コストカットはすべて正しいとは限らない
過去にGCAPの開発を白紙撤回してパキスタンからJF-17をF-2後継にしろと述べた事で有名な
元海自幹部の方が東洋経済に防衛費増額よりコストカットを行えとの記事を掲載した。
■募集難なのを知ってて陸自を減らせ?
この方は15万人の陸自を減らして予算を捻出する一方で自衛隊は少子高齢化から
募集難になるから官舎も空くだろうと述べているがこの時点で既に論理に矛盾が生じている。
しかし募集難な今、陸自を減らしてもそれで海自や空自の募集が増えるわけでもない。
確かに今の自衛隊の充足率は90%以上とはいえ定員を満たしていない部隊も増えてきている。
今すべきは陸自隊員の活用である。補給や施設などの兵站や陸上輸送、警務(憲兵)任務、
海自や空自の基地の警備(警衛)は部隊名だけを海自や空自の所属にして
その部隊の隊員は陸自隊員(身分も陸自)にして海自や空自の人員の負担を和らげ、
その分を艦艇、航空、整備、爆発物処理、特殊部隊などに充てるのを提案すべきではなかったか。
グアテマラ軍などは海軍や空軍の補給は陸軍が担っている。陸自中央警務隊には
海自や空自の隊員もいる。イギリス軍では空軍のF-35B部隊である第617飛行隊が
海軍の第809飛行隊と人員と機体を共有する予定だがこれは空軍のパイロットや
整備員が海軍のF-35を運用・整備するか空軍のF-35と海軍のF-35を
空軍のパイロットが任務に応じて空母艦載や地上基地任務に就くものと見られる。
イギリスも少子高齢化に悩んでいるのは確かで(英連邦からの移民はあまり効果は
なかったようだ)人手不足の対策と統合運用に向けた効率化を図っている。
人手不足と統合運用の時代に陸自を減らせば何とかなるという発想は15年前なら
効果的だろうが今ではむしろ逆効果になりかねない。
■GCAPは戦闘機だけでなくJADGEの後継も意味する
この方はGCAPの開発の白紙撤回を提言しているがGCAPは第6世代戦闘機開発だけでなく
JADGEの後継となるC4Iシステムの構築も想定している。著名な軍事ジャーナリストの竹内修氏の
記事によれば通信衛星から機体への通信が想定されているが
これはJADGEやNADGEに代わる新たなC4Iシステムの構築を意味している。
通信衛星を介したC4IならUHFにより通信距離に難点があったリンク16の問題もこれで解決する。
場合によっては管制官との音声通信も通信衛星を介する事になるかもしれない。
またGCAPのベースとなるBAE テンペストがアメリカで開発が予定されている
NGADにスペックで劣る根拠は何なのか理解出来ない。BAEシステムズやレオナルドは
タイフーン、M-346A、トーネード、ライトニング、ジャギュア、MB-339と
ベストセラーにもなった名機を生み出してきた。そもそもNGADの対日輸出を
アメリカ政府や議会が機密保持から認めるかも疑問なのはF-22のF-X選定での顛末を
見ればわかる話だしそのNGADの開発すらまだ始まってもいない。
だからGCAP否定論は的外れでしかない。
■耐震工事の否定は自然を舐めていないか?
この方は自衛隊の施設の耐震工事を否定している。自衛官のいる建物は
耐震設計されているとの事だ。しかし東日本大震災を見ればわかるように
自然は時として人間の想定を超える災害を引き起こす。耐震設計されてるからと言って
耐震設計に耐えられる地震が来ないとは限らない。こうした油断は福一事故で証明された。
地震ではなく火山ではあるが御嶽山も死火山と言われながら1979年には噴火してから
気象庁は死火山や休火山の指定を廃止したし、有史では噴火の記録のない火山でも
倶多楽(登別火山)や噴気活動をしていない富士山を常時観測火山にして
24時間体制で観測している。温泉で有名な鳴子火山群や霊山でも有名な恐山などは
常時観測火山ではないが気象庁は噴気活動があると時々観測を行っている。
また戦前の旧軍の建物を取り壊さない点を問題視してるがこれ等は戦争遺跡であり
戦争遺跡を残す事は平和教育の基本である。それを取り壊せと言うのは平和教育に
支障をきたす事になりかねない。
■国民の負担を和らげたいのならまずは減税ではないか
そもそも防衛費増額を国民の生活から問題視するのなら何故消費減税や石油減税を訴えないのか?
消費減税や石油減税で一時的に税収は減るかもしれないがその分は
赤字国債を発行して日銀に買わせればよい。消費減税や石油減税で次年度には
消費マインドが刺激されて消費が伸びて税収も増える。こうした事を定義しないで
やれ陸自を減らせ、やれ耐震工事をやめろと言うのは理解に苦しむ。
そもそも前にも書いたが装備品のライフサイクルコストを下げる努力をすれば
防衛費増額はしなくてもいいわけでこの点が述べられていない。
もちろんこの方は昔から陸自削減論者だからその点は理解している。ただ今回はあまりにも
目に余ったので一筆させて貰った。
■ソース
令和2年度(2020 年度)社会保障関係予算https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2020pdf/20200207110.pdf
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?