AIを利用するのは禁止です
あらすじ
教師猫村は生徒の一人、魔白から好意を持たれ、過剰なアピールを受ける。
だが実は彼女は悪魔の末裔で校内で秘密裏に開催される七天使、七悪魔、七人の超人類による三種七体戦争の参加者の一人だった。
巻き込まれる内に協力する事になる猫村だが天使との戦いの最中、猫村は命を落とす。
猫村が残した手がかりを元に魔白の魔法で天使を撃退したものの魔法が暴走し周囲の人間を巻き込んで自爆しそうになる。
それを止めたのは前回戦争を制覇した人物だった。
彼は猫村の命を助ける代わりにとんでもない条件を持ちかける。
それは魔法を一切使わずにこの戦争のゴールに辿り着く事。
だが元より断る選択肢は魔白には残されていなかった。
1.AIを利用するのは禁止です
「猫村せーんせ❤️AIを使うのは禁止です。ね?」
砂庭学園高等学校、2年D組、魔白サンドリヨンは教師猫村リリカの手にそっと触れて、上目遣いでそう言った。
教室。放課後。夕日が指す誰もいない教室。二人は教卓を挟んで見つめ合っていた。
17歳の女子高生、魔白サンドリヨン。透き通るような白い肌。長い黒髪。2年生の中でも一番の美少女と噂される容姿だ。
普段は誰とでも分け隔てなく接し明るく活発な性格なのだが、今はなぜか挑発的な表情で猫村リリカに話しかける。
そしてそれを振り払う猫村リリカ。27歳の女教師。豊かな長い金色の髪。夕焼けに透けて輝く。
親しみやすい性格で生徒からの人気も高い。だが今は魔白を警戒して銃を構えている。
「魔白。少し離れろ」
「怖いなあ。やめてよ先生」
にっこりと笑って何事もないように受け流す。
その背中に、まるで人間ではないかのように、黒い翼がはためいた。
銃を構えた猫村の手。僅かに震えが見てとれる。
「撃ってもいいよ?効かないから」
「どうしてお前に撃つと私の傷が増える?」
猫村は既に三発、いずれも至近距離で魔白に撃った。命中させたはずだ。だがその白い肌に弾丸は溶けて、瞬間、気づけば自身に傷がついていた。
「ははっ。言ったじゃん先生。だからぁ、悪魔だよ」
吸い込まれそうな赤い眼で猫村リリカを見つめて悪魔を模した少女はそう言った。
「まさか」
「そのまさか。アタシは」
次の言葉を待って猫村リリカは固唾を飲む。
だがそれより先にドアが開く音。
「はーダルいわーってうわ」
驚いたのか驚いていないのか、暢気な声。ニット帽を被った少年が飛び込んできた。さっきまでの剣呑な空気はどこへやら、教室の二人は突然のことに固まり、彼を見つめた。少年も二人をまじまじと眺める。
「え、何?どしたん?先生と魔白じゃん」
少年は兎塚良彦、何処にでもいる高校2年生だ。
「兎塚、危ないから今すぐ帰りなさい」
銃は悪魔から逸らさないまま教師は生徒に声をかけた。
「あっ、うさぎ彦じゃん。今先生のハートを奪おうとしてるとこ」
一方、悪魔はパッと綻んだ顔で同級生にあだ名で話しかけた。かなりフレンドリーに。とてもフランクに。
「「えっ」」
猫と兎が綺麗にハモる。
あれ、何か違うぞ?そう思った猫村は聞いてみた。
「魔白、悪魔とかどうのは置いといて、今日は何の用で私を呼び出して襲いかかったんだった?」
「えっと、先生にAIを使うのをやめて欲しくて……と言うか、アタシを頼って欲しいって言うかぁ、出来たらその、いっしょにお出かけしたりしたいなぁって」
悪魔で少女は頬を赤らめてはにかんでそう言った。17歳、年相応の少女らしく。
「「えっ!?」」
もう一度、猫と兎は綺麗にハモる。
「なあ、ちょっと聞いていい?さっき、すげえヤベえ顔で先生見てたけど、あれ何?」「ヤバい?本当!?クールでセクシーな魅力炸裂してた!?」
全然わかってない。全然わかってない魔白は柔らかな笑みを浮かべた。
「してない。そっちのヤバいではない。先生完全にヒイてたぞ」
高速で手を振って否定する学友だった。
ーーそっちのヤバいのではない。どっちそれ?てかヤバいって便利な言葉だなあ。何でも使えるもんな。使えるから意味すれ違ってるけど。ってか若者、ヤベえな。
少し冷静になってきた猫村は頭の隅でそう思う。
「全然逆効果。あとその悪魔アピールなんなん。内緒にしないとヤベえよ」
「えっ!?だってみんなアタシのこと『クールにしてたらすっごく美人だ』って!」「言ったけどよー。悪魔出しながらクールにしてたら悪役ムーブ過ぎんだろ。先生ビビってピストル出してんじゃん」
ーーそれって本物?
