中国空軍のY-9の領空侵犯事件で「即撃墜」論の愚
今月26日に中国空軍のY-9Z電子戦機が長崎県の男女群島を2領空侵犯し、
スクランブル発進した空自機が警告しようとしたところ僅か2分で領空外に
退去した事案が発生しました。これにより外務省は中国外務省に抗議、
これに中国外務省は領空侵犯の事実を認めるも故意ではなかったと釈明しています。
この事案について空自機は即撃墜しろとの勇ましい声が上がっていますが
この意見は愚の骨頂と言わざるを得ません。
■軍民問わず領空侵犯した航空機を即時に撃墜する事は出来ない
領空侵犯した航空機は軍民問わず即時に撃墜することは出来ません。
まず領空侵犯した機体に退去命令を英語と領空侵犯した航空機の国籍の言葉で警告し、
次に着陸命令を領空侵犯した機体にやはり英語と機体の母国語で行い、
警告に従わない場合には警告射撃を機関砲で行います。これは万国共通の手順であり
即時撃墜という手段を取ってる国は事実上鎖国状態の独裁国家ぐらいなものです。
特に旅客機については1982年のソ連防空軍のSu-15 やMiG23による大韓航空機撃墜事件以降
撃墜は厳しく規制されており、軍用機についても交戦規則(部隊行動基準)から
かなり制限が課せられています。2015年にはトルコ空軍のF-16が領空侵犯を行なった
ロシア空軍のSu-24に10回警告を行ったのにもかかわらず従わなかったので、
交戦規則に乗っ取り撃墜に踏み切っています。我が国のケースだと1987年の
対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件では第302飛行隊のF-4EJが防空識別圏に侵入したソ連空軍のTu-16をインターセプトした際に
Tu-16は領空侵犯を行ったので退去命令、着陸命令を行い2回の警告射撃を行いました。
その後Tu-16は領空から退去し事なきを得ています。この時は那覇も基地警備隊が
64式小銃を手に弾倉を受け取る姿がテレビに写しだされた時のシーンは
当時高校1年生だった当方は今でも覚えています。
■自衛隊機は攻撃されてから初めて武器使用ができる訳ではない
よくスクランブル発進した自衛隊機は領空侵犯した機体に警告と警告射撃を行うだけで
自機に対して攻撃されるまで武器使用は出来ない、命令があるまで攻撃できないと
言われておりこれは映画「BEST GUY」でも取り上げられています。
しかし軍事ライターの稲葉義泰さんの話ではそれは事実と異なるようです。
確かに自衛隊法第84条によれば領空侵犯した航空機には着陸や退去させるための
必要な措置が行えるとしか明記されてませんが領空侵犯機が攻撃しようと
旋回したり爆撃機なら爆弾庫の扉を開いた場合には自分を含めた国民の生命と財産を
守るためにパイロットの判断で武器使用が可能になります。
前出の対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件ではTu-16は当然戦闘機ではないので
旋回してF-4EJに攻撃しようとせず、また爆弾庫の扉も開けなかったので
あえて何らかの理由で不本意な領空侵犯をしてしまったと判断して警告射撃だけに
留めたのではないかと愚考いたします。実際Tu-16は航法システムが故障していたので
故意ではなかったのが後に明らかになっており、在日米空軍嘉手納基地所属の
第18戦闘航空団のF-15Cも事態を受けてスクランブル発進してF-4EJとTu-16のやり取りを
監視しており、在日米軍司令官のエドワード・ティシエ空軍中将は
撃墜しなかった空自の対応を高く評価しています。
ちなみに国際慣習法では領空侵犯した軍用機が警告に従わなければ
撃墜してもよく、前出のトルコ空軍のF-16もそれに習ってますが
空自機も領空から「退去」させるために武器を使用して撃墜することで「退去」させるという
解釈も可能といえば可能ではないかと個人的な解釈ではありますがそのように思いました。
今回のY-9Zは領空侵犯した時間が僅か2分だったので警告する余裕もなく、
非武装の電子戦機なので仮に長時間領空侵犯しても撃墜は不可能であったと考えますが
それが西側の交戦規則(部隊行動基準)なので即時撃墜は的外れと言わざるを得ません。
■ソース
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