枠にとらわれない生き方②刺繍枠と刺繍台
刺繍の道具 刺繍枠と刺繍台とは
刺繍枠は布をピンと張り、刺繍作業をしやすくする道具です。円形や楕円形で、8cm~30cmくらいまでのサイズがあります。作品が大きい場合は四角い枠に張り作業します。刺繍枠を持ち、利き手で刺繍するスタイルが一般的ですが、刺繍台もあります。刺繍台は刺繍枠を固定し、両手を自由に使えるようにする道具です。両手が使えるため、複雑なステッチもしやすくなります。机の上に置いたり、椅子と太ももの間に挟み固定させて使用します。
刺繍枠の歴史
布を枠に張り付けるという刺繍枠の歴史は14世紀に遡るといわれています。14世紀後半のフレスコ画に刺繍枠が使われている様子が描かれています。当時は長方形の木枠に布を4方向に引っ張り縫い止めた枠が使われました。よく知られている丸い刺繍枠(タンブールフープ)はタンブール刺繍(特殊なかぎ針を使ってチェーンステッチを繋いでいく技法)が流行ったことで広まった刺繍枠です。(タンブールはフランス語で「太鼓」という意味)
四角い大きい枠よりも持ち運びが便利、丸いので布を傷めないことで利点もあり人気になります。特に労働階級の女性達にとっては刺繍仕事が他の仕事の合間にもできる(移動できる、枠のサイズが小さい)この刺繍枠がとても便利でした。
愛すべきか否か 刺繍枠
刺繍は女性の教養や家庭内での役割を象徴する活動でしたから、刺繍は「女らしさ」のステロタイプ(型にはまった、または過度に単純化した概念、意見、イメージのこと)でした。刺繍枠を持った家庭的な女性像などは絵画でもよく描かれています。「女は社会などに出ず、刺繍だけしてればよい」などど言われたくやしい時代もあったそうですが、逆に私は刺繍枠から出たくない女性も多かったのではないかと考えています。枠の中の方が自由や安心感をもたらしたりシェルターの様な役割を持っていたのかもしれません。ですから私にとって刺繍枠は女性の活動範囲を制限する残念な社会的枠組の象徴でもあるし、先人達の心の拠り所としての愛すべき場所でもあるのです。
今回はその愛すべき刺繍枠を道具としてでなく、枠の中の限られた自由をそしてそこから始まる未来を想像し、額として見立てることにしました。
額装と金 魅了と嫌悪
額縁の起源は古代ローマ、ギリシャ、エジプトなど諸説ある様ですが、中世に宗教的な絵画のための枠装飾として存在し、その後ルネッサンス期に持ち運びできる絵画が生まれたため、作品を保護するための枠として発展したようです。利便性だけでなく、額縁は作品の意味を強調し、敬意や愛着を示す大事な役割もあります。特に金で装飾された額縁は権力の象徴として、作品の価値を高めるシンボルとして利用されました。ルネッサンス期にイタリアでは金で豪華に飾られた宗教画や権力者の肖像画のための額縁が流行しました。金は永遠や神聖なイメージがありますが、一方で金を得るための略奪や採掘の歴史は常に弱者の犠牲から成り立つ背景があります。私はその極端な金のあり方に困惑し、神像や宗教画の金の光り輝く魔力に魅了されつつも、金を嫌悪しています。
刺繍の歴史に関しても同じジレンマを持っています。
そこで同じジレンマを抱く素材と技法を合わせて作品を作り出しました。
刺繍枠の中では感情で一杯の蛾達が安全な狭い場所ひしめきあっています。しかしより安全で自由な領域は他にあるのかもしれません。
I am not afraid. わたしはおそれない 刺繍台
今回、刺繍台を使った作品も発表します。額縁が一番豪華だった頃 、イタリアの古典技法を使った金の刺繍台です。台の上に I am not afraid (私はおそれない)という文字を石膏で形作り、その上に金箔を貼りました。まだまだ技術的には拙いですが(去年からたのしい古典技法額縁教室に通っています!)女らしさのステロタイプである刺繍台を金で豪華に飾り付け、神聖で高価なイメージを作りながらも、自分自身に「自分らしく生きているか」と語りかける鏡の様な刺繍台を作りました。
タイトルは「対峙(Confront)」です。
2024年10月末のギャラリー蚕室での個展で展示します。
見に来てください✌️。
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