うさぎ彦はひたすら呑気だった。
「いや、不良生徒から押収したガスガンだけど、違法改造してるから威力が、ってそれより悪魔ってどういうことだ?」
ついさっきまでは悪魔で美少女に狙われてそれどころではなかった猫村だが、素顔は見知った生徒のままだったので少し余裕が出てきた。
「だって誘うからには本当のアタシ知ってほしいし、それに悪魔、かっこいいじゃん!良いとこアピってかないとっ!」
ーーだって悪魔、かっこいいじゃん
そう、面倒臭い事に、少女、魔白サンドリヨンは高二の癖に中2病だった。
しかもちょっとアホだった。
ーーああめんどくさい。
内心面倒臭くなった猫村だが、ふと気づく。
「おいうさぎ彦、魔白が悪魔って本当なのか」
「あっ」
やっちまったとばかりにうさぎ彦は顔を歪める。正直教師と(アホ)同級生の痴話喧嘩なんか巻き込まれたくない。忘れ物を取ってすぐ退散したい。でも二人の視線の交点に挟まって、逃げきれなかったお人好しのうさぎ彦だった。
「いやあ……たまたま知ったって言うか?てかそもそも何でこういうことになってんの?」
あからさまに誤魔化したうさぎ彦だった。だが思ったより効果があったようで、
「それもそうだ。魔白、何で私がAIを使うとダメなんだ?」
「だって……だって、先生がAIを使うようになったら私を頼ってもらえないし、そしたら魂奪えないじゃん!」
「ハートを奪うって思ったよりヤベえ意味だったんだな。完全に悪魔の所業じゃねえか」
ガスガンを再び構えなおす、ヤベえが移っちゃってヤベえアラサー女教師猫村リリカだった。
「もう一度言うけど、何でこういうことになってんの?」
うさぎ彦の問いは空中に浮かんで、誰も答えてくれないまま空に溶けた。
2.聞きたいよね?はじまりはじまり
じゃあうさぎ彦の為にアタシが一回だけ説明するね。そのアクションは三日前。アタシが先生を好きになったのはずっと前。前から一途なんだけどまあそれはいいや聞いてうさぎ彦。てんちをゆるがすだい事件が起こったのは三日前だ。
まずはいつも通り登校した。いつも通り紫のメッシュの入った黒髪を溶かして制服を綺麗に着込み、生活指導の先生に怒られない程度の薄いメイク。口紅はなくとも健康な桜色の唇はバッチリぷるぷるだ。逆に健康的すぎて悪魔らしくない。いつも通りおばあちゃんにおはよーって挨拶して、
「待ってその下り長い。要点だけお願い」
うるさいなうさぎ彦!うさぎ彦の癖に!まあいいや兎にそんな色々教えることないか。
「もう長い。早く。日も暮れたし帰りたいの俺」
聞いといて何なの!興味ないなら帰って!ともかく登校したの。いつもは眠いから1限目終わってからこっそり席に座るんだけど、その日は朝から現代社会だったの!そう!猫村先生の!絶対にサボる訳には行かない。だからちゃんと予鈴の5分前に座って、先生が来たらにこって会釈して授業もずっと真面目に受けてたの!そしたら5分くらい時間が余って猫村先生が雑談を始めたの!リリカちゃん!超レア!ちゃんと出席して良かったって思ったの。そしたらね、
「リリカちゃん言うな。ちゃんと猫村先生と呼べ」
いいじゃーんだって大好きだもん猫村先生。
(リリカちゃん先生が大好きだから言うことはちゃんと聞くんだよ?)
そしたら、猫村先生が最近ChatAI?とかいうAIソフトにハマってて、テストの採点をそれにしたり、調べるのが面倒な資料集めさせたりしてる!って!!許せなくない!?
「どこが?」
「ちょっと怠慢かもだけど、何も飛びかかることないだろ魔白」
でしょ!?許せないよね!
「誰も同意してねーよ」
いつも答案用紙に落書きしてそれとなく猫村先生にメッセージを伝えるのがささやかな楽しみだったのに!それに資料集めは勉強も兼ねて生徒にやらせるのが筋じゃない!?もう全く許せない、許せないわ。だから先生を呼び出したの!授業でわからないことがあるからって!
「なるほど、それで待ち伏せして襲いかかったんだな?」
違うわよ!先生にそんな卑怯な事しないわ!それに教えてもらう時だけは先生を独り占め出来るんだから!
「なんでだよ!?流れ的に襲うとこだろそこ!ていうか襲わないならその下りも飛ばせよ!帰ってラーメン食いてえんだよ!?」
うさぎうるさい。あんたが聞くから仕方なーく説明したげてんでしょ。それで気付いたの!そうだ誰もいない教室に呼び出して襲えばいいんだって!天才!アタシ天才!流石リリカちゃん先生の授業受けてるだけ!ある!
