「許さない」~映画『女相続人』
古い映画は、なかなか手に取りにくい。
だからこそ、こういうクラシック系の名画のDVDが多い図書館の存在が、ありがたい。
あらすじは割と単純。
莫大な財産を持つ、世間知らずで内気な女性と、財産目当てに近づく「美形」の青年。
青年の思惑を見抜いた父は大反対。
娘にもその旨を伝えるが、恋に夢中な娘は、聞く耳を持たない。
見ていると、よくもまあツルツルと心地よい言葉が出るものだ、と感心する。それに舞い上がるヒロインの様子も、いかにもそういう事に縁がなかった、という事実を感じさせてわかりやすい。
内気でおどおどしているが、初めての恋に目を輝かせ、花のように微笑む、純真な女の子。
しかし、父から「取柄がない」と断じられ、父の不興を買ったせいで財産を継げそうにない、とわかった恋人からは駆け落ちの約束を反故にされ…
その事件を境に、彼女の表情も声もぞっとするほど変わる。
父に話しかけられても刺繍の手を止めず、鏡越しにしか振り向かない。
父の死から数年後、のこのこと戻ってきて、叔母をつなぎに復縁を企む恋人に、結婚に応じるような(でも、数年前とは表情が全く違う)ふりをみせつつ、彼がいなくなると…
「彼はまた現れた。同じウソを並べながら。さらに強欲になって。初めは財産だけだったのに、今は愛まで欲しがっている。来るべきでない家に2度も訪れるとは。3度目は許さない」
淡々と、低い声で言う。
「許さない」
女性が、このような言葉を特に淡々と言う時ほど、怖い物はあるまい。
しかも、ヒロインはそれまで刺繍をしていた手を止めて、上の台詞を言うのだ。まるで自分の怨念を、はっきりした形として刻み込むように。自分にも、相手にも。
そして、毅然として揺らぐことがない。
やがて、数年前の「駆け落ち」をやり直すかのように恋人が再訪すると、静かに家の灯を消し、階段を登って行く。
「許さない」
過去の甘い思い出も、今また現れた男の存在も、綺麗に捨て去って、生きて行く。両親から相続した莫大な財産と共に。
怖い怖い。