azumisakata

東京在住の美術家。主に布や刺繍を生かした作品を制作しています。 テーマは「いたみ」や「恐れ」。 そこから解放されるための美しい造形を目指して。 女性と手芸と美術の関係なども興味があり、作品を通して調査中。https://www.azumisakata.com/

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東京在住の美術家。主に布や刺繍を生かした作品を制作しています。 テーマは「いたみ」や「恐れ」。 そこから解放されるための美しい造形を目指して。 女性と手芸と美術の関係なども興味があり、作品を通して調査中。https://www.azumisakata.com/

最近の記事

枠にとらわれない生き方②刺繍枠と刺繍台

刺繍の道具 刺繍枠と刺繍台とは 刺繍枠は布をピンと張り、刺繍作業をしやすくする道具です。円形や楕円形で、8cm~30cmくらいまでのサイズがあります。作品が大きい場合は四角い枠に張り作業します。刺繍枠を持ち、利き手で刺繍するスタイルが一般的ですが、刺繍台もあります。刺繍台は刺繍枠を固定し、両手を自由に使えるようにする道具です。両手が使えるため、複雑なステッチもしやすくなります。机の上に置いたり、椅子と太ももの間に挟み固定させて使用します。 刺繍枠の歴史 布を枠に張り付

    • 枠にとらわれない生き方①おしゃべりなドイリー

      価値のないドイリーとその背景 ある東京の蚤の市でのこと。籠一杯に雑に放り投げ出された大量の古い手作りのドイリー(どこの国のものかもわからない)が安価で売っているのを見かけました。それらは過去の誰かが様々な技術を駆使し想いを込めて作られるようですが、もはや野暮な烙印を押されたドイリーは骨董の世界でも人気がないようでした。私は実家に大叔母が残した大量のドイリーがあることを思い出しました。 ドイリーはイギリスを起源にする装飾的なマットや敷物のことです。名前は17世紀の布商人ド

      • 2024.10.24-11.3個展「Be Out of the Frame」のステートメント

        今回「Be Out of the Frame ー枠から外れるー」をタイトルとし、額装されたり刺繍枠に入ったBe Out of the Frameとは逆の刺繍作品をあえて制作しました。 かつて、刺繍は女性の教養や家庭内での役割を象徴する活動でした。 装飾した刺繍枠は本来、布を固定し作業の範囲を定める道具ですが、同時に女性の活動範囲を制限する社会的枠組みの比喩にもなっています。 家庭の装飾品として愛されてきた手芸品ドイリー(イギリスを起源にする装飾的なマットや敷物のこと主に編物

        • 母性という神話-面の作品について-

          泥眼(でいがん)の面に出会う 今年の春に金沢の能楽美術館を訪れた際、泥眼(でいがん)と呼ばれる面に出会いました。白目部分を金で彩色してある女の面で、彩色には金泥(金箔を細かく練り潰し、微粉末状になった物)を塗るので泥眼と呼ばれています。通常の眼球の白い部分が金色に輝いているので異様な雰囲気を漂わせている面です。能面の世界では金色は人間を超越した存在であることを示すそうで、泥眼の面は正気を失い嫉妬で溢れる生き霊、または成仏し人間と鬼(神)との境を示す女性の表情ともいわれていま

          2024.2/14~20個展「Chaos and Order」 ステートメント

          私の制作は混沌と秩序によって成り立っています。 かたちのない漠然とした感情から情景を脳内で固めつつ、大きい布を裁断し、様々な布を組み合わせ、色糸を選び、刺繍を施します。ステッチが徐々に細かくなり、繰り返し刺す瞬間、時間軸が吹き飛び恍惚とした混沌の感覚に迷い込みます。そして再度糸をほどき、考察に戻ります。 混沌から秩序へ進んでいるつもりでも混沌に戻る繰り返しで、私には混沌の中に秩序がありまた秩序の中に混沌があるように見えています。常に動態で、重なり合っている。そして時間やイン