「結局その流れで襲ってんじゃねえか。てか早く襲えよ」
「うさぎ彦、先生の事ぞんざいに扱ってないか?いや私もせめて早く終わってと思ってはいるんだが」
話の腰折ったらもっと長引きそう?やだもー!先生だったらいつでも話しかけてくれていいですよーやだもー!
あれっ、なんでウゲって顔してるんです?うさぎのアホが何か失礼なこと言った?
「お前、アホだろ。いや知ってたけどさあ……」
「もういい魔白。私が話そう。そうやって何回か授業の補習をしてやってたら、今日はドアを開けるなりクロスチョップで飛びかかって来てな。何かよくわからんし追いかけ回されるから没収したガスガンで威嚇したんだ。ちょっと怖かったし。それでな、威嚇で当たらないように撃ったのに、間違って当ててしまって」
「クロスチョップなんでよ。そりゃ魔白の気持ちだの何だのは伝わらねーわ」
「それでな、そしたら何故か私の足に傷がついた。跳弾かと思ったんだが何度撃ってもそうなる。不思議に思ってたら、突然魔白が真顔になってそのままゆっくりにやって気持ち悪くて笑ってな。『私……悪魔なの』って急に不気味に言うんだよ!?」
「急にちょっと怖あ。ジャンル変わってきたじゃん」
ちょっと辞めてよ二人とも!本当はもう少し仲が深まってから悪魔だってバラすつもりだったんだけど、弾が当たらないからリリカちゃんあからさまに怪しんでるし、これはもう悪魔のいいとこプレゼンした方がいいかなって!ほらチャンスはピンチってよく言うじゃない!
「「ピンチはチャンスな」」
「あ、でも先生、今回先生を呼び出せてるのに台無しにしてるからチャンスはピンチでいいんじゃないすかぶはははははぶげぇ!」
「うさぎ彦ー!大丈夫か!ビンタで首がグルンなったぞ今!」
「ぶべべべ」
「うさぎ彦ー!」
ありがとううさぎ彦。アタシの初めての友達。
「お、起きろうさぎ彦ー!」
うさぎ彦が気絶して、日が暮れた教室でのちょっとした先生とアタシのハプニングはお開きになったのだった。
3.風船言葉に目が泳ぐ
教室を片付けて、帰る用意してなんだかんだしているとあっという間に日も暮れて、少し涼しい秋の夜に。
気絶したうさぎ彦はなかなか起きなかったが、叩いたら起きた。
(起きるまで叩いた)
そして、「じゃあ、俺ラーメン食って帰るから」
そう言ってうさぎ彦はさっさと先に帰ってしまったのだった。
猫村と魔白は何となくそのまま一緒に下校する事にした。
「足の傷は何ともない?」
「ああ、気付けば傷がどこにもなくてびっくりした。あれが魔法ってやつか?」
「うん。おばあちゃんがくれたお守りで、傷つけようとした相手に同じ傷の幻覚を見せるお呪いが掛かってるって」
「そっか。羽は?しまったのか?」
「うん。テンション上がると飛び出ちゃうけど、好きにしまえるんだよ」
猫村が聞きたい事は本当はそうではなかったが、どう聞いていいのかわからなくて、二人とも押し黙ったまま、静かに連れ立って歩いた。
「そう言えば、帰りが一緒になるのは初めてだったか」
黙ったままもどうかと思ったのか、当たり障りのない話題を猫村は魔白に向けてみた。
「そうだね。猫村先生ってどの辺に住んでるの?」
「んー?ケーキ屋さんあるだろ?スーパーの所を左の。ゲーテアヴニール。そこからちょっと行ったとこ。魔白の家から近いか?」
「途中までは一緒。スーパーの隣の大きいマンションに住んでる」
「おー、学校近くていいな。病院もスーパーも近いしあの辺便利そうだな」
「ねえ、悪魔がどうして学校行ってるのかとか、聞かないの、先生?」
そう言って魔白は眼を伏せて立ち止まった。
猫村は少し歩いて離れた彼女を振り向いて見た。
街灯がぼんやりと二人を照らす。影が猫村の顔を覆い隠す。沈黙が訪れ、答えを待つ魔白の体が少し強張る。
「知られたいなら聞くし知られたくないなら聞かない。それだけだ」
優しくも厳しくもない、努めて穏やかな声。
少し魔白の目が、表情が和らいだ。
「気にならないの?気持ち悪いとか、不気味だとか」
「うさぎ彦はお前の素性を知ってたけど、普通に仲良さそうだったろ?魔白が困ってなくて、友達が受け入れてるなら、細かい事はどうでもいいんだよ」
ーーどうでもいい、は大雑把過ぎたか?
