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DSDsの話.9-「オスとは何で、メスとは何か?「性スペクトラム」という最前線」に関する考察-

はじめに

DSDs当事者としてのお話もいくつか記事を書けたらいいな、と思っています。本記事は全文無料にて公開しておりますが、何かしら参考になりましたらご支援頂けると助かります。

書籍の考え方について

アライが性スペクトラムの根拠として掲げるものに、諸橋憲一郎氏により著された「オスとは何で、メスとは何か?」という書籍がある。書籍の内容は身体特徴を性別の固定概念と比較して「メス化」「オス化」「脱オス化」「脱メス化」と称し、「身体性別のスペクトラム」に位置付けるものである。つまり「固定概念から外れる身体を持つ個体は、雄あるいは雌として不十分な存在である」「年老いて女性らしく見えなければ、その個体は最早完全な雌100%ではない」「女性らしく見えさえすれば、雄であっても雌寄りになれる」という考え方だ。ルッキズムの助長やジェンダーバイアスの強化にも繋がるため、私はこの考え方には全く賛同できない。あるいは「性差が出る○○という特徴について、ある生物では×が雄で△が雌だが、全く異なる他の生物においてはそうではないため、○○でも性別は判別できない」のような極論が終始展開されている。地球上の全ての生物を無理矢理一緒くたにして「オスとは派手な生き物で、メスとは地味な生き物である」などと定義しようとすることはミスリードであるが、「クジャクのオスとは派手な生き物であり、クジャクのメスとは地味な生き物である」と定義することに支障はないはずである。当然、一部の例外があったところでその一般的な定義を覆すものではない。言わずもがな、ヒトの性特徴や性決定の話をするのであれば、ヒトに限って話を進めるべきである。

トリやトンボの生殖戦略について

冒頭では生殖戦略としてのオスのメス擬態や、自衛としてのメスのオス擬態の例が「性スペクトラム」の一例として挙げられている。しかし、これは「どのような姿をしていても生物学的にはオスとメス」であることの証左ではないだろうか。「性スペクトラム」の話題でしばしば矢面に立たされるDSDs/ISについて、その身体特徴は生殖に対するポジティブな「戦略」では決してなく、それどころか妊孕性がない場合も多い。このことについて「喪失体験」として苦しんでいる人々が多いことには留意してもらいたい。

クマノミについて

言わずもがな、クマノミの生殖器官が雄性先熟であることはヒトの性分化とは何ら関係がない。ヒトにおいては「一番大きい個体が雌」ということはなく、一般的にXY個体の方が大きくなると考えられ、その大半は当然雄の個体である。これはY染色体にはY成長遺伝子と呼ばれる遺伝子があり、Y染色体を持たない個体よりも背が高くなるとされているためだ。Y染色体を有していれば、女性であっても高身長となる傾向がある。クマノミの幼体についてもスペクトラムの真ん中に分化しているというわけではなく、やがて雄に分化し、雌に再分化するだけの話である。

性ホルモンについて

月経周期に伴う普遍的な女性ホルモンの変動でさえ、その根拠になり得るとの見解が示されている。しかしヒトの雌である個体の性別が日によって変わる仕組みはなく(ジェンダーフルイドは存在する)、閉経後の女性も女性であることに変わりはない。また、卵巣の莢膜細胞においてLHの作用によりアンドロゲンが産生されることは「男性」を意味するのだろうか。女性の副腎でアンドロゲンが産生されることは「男性」を意味するのだろうか。そんなことはないだろう。「妊娠期間の女性ホルモンは100倍なので、スペクトラムの位置は議論が難しい」という考えに至っては、これは男女の域を超越すると解釈すれば良いのだろうか。「女性ホルモンの量が突き抜けすぎると、女性以外の何者かになる」という話は聞いたことがない。

骨粗鬆症は「骨の性が脱オス・メス化」しているか

これは現在進行形で骨密度の低下に悩まされている私のようなDSDs/IS当事者について、まるでおもちゃのように扱っているのではないか。端的に骨密度の数値とは「骨の性別」の指標ではない。私の身体は疾患のせいで早々に老化現象に見舞われてはいるが、骨密度の低下により「骨の性のスペクトラムが中央に寄った」という事実はない。白骨が男性か女性かという判別は可能だと言われるが、骨の形状が性別を決定するわけではない。

性行動について

性行動の性差について、ヒトにおいては雌雄で定義することは難しいのではないか。例えばラットであればフェロモンに対する脳の反応などが雄の性行動を喚起していると考えられるが、ヒトにはそのようなフェロモンは存在しないとされる。ヒトにおける「雄型の性行動」や「雌型の性行動」が具体的にどのような行動を指すものなのか、一概には言えないのではないだろうか。「男脳・女脳」が否定されていることは周知の事実であるが、脳に関しては性差よりも個人差が大きいものである。

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