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イギリスの学校 英語を理解する その4

もう50年ほど前に、英語もできないのに親の赴任に連れられて、イギリスの現地の小学校に転入した子どもの奮闘記です。

転入してから8か月ぐらいした頃、先生が「今日は、『,』と『.』の勉強をするよ」といって黒板に文章を書きだしました。5行ほどだったと思います。

「まず、書き写して、そして、自分だったらどこに『,』と『.』を付けるか考えてみて」

その頃の私は、まだ思い通りには話せませんでしたが、先生の話すことは7、8割わかるようになっていました。理解できる単語はまだ多くはありませんでしたから、読むのはまだ得意ではありませんでした。

ーどこに『,』と『.』を付けるかなんてわかんない。

少々あきらめ気味に黒板の文章を書き写し始めました。すると、知らない単語も数多くあるものの、書いてある話がよくわかるのです。

ーこれ、『宝島』だ!

日本語で読んでいた『宝島』の一場面が、覚えている通りに英語の文章になって、目の前の黒板に展開されているのでした。

イギリスに転校する私に、担任の先生は「日本語を忘れてはいけませんよ」と、いぬいとみこさんの『木かげの家の小人たち』と『くらやみの谷の小人たち』をくださいました。

その影響を受けたのでしょうか、父は、青い表紙の岩波少年文庫の阿部知二さんが翻訳した『宝島』と『ロビンソン・クルーソー』とホームズ全集を買い集めて、イギリス行きの荷物にいれておいてくれたのです。

言葉がわからない生活を過ごす中で、日本語で書かれた本がどれぐらい息抜きになったことか。もともと読書は大好きでしたが、この間、何度も何度も数少ない手持ちの本を読み返しました。

そうやって読んで頭に残っていた本の一節が黒板に書いてあるのです。翻訳家の阿部知二さんが原文に即しつつ、上手に翻訳してくれたおかげでした。

内容がわかったおかげで、無事『,』と『.』を付けることができました。わかるって、大事なことですね。


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