そう言ってけらけら笑う教師の顔は、大人というよりはまるで同い年の悪友のようだった。
ーーそっか。
こぼれ落ちて夜の底にこつんと跳ねた小さい声。
「先生のそう言う所が好きだよ」
ほころんだ花のような笑顔で魔白サンドリヨンはそう言った。
「そういや魔白、何で私を……じゃなくて、あー、んん……」
何か聞こうとして言葉が定まらなくて気持ちと言葉が宙に浮く。目に見えないそれを二人で探して、飛んでく風船を探すみたいに二つの視線がふらふらと宙を泳いだ。泳いだ目線が街灯の明かりに吸い込まれそうになる。そしてそれに反発した時二人は互いに目が合って、空から言葉が落ちてきた。
「魔白、土曜にデートしようか」
不意に着地した言葉はそんな形をしていた。
聞き返したい事は沢山あったが、魔白サンドリヨンは顔を真っ赤にして、何度も首を振ることしか出来ないのだった。
4.浮かれっぱなしのバカに手放しで拍手。喝采を寄越せと夢見がちで握手
「ねねね、うさぎ彦うさぎ彦!デート決まった!」
翌日の金曜日、授業中。魔白は教科書がないからとうさぎ彦に見せてもらっていた。が、授業ほったらかしで報告した。嬉しくて誰でも良いから聞いて欲しかったのだ。
「うるせえよ良かったね。授業中だぞ怒られるだろ」
「何着よう何着よう!向こうに合わせて大人っぽい格好した方がいい?それか現役女子高生感全面に押し出す?スカートはプリーツ?どう?どうなの?」
喜色満面の魔白は早口の小声で捲し立てる。
うんざりしたうさぎ彦はつい強い口調で言い返してしまうのだった。
「どうでもいいよサイコロで決めろよ!授業中だぞ!」
「うるさいぞ兎塚!サイコロで遊ぶな!」
「すいませんでした先生!」
巻き込まれた上に先生に怒られて何も得のないうさぎ彦だった。
5.高校生舐めんな。あとエコ贔屓が過ぎるぞ
土曜日。魔白は学校から七駅離れたショッピングモールの入り口で猫村を待っていた。髪の毛をアップにして、耳元にゴールドの星と花のイヤリング。紫の小花柄を散らしたブラウスに黒いパンツ。足元はまだ履き慣れていないヒールの高いパンプス。
元が顔とスタイルの良い美少女だった為、一見高校生に見えない大人びた雰囲気の美女に見える。
少しして猫村が現れた。薄い水色のワンピース、白いストラップのサンダル、耐久性の高い事で有名な分厚い男物の黒い腕時計がバングルのように左手首に持て余されて揺れている。オフィスカジュアルの普段とは打って変わって猫村の方が大人びた服装の魔白より年下のように見える。
「待たせたか?」
「待ってないです!ピッタリです。あととっても可愛いです」
「照れるな。しかし魔白は本当に美人だな。隣を歩くのが恥ずかしいぐらいだ」
「ありがとうございます!先生こそイケてる美人女子大生って言うか女子アナっていうか!好きです!」
学校でなら素直にラフに話しかけられるのに、デート相手の私服に舞い上がって思わず敬語になってしまう魔白だった。
「お前は素直で可愛い奴だなあ。ああ、バレるとまずいから先生はよしてくれ。今日はリリカちゃんでいい」
学校での態度とは打って変わってウインクしながらしーっと指を当てる猫村リリカだった。
「リリカちゃん!今結婚してください」
「見たい映画があるんだ。付き合ってくれよ」
「住みたい家があるんだ!?付き合ってくれよ!?ジーマー!?」
「付き合ってられねえ。ついてこい。行くぞ」
猫村は思わず苦笑する。ウザったらしいが好意が素直すぎて突き放しにくいのだ。
「ねえねえリリカちゃん、あたしあのラブロマもの見たいんだけど。あと腕組んでいい?」
「勝手にしろ」
少しして、映画を終えて二人は喫茶店で一休みすることにした。
「ねえリリカちゃん。何で誘ってくれたの?」
「うん?」
「だって、この前、なんかそんなんじゃなかったし」
「あー……まあなんだ、生徒と教師の良くある恋愛ドラマなら『卒業まで待て、それで気持ちが変わらなかったら』とか言うとこなんだろうけどな」
カフェオレを少し啜って、静かに魔白を見据えた。口調はぶっきらぼうだが砂糖のたっぷり入ったカフェオレを飲みながらなのでいまいち締まらない。ともあれ態度だけはしっかりと大人の貫禄を見せつけて猫村は続ける。
「嫌いなんだよ、そういうの。まず生徒の気持ちも舐めてるし頭悪いと思ってるだろ。舐めんな。真剣に考え抜いたからこそ在学中に言い出してんだろうが。舐めやがって」
猫村は急に強い口調で吐き捨てた。まるで教師でなく生徒の側のような言葉に魔白は驚いた。そしてこう続けた。
