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石破茂首相の「アジア版NATO」論は無謀でしかない

今月から就任した石破茂首相の持論たる「アジア版NATO」論が大きな波紋を呼んでいます。
アジア版NATOは厳密には憲法違反とは言えませんがこの提案に多くの問題点も多くあります。
それを一つ一つ解説していきます。

■アジア版NATO連合軍に自衛隊の指揮権を平時から移譲させるのは主権の放棄ではないか

NATOは言うまでもなく大西洋条約という多国間の集団防衛の安全保障条約に基づく
軍事同盟ですがこのNATOには政治機構のNATO本部の他に軍事機構の
NATO連合軍があります。このNATO連合軍にはNATO加盟国の軍が一部の部隊を
NATO連合軍の指揮下に置いてますが、このNATO連合軍の最高司令官は
米軍の地域別統合軍の一つである米欧州軍の司令官が兼任しています。
つまりNATO連合軍は実質米欧州軍の指揮下にありあす。NATO連合軍は平時から設置されているので
NATO連合軍に自軍の部隊を平時から編入させてる加盟国からすれば
主権侵害になるので加盟国の中には憲法に国際機関への主権の移譲を定めた規定を持つ国もあります(この規定はEU創設に寄与した)。
特にドイツ連邦軍は旧西ドイツ時代から全部隊がNATO連合軍の指揮下にあり
独自の指揮権が認められてるのは災害派遣ぐらいなものでドイツ国民の間では
自軍の指揮権がアメリカ軍に握られてるのに不満を抱く層も存在します。
この事例と似たケースに米韓相互援助条約での米韓連合軍があり、韓国軍の全部隊が
在韓国連軍司令官でもある在韓米軍司令官が司令官を兼任する米韓連合軍の指揮下に
ある事から韓国の主権が議論となり、この件も含めて韓国では反米感情も起きたことから
アメリカと韓国の協議により米韓連合軍の平時の司令官は韓国軍人か、
戦時は在韓米軍司令官が就任する取り決めが行われました。
もしアジア版NATOでアジア版NATO連合軍が設置されれば歴史的経緯から自衛隊の全部隊が
アジア版NATO連合軍の指揮下に置かれるのは確実で平時においての自衛隊の指揮権が
我が国からアジア版NATO連合軍の司令官たる米インド太平洋軍司令官に置かれます。
これは主権の放棄になりかねず、我が国内で無用な政治的トラブルや反米感情を
引き起こしかねません。

■非同盟運動加盟国は賛同しないし、そもそもアメリカが賛同してない

またアジア版NATOはASEAN加盟国やアメリカも賛同していません。
アメリカのクリテンブリンク国務次官補は時期尚早と否定し、インドのジャイシャンカル外相も
アジア版NATOの枠組みは考えていないという声明を出しています。
またインドネシアのジャカルタポスト紙はアジア版NATOを否定し、経済的な枠組みを
期待する表明を出してます。そもそも日本経済は衰退する一方で高度経済成長を続ける
ASEANからすれば日本の言いなりになるつもりはないという意思表示があるのを
有識者はしています。さらにインドやASEANは米ソ冷戦時代から
非同盟運動の加盟国でいかなる軍事ブロックに参加しない事を国是としているので
アジア版NATOは的はずれな提案でしかありません。
アメリカですらその現実を理解しているのに何故非同盟運動のオブザーバーにもなり
アジア・アフリカ会議にも参加した我が国の総理が理解できないのか想像を絶します。

■現行の自由で開かれたインド太平洋戦略と日米安保によるMACV方式で良いのでないか

以下の事由からアジア版NATOには反対するものであります。
そもそもアジア版NATOよりも第2次安倍内閣での「自由で開かれたインド太平洋戦略」の方が
インドやASEANなどの非同盟運動加盟国にも評価されており、
此等の国々との演習が増えたのもこの戦略によるものです。
また平時でも自衛隊を米軍の指揮下に入らせるアジア版NATOは国内での
無用なエスノナショナリズムや反米感情を引き起こしかねません。
それならまだ有事「だけ」在日米軍の指揮下に置く今のMACV(南ベトナム軍事援助司令部)方式が
とても効率的です。

おそらく石破茂首相にはアメリカに見捨てられた南ベトナムのケースを想定し、
アメリカは有事には参戦しないという疑心暗鬼もあるのでしょうが
アメリカと南ベトナムには軍事同盟に該当する条約は存在しませんでした。
これと似たケースにアメリカとイスラエルがありますがイスラエルは
独自の軍事作戦を行いたいからアメリカと軍事同盟に該当する条約を結んでいないだけです。
さらに条約は日本国憲法では遵守義務、アメリカでは憲法と同等と扱われ、
有事における自衛権の行使には議会の承認は得る必要はないのは前にも書きました。

石破茂首相はこの事実を理解されてるのでしょうか?


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