【笛吹市青楓美術館】ぶどう畑の中の最古の美術館(5) 統合計画と反対運動
はじめに
ぶどう畑の中の最古の美術館こと笛吹市青楓美術館ですが、2025年度までに笛吹市内の春日居郷土館・小川正子記念館への統廃合が計画されています。
この美術館の前身は私設の美術館です。当地出身の歴史研究家で、都内で幼稚園の経営していた小池唯則が故郷に文化をと1974年(昭和49年)に津田青楓との交流もあり、青楓の作品を集めた美術館として作られたものです。
先ごろ地元住民や美術関係者が立ち上がり「現地存続を訴える会」が発足しました。署名運動を中心に展開し、請願書を市に提出する予定です。
存続を願う筆者は、予断を許さぬ状況を耳にするにつけ賛同するものであります。
2009年の存続問題
これまでにも一度、市の方針で美術館の廃止の方針が立てられたことがあります。2009年(平成21年)に入館者の減少を理由に2011年10月をもって閉館することを笛吹市は決めました。
しかし、地元有志や美術館関係者から、それまでの市の取り組みの無さを指摘され市長は入館者が伸びれば撤回する旨の約束をしました。入館者数の増加に向けた取り組みを行ったところ効果があり、市は閉館を撤回したという経緯があります。
その時の取り組みが現在も残る「しあわせ絵手紙展」と「ぶどう畑のアートギャラリー」です。また、感染症拡大の前には館内でミニコンサートなども開かれていました。
感染症対策により中止していた「ぶどう畑のアートギャラリー」は2022年夏から再開し、1年先まで予定が決まっている状況です。
こうして小さいながらも、笛吹市における美術や個人作品の発信施設になっているのです。
今回の統合(廃止)への動き
2022年(令和4年)9月2日の報道により、2025年度に青楓美術館を笛吹市春日居町の春日居郷土館・小川正子記念館へ統合する計画案が公表されました。
山梨日日新聞(2022.9.2)によれば、市は建物の老朽化、バリアフリー、大型バスの進入のためには周辺道路が狭い、等の理由から2025年度までに春日居郷土館・小川正子記念館を改修し青楓美術館の作品を移す計画です。
下記リンクは文化財課が作って公開されている資料です。それよれば、利便性の高い中心部(石和周辺)へ観光資源の集約という理由も挙げられています。そして15頁には「春日居郷土館へ 機能を集約し、建物を除却する。」すなわち最終的には美術館の建物は取り壊しまで計画されています。
個別施設計画(文化施設編)
https://www.city.fuefuki.yamanashi.jp/documents/6486/k5.pdf
私見になります。
市は「耐震」ではなく「老朽化」を挙げています。建物は鉄筋のため耐震はクリアしていると思われます。ただし消防から避難経路の問題の指摘されている旨が資料にあります。防犯の理由から塞いでしまった窓を戻したり、職員用の裏口へ非常通路を確保すれば対応可能と思います。方法を考えずに避難経路の指摘を口実にしているのです。バリアフリーについてはトイレの改修や二階展示室への移動方法を考えないとなりません。隣接地へ平屋程度の増築はできないものでしょうか。隣接地は小池氏の親族が所有していて土地を寄贈する用意もあるそうです。
大型バスの進入は、春日居郷土館であっても大型バスが必要なほどの需要は感じられません。
もし統合されれば、「春日居郷土館・小川正子記念館・青楓美術館」になりますか。たぶんならないでしょう。美術館として青楓作品の通年展示できるだけの展示場所がないからです。筆者が気になったのは新聞報道の「移す計画」という言葉の不自然さです。「展示する」ではないのです。
観光資源の集約とは聞こえはよいですが、一宮町で生まれた芸術文化を石和・春日居に取り上げてよいものでしょうか。「統合」とは別々のものを一つにすること、学校の再編などで「統合」と言えば聞こえはよいですが、「統合」とは残るほうの目線です。青楓の名前が残らないならば青楓美術館は「廃止」です。集約ありきの対応には反対です。
「青楓美術館の現地存続を求める会」の署名活動
「青楓美術館の現地存続を求める会」の署名用紙に書かれている内容を転載いたします。
(表面)--------------------------------------------
青楓美術館の現地存続を求める署名のお願い
青楓美術館の現地存続を求める会
代表小林俊一(前青楓美術館運営協議会会長)
趣旨
笛吹市は同市一宮町北野呂にある笛吹市青楓美術館を老朽化等の理由で閉鎖し同市春日居町の春日居郷土館へ移転を計画しています。
この計画を見直し現在地での美術館を保全存続発展させることに賛同し署名のご協力をお願いします。
理由
①美術館は故小池唯則氏が私財を投じ開館したもので、寄贈して下さった遺族が現地存続を強く要望しています。遺族の尊い志に応えるべきです。
②移転先はハザードマップの浸水危険地域で作品が破損危険があります。
③美術館は県下で最古を誇り、世界農業遺産の構成要素の貴重な遺産です。
④文化施設の統廃合は市の芸術文化の衰退につながります。
(裏面)--------------------------------------------
青楓美術館の現地存続を求める理由
1.遺族の尊い志に応えるべき
青楓美術館は故小池唯則が郷土で名画を鑑賞できるよう私財を投じ開館し、その後、遺族から一宮町(合併により現在は笛吹市)に寄贈いただいたものです。
遺族は故人の遺を汲んで現地存続を強く望んでいます。
遺族の尊い想いに応えるべきです。
2.津田青楓の作品と美術館の価値の高さの認識を
美術館は山梨県では最古を誇り、ぶどう畑の中のロマンを感じさせる建物として世界農業遺産の構成要素としても貴重な遺産です。
更に青楓の作品の評価が非常に高く、最近都内の3つの区立美術館で青楓展が開催されました、
青楓の作品収蔵数は我が国最多の700点を誇る素晴らしい美術館です。
青楓作品は青楓美術館で収蔵すべきです。
3.作品が汚損されることへの危惧
移転計画先の春日居郷土館はハザードマップでは浸水地域に指定されており、破損の危険性が危惧されます。
大事な青楓作品を失うことがないように安全を第一にすべきです。
4.春日居郷土館の使命
春日居郷土館の展示品のスペースは当然、縮小を余儀なくされます。
郷土館は郷土館の歴史、文化、郷土の著名人や作品を展示するのが筋であり、津田青楓は郷土の人とは違います。
郷土館の本来の使命が失われてしまいます。
5.地域の芸術文化重視の市政を
郷土に芸術を根付かそうとした故小池唯則氏の想いは、心の癒し、奥深さが求められる現在こそ益々重要で引き継いでいくべきです。
更に美術館の隣接地も小池氏所有の土地であり、増設等の活用の許諾を得ています。
この地で根付いた文化の灯を消さないことを求めるものであります。
賛同団体
一宮町文化協会
一宮町北野呂区長
一宮町上矢作区長
一宮町南野呂区長
一宮町教育会
一宮絵の会
石和絵の会
二科会山梨支部
日本水墨画会山梨支部
青楓美術館ぶどう畑のアートギャラリー出展者の会
絵画クラブ 東土会
御坂絵の会
八代町文化協会絵画部
境川ひまわり会
境川絵を楽しむ会
青楓美術館を愛する会
その他個人会員
以上
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おわりに
これまでとは異なる性質の記事となりましたが、美術館の存続問題を改めて知っていただきたく本稿を書きました。ぶどうの農繁期でありながらも美術館存続のために地元の住民は会を立ち上げました。
微力ながらも筆者も情報発信してまいります。
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