「だからまあ、学校には内緒にしてもらうがたまにならこうして会ってやってもいい。本気で口説いてみろ」
「ええっ!?いいの!」
「いいよ。でも別に好きとかねえから、何も起こらねえけどな」
魔白は何も話さなくなった。両手でコーヒーカップを支えて、ほうっ、と息を少し吐いた。眦が緩む。
別に何かがうまく行った訳ではない。道行きの保証は何もない。それでもこの先を照らす灯りが少しついたような気がしたからだ。
「ああ、そうだ。調理師免許持ってんだよ」
「ええ?何急にリリカちゃん。何の話?」
「いや話はまだ続いてんだよ」
魔白にはさっぱり意図がわからないが、どうやら話は続いているらしい。
「どう言うこと?」
「教師、辞めてやるよ」
「いやいやいや意味がわからない」
散々高いテンションでクラスのみんな(主にうさぎ彦)を振り回してきた魔白だったが、こと猫村とのデートは振り回されっぱなしだ。思わず真顔でツッコミを入れてしまう。
「あ、わかんねえか。ええと、つまりだ。卒業まで待てとか考え直せとか私は言わない。月一くらいならこうして会ってもいい。お前が本気なら口説き落として見せろ。ただし学校、生徒にも同僚にもバレたら大問題だ。当然責任は取るし学校はやめる。実家の喫茶店継ぐわ」
「絶対だめだよ何言ってんの?」
「いいや辞める。でもお前はそれでいちいち行動を変えるな。本当の愛がそこにあって誰かと生きるって事はその人の人生を変えるって事なんだ。仕事の一つくらい平気で無くなったり変わったりするんだよ」
さっきまでほっとしていた魔白だったのに、猫村が教師を辞める可能性を持ち出したので途端に狼狽出した。
「リリカちゃん、極端じゃない!?嬉しいけど!」
「そうか?……思ったよりお前の事気に入ったのかもな」
言って猫村はふへへとだらしなく笑う。
猫村は話し方はいつもぶっきらぼうだがともかく誰にでも対等な目線で接しようとする。そして今日みたいに自分に何の得もないことにあっさり進退を賭けてしまう。
それでも何でもないように、ヘラヘラ笑ってみせるのだった。
まるでジェットコースターのように魔白の気持ちを振り回す。だがこのように笑顔を見せられては、魔白も笑って返すしかないのだった。
そしてどちらからともなく言葉が途切れた。決して不愉快ではない心地よい沈黙が続いた。
だが、次の言葉はどちらでもない所から聞こえた。
「おやおや。めでたしめでたし、と言った風だけど、何も解決していないし何も説明していないし、何も疑っていないんじゃないかい?」
突如聞こえた声。気付けばいつのまにか、シルクの良く手入れのされたスーツに身を包んだ貴婦人が席について紅茶を啜っていた。それは彼女たちの通う砂庭学園の学園長、宇一春花だった。
6.この話興味あります?
「びっくりした!学園長、何でいるんすか」
突然自分の学校の学園長が、現れたどころか既に座って紅茶を飲んでいるものだから、猫村は心底驚嘆した風に宇一春花を見た。一方魔白はどこか落ち着いていて、何度か同じ事を経験したような雰囲気だった。
「何で……って、うちで勤めている教師が一丁前に大人ぶっちゃってうちの生徒誑かしてるもんだから、つい口を出したくなっちゃって。」
宇一は紅茶のカップを手にしたまま、優雅に肩をすくめる。
「まあそれは良いよ。高校生なんか勉強と恋愛しかやる事ないんだから、こそこそするんならバレるまでは何も言わないよ。それより猫村さん、何故魔白さんの出自について聞かないの?悪魔だって、知ってるんでしょ?」
心底不思議そうにあっさりと、猫村があえて避けていた話題に切り込んだ。
宇一春花は美しい整った顔立ちの女性で、恐らく六十代以上の年齢のはずだが、どう見ても三十代前半にしか見えない。いつも急にやってきてはあっさりと話題の核心に触れ、整った顔立ちのせいか妙に迫力もあるので砂庭の魔女と称される女傑だ。
「聞きましたけど、日常生活に支障がないなら別に。クラスの皆とも仲良くしてますし授業も……まあ学科によりますが比較的真面目に受けてます。学園長に報告する程でもないのかなって」
今度は猫村が肩をすくめた。魔女が相手であっても自然体で物怖じはしない。
魔女は溜息を一つついた。
「はあ……もう、そこが猫村先生の良いところなんでしょうけど。でもサンドラもサンドラよ。大事な事を何も説明せずに一般人に素性だけバラさないで」
「ごめんなさい春花さん」
珍しく魔白はしおらしく頭を下げた。魔女を下の名前で呼んで、親しげに見える。
