[エッセイ]【‘‘水鏡’’】
水鏡とは、水に鏡のように物が映ることだと知ったのはついこの間のことだった。
どのような花であっても、咲き始めから咲き終わりまでによって、時間と共に色変わりするものだと感じた。
人もそうだ、今日はこの色であっても、明日にはもう違う色を見せているのかもしれないという不思議な感覚を覚えることがある。
そうした感覚は、感情によるものからだと、ぼくは考えたりもした。
それは、生きている証しでもあって、命の移ろいを意識させる特別なものがあるのではないかと思ったりもした。
水鏡にうつる自分の姿が幼き頃の姿に戻り、ぼくの心を揺さぶる。
泣いたり、笑ったり、怒ったり、ぼくのそばにはいつも父と母の存在がいる。
水面が揺らぐ度に、自分の表情が過去と今を交錯させ、変わっていく様子に懐かしさと、もどかしさを覚えた。
水に触れると、あの頃のぼくは消え失せて今のぼくを映し出す水鏡となった。
指先に触れた水はとても冷たく感じられた。
指先から滴り落ちる水滴は、ゆっくりと地面に落ちていく。
ーそして、落ちた。
濡れた指先をハンカチで拭き取って、ぼくは家路へと向かっていく。
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