見出し画像

好きな気持ちを大切に

母の四十九日が終わり、夜東京に帰ってきた日、娘が初めて一人でオムライスを作ってくれた。夫と娘には先に食べておいてもらって、私は何か買って帰ることを連絡すると

「ママ、ご飯作ったから何も買わなくていいよ」

とlineがきた。娘が作ってくれたオムライスは、しっかりケチャップの味がついたパラパラのご飯に、きれいに切ったウインナーと玉ねぎが入っていた。スプーンを入れるとトロッと出てくる半熟卵と一緒に食べると、一気に体の力が緩んだ。

「これほんまに一人で作ったん?」

という私に、本を見ながらやったと教えてくれた。夫は隣で調味料の計算を手伝ったり、危なくないように見守ってくれていた。
私の母が数年前に娘の誕生日にプレゼントしてくれた料理本を見て作っていた。

初めてのオムライスから3カ月、週末になると
「なに作ろうかな?」
と言いながら本や動画を見ている。土日のどちらかは娘がご飯を作るようになった。これまでいくつもの料理を作ってきた。ハンバーグ・肉じゃが・鶏の照り焼き、ポテトサラダやミートソースパスタ…。

お気に入りのNiziUの曲をかけて、本を見ながら分量を計算し、材料を準備して一つ一つの工程を鼻歌交じりに進めていく。軽やかなステップまで聞こえてきそうだ。

娘が毎週楽しそうに料理をしているのを見ていると、私も普段の食事作りとは違う、好奇心のままに何か作ってみたくなった。思いついたのはつぶあんだ。数年前に失敗したこともあり、いくつかレシピを調べてから作り始めた。それでも心配だったので、祖母に電話で手順を尋ねた。

「ちょっと聞きたいねんけど、つぶあん炊いてるねん」
と言うと、いつものように朗らかに優しく
「あんたえらいなぁ!すごいすごい!」
と褒めてくれる。照れくさくなった後は、誇らしい気持ちへと変わっていく。祖母はいつだって私に自信を付けさせてくれる。細かい手順を教えてもらい、最後に
「砂糖入れた後はすごい熱くなるから、手に飛ばんように気を付けてやりや」
と気遣ってくれた。

「ありがとう。やってみるわ」
「うん。おいしいの作って」

祖母は小さな飲食店を経営していたこともあり、料理のプロだ。調味料の分量や野菜の切り方、調理時間や食材の選び方までなんでも教えてくれる。結婚した頃は焼きそばとカレーしか作れなかった私は、毎日電話で祖母に教えてもらっていた。今はもうすっかり料理が出来なくなったと言っている祖母も、数年前までは帰省すると煮物を中心に心にも体にも優しい料理をたくさん作ってくれていた。

小豆の鍋を混ぜながら、祖母の事を考えていた。料理で祖母と繋がることができるなら、日々の食事作りとは違うものを作る時間も大切にしたい。

出来上がったつぶあんはすこし小豆の皮の硬さが気になるものの、味はおいしかった。祖母にちゃんと出来たことを報告すると

「よかったなぁ。近かったら味見したいな。ちょっと投げて?」
「わかった。しっかり受け止めてよ!」
「口開けて待っとくわ」

といつものように笑わせてくれる。

「次帰るとき持って行くわ」
「ありがとう。楽しみやわ。おいしいの作ってな」

と話す声を聞きながら、私が作ったもの、娘が作ったものを祖母に食べてもらえる機会を作りたい。

料理が楽しいと思った娘は、お菓子作りも始めた。本を見ながら、ホットケーキミックスと白玉粉を使って焼きドーナツを作った。オーブンから取り出すのは危ないから手伝おうかと言うと、自分でやるとのことで見守っていた。オーブンを開けた娘が言った。

「普通にやばい!」

すごくおいしそうに出来てるという意味だと脳内翻訳したのだが

「それじゃなんのことか分からんわ」

と突っ込んだ。出来上がった焼きドーナツの一つをすぐに三人で分けて食べた。外はカリッとしていて、中はモチもち。素朴な優しい甘さが口の中に広がった。

「おいしい!」

と口々に言い合った。もっとやってみたい気持ち、出来上がって嬉しい気持ちが上達を加速させる。娘が作った料理やおやつを「おいしいね」と言いながら食べる時間を大切にしたい。焼きドーナツを食べながら、次は何を作ろうかと考えている娘が、料理を始めた頃の私と重なった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?