魔女は溜息をもう一つ。
「はあ、なんで二人ともそんな呑気なのよ。いい?猫村さん、サンドラは悪魔です。正確には彼女の祖母が悪魔。サンドラはその血を引いてるだけ」
「そう!四分の一悪魔のだいたい人間!ハーフアンドハーフだよ!」
「それを言うならクォーターな。びっくりはしましたが、それが何です?私仏教徒なのであまりピンと来てないんですよ。悪魔って言ったって、最初にガスガンが当たらない御呪いを見せられたくらいで」
魔女は腕を組んで少し考え込んで、
「じゃあ良いわ。全部話します。まずは場所を変えましょう」
そう言うと指を鳴らし、三人はいつの間にか砂庭学園の校舎、立ち入り禁止の屋上に来ていた。
「うわ凄い。これ学園長の魔法ですか?」
ーー本当に魔女なんだ。
と猫村は呑気に独りごちる。
「私のことはいいわ。ええと、何から話す?そう、少し昔、神様のお墓が見つかったの」
「お墓?神様がいるとか居ないじゃなくて、お墓が?」
「そう。前から私みたいな魔女なりどこかの僧侶なり、神秘に触れた人間はみんな何となくわかってた。文明が発展するに従って、明らかに魔法の出力が落ちてる。多分世界の物理法則が現在進行形で書き換えられていると。それから少しして、天使と悪魔がほぼ同時期に接触して来た。そしてこう言った。『もう限界が近い、神が失われて神秘が失せる。我々ももう消えて無くなる』と」
「魔白の前で言うことじゃないけど、それは人間に何か影響が?」
「もうすぐ消えるといってもあと100年くらい、七人の天使と七人の悪魔、国中を7日で焼け野原に出来る、人間の物理的な兵器はほぼ効かない。初めての絶滅を前にして気が立っていて、八つ当たりしたがってる。ちなみに神が人間の為だけに世界創造した事がとーっても気に入らない」
猫村は寒気がした。
ーー世界が滅ばずに私が契約を結べたのはほぼ偶然ね。
魔女はそう付け加えた。
「結局、天使と悪魔は人と交わる事を選んだ。人と交わる事で体が世界に順応して延命出来ることがわかったから。その末裔の一人がこの子よ。そして、」
「長い!飽きた!お腹も!空いた!」
突然魔白が騒ぎ出した。授業だろうが何だろうが長い説明は嫌いだしデートを邪魔された上でまさか休みの日に学校だなんて!と言いたくて仕方がないのだ。
「わかったわよ!何で性格まで葦ちゃんに似ちゃったの!もう、折角葦火に似て美人に生まれたのに、性格まで似るなんて!」
そう言いながら魔女は魔白を指さして軽く手を振る。
ポン!という音と共に魔白の手に三段重ねのアイスクリームが現れた。
「うわーいサースティワンのキャラメルエクスキューションリボンだ!」
サースティワンはマスコットキャラの渇くもの君で有名なアイスクリームショップだ。
キャッチコピーは「1日一つ、選んでも、月の最後は喉乾く。来月も食べようアイスクリーム!」(普通に欠品では、と客は皆思うらしいが)
「もういいわ、要点だけ。天使と悪魔を宥める為に契約したの。七人の天使七人の悪魔、その末裔に学園に入ってもらい、たった一人の勝者だけが月の裏側にある神の墓所へ行く権利を得る。そこには辿り着いた者の望む全てが叶う神の遺産が待っていて、天使か悪魔が自分達の復興を願えば世界は滅びる。それを阻止するための人類の切り札も七人。『例外』、『過去』、『未来』、『魔法』、『宿命』、『運命』、『戦争』の名を冠する七人の超人。この二十一人と砂の魔女が運営する戦争こそが、契約番号621番、三種七体戦争」
「契約上私は誰の名前も明かせない。その上で問題点が二つ。サンドラ、無記名文書を出して」
「えーと、えい」
魔白が手のひらを宙にかざすと、手元に薄いA4サイズ程度の本が現れた。表面はつるつるの金属のような薄いグレーの表紙、ページは20ページほど、表紙も中身も見た事のない文字。
表紙に三文字、六文字、二文字、十文字と間隔をあけて四つの単語が並んでいる。
そのまま魔白は猫村に本を手渡す。
「魔白の一族は遥かな時代に存在した魔導書を呼び出すことができる。書には強大な魔法が秘められていて、彼女の祖母もとても強力な悪魔だった。途中で予想外の事件がなければぶっちぎりで優勝していたくらいのね。
悪魔と天使はこの戦争に参加するのは3回目だから、孫のサンドラは絶対マークされてるわ。魔力や魂の色を見てもサンドラの素質に間違いはない。この本も絶対に強力な魔法が使えるはず。ただし、」
「ただし?」
言葉を区切って魔女は溜息を一つ。今日何度目だろうか?
