Jクラブも注目!JFL新人王候補いわきFC嵯峨理久とは
「いわきの2番はいいよね」
と、複数のJリーグクラブ関係者が称賛するJFLいわきFCのルーキーMF嵯峨理久は、現在22試合6得点4アシスト(開催全試合で先発出場)と大車輪の活躍を見せている。右SBを主戦場と考慮すれば突出した数字であり、攻守で存在感を見せる彼の活躍なくして首位を走る好調いわきFCを語れない。実際に嵯峨の獲得により4バック戦術が採用されたと評価されるほどで、大卒新人ながらチームの核として重用されている。リーグ新人王候補筆頭して注目される嵯峨理久について迫る。
(敬称略)
◆評価うなぎのぼりのランニングモンスター
嵯峨を語る上で、豊富な運動量は外すことができない。いや、ありきたりな”豊富な”という形容詞で収まらない”化け物じみた”走力は圧巻の一言に尽きる。あるJクラブ関係者は「運動量はJ1トップ選手と比較しても遜色がないのでは」と目を丸くしていた。具体的な数値は挙げられないものの、脅威のランニングはプロ関係者も絶賛している。
仙台大で先輩だった横浜FCのMF松尾佑介は嵯峨の並外れたランニングに「彼の運動量は(いい意味で)おかしい。疲れない走り方をしている」と振り返っていた。また青森山田で同期のジェフユナイテッド市原・千葉 MF髙橋壱晟は「理久のプレースタイルは気持ちが伝わってくる。近くにいて刺激をもらえる」と、そのダイナミックなプレーを称賛していた。
いわき入団後から不慣れな右SBをプレーするようになったが、青森山田高時代から怪物と評されるスタミナに、大学で伸びた戦術理解力の成長が重なり、ポジションを勝ち取った。得意とする左WGで出場した敵地ソニー仙台戦では2得点をマーク。サイドならどこでもこなせるユーティリティ性も含め、期待のスーパールーキーとして数多の熱い視線が注がれている。
◆彼の努力は病気です
嵯峨といえば、ケタ違いの努力が挙げられる。彼と共にプレーしたある選手は「嵯峨理久の練習量はありえないですね。あれは病気ですよ…」。以前地元紙にも取り上げられた「多い時には1日400本のシュート練習」(当エピソードは私のインタビュー記事が先です)は彼の努力を代表するエピソードの一つだ(シュート練習は氷山の一角。エピソードは数多あるが、今回は割愛)。シュート練習で得た最大の成果は左足の精度だ。練習前はオモチャ扱いされていた左足だったが、とてつもない練習量で武器へと昇華した。今季JFL第23節Honda FC戦で決めた左足のシュートは、多くのサポーターや関係者をくぎ付けにした。
アマチュア最強チーム相手に存在感を見せた嵯峨は、敵のタックルを物ともせず、相手DFを置き去りにして左足一閃の同点弾を決めた。いわきで鍛え上げたフィジカルとこれまで重ねてきた鍛錬の成果が、この一撃で証明された。
その努力は身体を動かす以外に、頭も鍛え上げた。自身とプレースタイルが酷似する選手複数人のプレー動作を観察。オフザボールの動き出し、シュートを打つタイミングなど研究に研究を重ねるなど、プレーの質をブラシュアップすることに成功。昨季東北大学サッカーリーグ1部で6試合11得点3アシストと爆発した。今季も見せるその得点力の高さは、たゆまぬ努力の賜物である。
◆頭を深く下げる理由
とあるサポーターから「嵯峨理久は試合が負けると僕らに深々と頭を下げてくる。あれだけ頑張っている選手が深く頭を下げられると悔しさや気持ちが伝わってくる」と話を聞いた。彼が頭を深く下げる理由はデビュー戦で味わった苦い経験からくるものだった。
今年2月28日に開催された東日本大震災メモリアルマッチ福島ダービーで宿敵福島ユナイテッドと対戦。結果は0-1で惜敗し、嵯峨も十分なパフォーマンスを見せられなかった。悔しさもあって気落ちしていたが、その様子を見た友人から「お客さんは遠くから見に来ている。不貞腐れた態度のお前を見に来てはいない」と叱責されたという。それから勝てばサポーターと一緒に喜びを爆発させ、敗戦すれば深く頭を下げてサポーターに詫びる。サポーターと喜びも、悲しみも分かち合うことを大切にする振る舞いは、一流のプロと通ずるものがある。
今季もコロナ禍の影響により、ファンサービスが制限されている。特技は一発芸と、いじられキャラで人懐っこい嵯峨にとって、ファンと交流する場が少ないことは残念でしかない。それなら全力でプレーし、勝利することで一人でも多くのサポーターを笑顔にしたい。彼のファンを愛する気持ちも注目してきたい。
◆後書き
大学時代はJ1、J2の複数チームから注目されていた有望選手だったが、コロナ禍の影響によりキャンプ参加などができなかった。それでもJ3数クラブからオファーを受けたが、自身の成長を求めて下部リーグのいわきFCを選んだ。今季見せる破竹の活躍を見れば、彼の選択は間違いなかったと言えるだろう。Jチーム注目のJFL新人王候補の活躍から目が離せない。
〈了〉
文・高橋アオ