          2024.2/14~20個展「Chaos and Order」 ステートメント

          ものをつくるということとそのおわりについて-混沌と秩序-

          常に自問自答していることがある。「なぜ作品などを作っているのだろう? 作ってどうする? 意味があるの?」 ものづくりを続けている者なら一度ならずとも自分自身に問う言葉ではないかと思う。私は言動に自信がないので、この強迫観念にかられる。今回、Hasu no hanaでの展示(2018年に開催した)にあたり、ずっと抱えていたこの疑問を解消すべく、創造の出発点や終着点はどこなのか自分なりに考察してみることにした。 創造のはじめ:どこでつくるか 私が作品として作り出す最初は経験

          ものをつくるということとそのおわりについて-混沌と秩序-

          何もしてくれない「目」を作り続ける

          芸術は来るべき時を拓く最近読んだ本にクリエイターにとって気持ちの良い文章がにありました。※1 「歴史家は過去だけについて書くが、芸術(家)は来るべき時を拓(ひら)く」 ※1芸術人類学講義 鶴岡真弓編 ちくま新書 芸術の重要性をこんなにも簡潔に文章にされていて感激しました。芸術とは過去や現在の事象を作家(人類)が言語ではない方法で未来の人類へと繋ぐ役割をしているというものです。自分がそんな大層な仕事ができているかといえばまだまだ修行が足りないのですが、制作を通して自分自身が見

          何もしてくれない「目」を作り続ける

          すべてを受け止め吐き出す女神は怖いらしい

          女神は私たちに必要か? 女性の姿として表象された女神は神話や宗教の中で長きにわたり多く存在しています。自然や豊穣、愛や慈悲のシンボルとして、また月や太陽などの偶像として。皆さんは女神にどのようなイメージをお持ちでしょうか? 若く美しいだけでなく、強く、頼もしく、味方であり、しかも慈悲深い…良い所どりの憧れの像が多いです。でもそれって誰にとっての憧れ? 女性はこうあるべき、これが理想だと決めつけて故意につくられてるのではない? 私は若桑みどり著「お姫様とジェンダー」※1を拝読

          すべてを受け止め吐き出す女神は怖いらしい

          消滅しかかっている?金モール刺繍に出会った

          金モール刺繍について 「金モール刺繍」は私が普段制作に使用している刺繍技法「ゴールドワーク」と同じ、真鍮や銅、金メッキなど金属の糸を使った刺繍技法の日本名です。私はイギリスのゴールドワーク刺繍からこの技法を参照しているので、日本でこのヨーロッパの刺繍技法が100年以上存在しているのを全く知りませんでした。 2023年7月に文化ファッションオープンカレッジで行われた1日講座「金モール刺繍」があるということで早速参加してきました。 講師は金・銀モール刺繍 ㈱辻兼商店 刺繍職

          消滅しかかっている?金モール刺繍に出会った

          針刺し ーすべてのいたみを受け止めるー

          針刺しの歴史 針の発明はたいへん古く旧石器時代の後期(7万年から1万年前!)には骨製の針が存在してました。その後、鉄製が登場し裁縫用の針は今から3~4万年前には使われていたとされています。 日本へは中国から渡ってきましたが(正倉院に納められているのだとか)室町時代にはすでに国産針があったそうです。 針は布を接いだり留めたりするのに便利な道具ですが、小さく先が尖っているため、体を傷つけてしまいます。そこで針を収納する針ケースが登場しました。針は貴重なものですから象牙などのケ

          針刺し ーすべてのいたみを受け止めるー

          わたしが刺繍技法に留まる訳

          素材との共同制作 私が刺繍にこだわっている理由は2つあります。 1つは技法の不自由さです。布と糸と針で一針一針表現する刺繍は素早く自由に画面へ描くことができません。その不自由さが魅力です。 美大生時代、版画を専攻していたのも同じ理由でした。時間をかけて素材を知り、彼らと仲良くならないと思い描いた表現はできません。失敗も多いです。しかし素材が持つ美しさや優しさに触れる瞬間に出会うと、ワクワクします。素材と一緒に創造する行為は、自力のみならず、別の力が加わり共鳴し更なる喜びを与

          わたしが刺繍技法に留まる訳