「この本、彼女の祖母含めて皆読めないの。どこの悪魔の言葉か検討もつかない。どんな古い魔導書の文字にも似てないそうよ。魔白葦火、彼女の祖母、禁忌の書すら扱う悪魔がそう言うのだから間違いないわ。でも本当に貴重で強大な魔導書のはず。悪魔が知らないのだからそれこそ神様が作ったのかも。
その中の全ての法則でなくても、1ページでも解読出来れば生き残れるはずよ。
「えっとじゃあ、二十人の超能力者に優勝候補と勘違いされてる素手の高校生がいるって事?武器は読めない本?」
「そう。ヤバいでしょ」
「ヤバい。それはヤバい。魔白、お前よくそんなんで私を口説く暇あったな」
「へへへ」
「今回はね、褒めてません」
「そして問題点がもう一つ。超人のうち運命と宿命は姉弟だったのだけど、その姉、冬國橙子はリタイア。弟の冬國沈は神の墓所への到達によるクリア。いい?既に一回クリアされたのよ。どんな手を使ったか知らないけど。
そこから参加者全員の空気が明らかに変わった。
天使悪魔と言っても参加者は今時の高校生。神様のお墓、なんて眉唾信じてなかった。それが実在した上に抜け駆けされたのよ。天使も悪魔も純血の人間を見下してたからもうカンカンよ。……一気に一触即発の空気。悪魔は抜け駆けしようと足を引っ張りあってるし、天使は七人全員で同盟を組んで先に悪魔と人間を潰すつもり」
ーーだけど魔白は何の武器もない。本を使いこなせば優勝候補間違いなしの逸材が丸腰で歩いてる。間違いなく狙われるはずだ。
そう考え込んでいた猫村の左手に突如柔らかいものが触れた。
「こら!片手にアイスクリーム、反対の手で指相撲を始める馬鹿がいるか!
「ごめん、春花さん。だって暇すぎてさあ。それよりリリカちゃんの指すべすべ〜」
「なんかキャバクラのおっさんみたいだな」
「もういい!帰れ!」
「あ、元の場所に戻せます?ちょっと服見たかったの思い出して」
「やだそれ超デートっぽい!お揃い!お揃いコーデしよ!」
「うるさい!徒歩で帰れ!いいか!流石に見かねてこっそり保険は用意したけど私は運営側だから限界がある。
いい!?絶対に気をつけて!学園から三駅くらいは監視つけれるけどそっからは無理だから!
終了期限は年末だからそれまで逃げ切るか、本を解読するかしなさい。この際ChatAIでも何でも使っていいから」
「ええー、春花さんまでAIの肩持つの?やめようよー魔女と悪魔なんだからアナログでいいじゃん。いいよー?紙の本」
「えっと、学園長、真面目に魔白を心配してくださってるのに本人がアホですいません」
「良いのよ……この子の祖母とは古い付き合いなんだけど、親子三代ずーっと、ずーっとこんな性格のヤツばかりで、ずーっと私が何だかんだ面倒見る羽目になってるの」
いつもは学園のトップとして君臨する女傑であったが、この時ばかりは何となく親戚の優しいおばさんのように見えた。
そういえば、と会話の流れで流してしまったがふと気になったことを猫村は尋ねる。
「そういえば、何で悪魔と人間が交われるってそのタイミングでわかったんですか?」
「この子の祖母、魔白葦火が三種七体戦争をブッチしてその辺の男と駆け落ちして、子供作って帰ってきたのよ。『一目惚れしたのー!春花ちゃんもそういうのあるでしょー!』って」
ーーあのボケと小声で毒づいた。
「サンドラたちが本当に本当に本当に可愛いから水に流してやったけどあのボケ!」
堪えきれず大声で毒づく魔女だった。
これ以上は何だかこちらにも飛び火しそうだったので早々に二人は退散することにした。なんだかデートという雰囲気でもなくなり、何となく帰る運びとなった。
「なんかよくわからんけど大変だな。てか学園長何でも出来そうなのに解決できないのか?」
「春花さんは契約の魔女だから。戦争自体の契約破棄はできないよ。学園にワープしたのは自分の持ち物だからだし、アイスクリームは学食でショップと契約してるから。
契約通りなら強いんだけど、三種七体戦争自体が契約だから手出し出来ないんだって。今日もアタシが学園から離れたから様子見に来たんだと思う。」
「参加者には平等にするはずなのに、随分可愛がられてるんだな」
「うん。おばあちゃんと契約関係にあって昔から仲良しで家族ぐるみって言うか、春花さんもアタシのおばあちゃんみたいなもんなの。」
「仲良しだなあ。でも魔女と悪魔の契約って凄いなあ。魂と引き換えに願いを叶えようみたいなやつか?」
「気になって一回聞いてみたんだけど、『おばあちゃんになっても毎年一緒に花火を見ようね』って約束したんだって」
「単なるズッ友じゃねえか!そんなもん契約って言うなババア!」
叫んでから、学園長に聞かれてないか猫村はすぐに振り返り、何事もなさそうだとわかると帰路についたのだった。
7.興味あるんでもうちょっと調べて良いですか
魔白と別れて猫村は帰宅した。
少し考える事があった。学園長は冬國姉弟の名前を出した。クリアした弟だけでなくリタイアした姉の名前まで。契約により三種七体戦争については必要以上に話せないはず。クリアした弟はともかく、わざわざ姉の事まで。あれは恐らくヒントだ。
そして猫村は冬國の名前を知っていた。魔白の前では言わなかったが。冬國橙子。高校生ながら天才と評され某国の軍事研究所にも招聘された才女だ。だが少し前に死亡したている。原因は不明。クリアした弟の方も気になるが、確か目や手足に障害があった以外は成績などどこも平凡だった覚えがある。
恐らく学園長の言いたい事はそこだ。冬國姉の不可解な死。もしかして三種七体戦争のせいか?
