゃ一緒じゃないか」
勇者の反撃!でも心なしか頼りないと言うかもう勇者は富に目が眩んでいます。マイホームの心配より先に地上の人々の暮らしを心配しなさいよ。
「それは俺が格安で優良物件を譲ってやるって。魔王城(予定)横の一等地に豪邸建てなよ。世界の二大支配者というか共同経営者みたいなもんじゃん。いいよいいよ」
魔王は思ったより気風が良かった。世界が手に入る目前なので気が大きくなっていたのだ。
「うーんでもなあ」
「なになに今更なに悩むことあるのよ」
魔王は揉手で勇者ににじりよる。
魔王というより商談中のサラリーマンのようだ。
「いや、地下資源もらっても人手もないから発掘にも大変じゃん」
「ああ、それなら魔王軍の力自慢のオークと鉱山堀に慣れてるゴブリンとドリルモゲラララを無期限貸与するよ。小遣いと飯だけあげてよ。元々食い詰めてて、征服したらお役御免になるし困ってたのよ。ちょうどいい働き口だ」
「ええー?いいのー?」
もう勇者はグラグラです。戦争が終わったら勇者もお役御免で地元で剣術道場でも開くかあ?と思っていたものの、でも勇者の潜在能力頼みだったし勇者の魔法は一般人にマスターできないしでぶっちゃけちょっと就活に困っていたのです。
ちなみに騎士団とかもダメでした。中小企業にいきなり東大博士号が来たらびっくりして警戒されるみたいな感じでやんわり避けられていました。
「あーでも魔王の手先になったら流石に王国で家庭は持てないだろうなあ。避けられそう」
勇者は一般家庭の出だったので孤独な大金持ちよりは一軒家に妻子、犬を飼って安定したサラリーと年金の補償される地方配属騎士になるのが夢でした(転勤は嫌だけどマイホームが建てれるなら単身赴任もまあいいかなタイプ)
「んーじゃあ一緒にすむ?」
急に魔王が話の角度を変えました。それも鋭くまるで秘剣燕返しのように。
魔王は頭に二つの角、死神のように青い肌、冬の夜のように暗い瞳。炎のように赤い唇を持ち怖られ、また絹のように輝く黒髪、整った目鼻立ち、常人離れしたスタイル、威厳溢れる立ち振る舞いをして絶世の美女とも讃えられていました。
「あっあっあっ悪魔の王など油断できん!断る!」
信用できたら一緒に住むのかよ。
清らかさを保つため今日まで童貞だった勇者は太刀打ちできません。何なら近づく魔王の顔を見つめることもできずに目を逸らし続けています。
ふう、急になんか興奮してきたな。話の風向きも変わったな。
「どうするのだ勇者よ。さっきからチラチラ見てるから気になっているのだろうがおっぱいはデカイぞ」
「そんなことわかって!いや!ちがくて!!」
「確かに顔はちょっとキツくて怖いと言われる俺だが」
「そんなことない!綺麗だ!いや、綺麗ではあるが!」
「確かに可愛げはないと言われるがな!ふふっ」
魔王が自嘲気味に笑います。まるで叶わぬ夢を話す少女のようです。
「笑顔が可愛かった!」
魔王の笑顔!勇者に会心の一撃!勇者の心の柔らかいところと体の硬くなったところに特攻だ!
「じゃあ、契約するか?あっ、魔界では契約だったがお前の暮らす地上では婚約と言うのだったな。どうだ?」
勝利を確信した魔王は勇者にもう一歩歩み寄りゆっくりと勇者を抱き寄せました。
どうして?と勇者は思います。争いあってたはずなのに。何で自分と結婚するんだろう?でも勇者を抱きしめて優しく微笑む魔王の顔は優しくて、どんな謎を解き明かそうとするのも野暮に思えました。
「……………うん」
勇者は顔を真っ赤にして頷いた。
それから少しして魔王城の閨で声がした。
「ね」
「なあに?」
「やっぱ侵略やめない?今なら軽傷の怪我人だけだしさ、俺余ってる山のアテあるからオーク達で開墾していいように持ってったら和平条約締結まで何とかなると思う」
「んんー?仕方ないにゃあ。じゃあ話してみて」
「信じてくれるの?ありがとう」
「んふふふ、まあさっきまでかなり素直だったしねえ」
魔王は蕩けるような笑顔で夫を見つめて言いました。
「それにね」
「それに?」
「魔王と魔王軍と勇者相手に和平結ばないとか多分ないっしょ。ぶっちゃけ王国を三回は滅ぼせるパワーバランスだよこれ」
そう言うと魔王はふっと蝋燭を吹き消して、手に入れた獲物を組み敷いて、どちらが強いかもう一度力比べを試みるのでした。
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