だとするとこのゲームには人を殺しても平気なヤツがいる。
まあ優勝賞品を考えれば決しておかしくない。
魔白には教えられないからああしてヒントを出したのだろう。
軽めの夕食を済ませ風呂に入り、あとは寝るだけ。そしてスマートフォンを開く。
「さっきの本、20ページもないから一応スクショしたけど、
本のタイトルも作者名もわからないんじゃなあ。遥かな古代の魔法の書、とか専門外も良いとこだ。考古学者とか言語学者とか探すか?」
本の手触りはツルツルすべすべとして今でも思い出せるが、果たして金属なのか紙なのか、素材すらわからない。
「タイトルの最初の単語と次の単語の最初三文字は一緒だな。んで左から1番、4番、17番目が同じ、11番目は似てるけど違う。3番、6番、12番目14番目が一緒。2番、5番、18番が同じ。20番は似てるけど微妙に短い。
象形文字っぽいのがないから一応表音文字と仮定して……まあ悪魔の言語なーんも知らんから全然わからんけどな。ノーヒントだし。
でも1ページくらいなんかわかればな。挿絵もあるがなんかよくわからん。
星、月、ブラックホールのような何となく天体を思わせるようなイラストがところどころに挿入されている。
猫村は何度も諦めてスマホをロックし、少しするとまた本の画像を呼び出しうんうんと一人で唸り続ける。
「すーべーてーのほーうーそーくーとか言うけど一文字もわからんのに法則性もクソもあるかよ。
もっと天才科学者連れてこいよ。こちとら単なる高校教師だぞ」
唸り続けた。何度も。悩み続けて。何度も。
するとピコン!と電子音が鳴った。思わずビクついた。魔白からのメッセージ通知。
ーー先生今日はありがとう。本の事は気にしないで。大変だけど覚悟は出来てるから。それより年末までまだ時間あるしまた遊ぼうね。
思わず頬が緩む。曲がりなりにも教師だ。気持ちに応えるつもりは実はまるでないのだが、好意が素直すぎて何だか小学生みたいで跳ね除けきれないのだ。
猫村は文章、言葉、本。そういうものは嫌いではなかった。この世界は2000年前の本でも現存していれば翻訳されて読むことが出来る。そして遠く離れていても電波があればこうして言葉は届く。
はるか昔の誰か、はるか遠くの誰かの言葉が胸の内にすとんと入ってくる。まるで魔法のようだ。だから魔白の一族の魔法が本だと知った時、少し嬉しかった。悪魔だと言うが、その悪魔は人間と毎年花火を見に行くくらい仲良くなって、誰かと恋に落ちて、過去の誰かが未来の誰かへ話すための物、書物を魔法に選んでいる。最初は面食らったが、出会った悪魔が魔白でよかった。
猫村は教師も一緒だと思う。これから旅立って行く若者の知識を増やす。先に生きるものは皆子供達を祝福する。これから長い時を生きて未来を切り開いて行く子供達を。
猫村自身もそうだった。かつて料理人の祖父から洋食を一通り仕込んでもらった。調理師免許を取れるほどのめり込んだのだが、教える、教わる、そして出来るようになる事が増える事、それが楽しくて教師になってしまった。だが祖父はとても喜んでくれた。「何一つなくなりはしないんだよ。俺の分まで持ってってくれ」と、そう言った。
そしてこの本が解読出来れば猫村と未来に贈り物をしてやれる。だから猫村はまだ考え込む。手がかりがなくても。
「七人の超人とやらに名探偵シャーロックホームズでもいないのか。いればこんな暗号一発だと思うが」
愚痴をこぼす間も片時も目は画面から離れなかった。何度も考え続けた。そして、
「うーん。うん?んん?あっ!!!全ての法則は!解ける!そっか!これか!
これ解けるわ!うっわあ!そっか!早く教えたいなこれ!」
ーー明日魔白に教えてやろう。
そう言うとそのままベッドに倒れ伏し、予想外の喜びを抱きながら満足げに眠ったのだった。