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【エッセイ229】金時山登山

視界を遮る山がないので、山頂からは富士山がでかでかと見える。と聞いたので金時山に登ることにした。

金時山に登る登山ルートにはいくつか選択肢がある。

初心者でも安心して登れるのは箱根の仙石原に近い金時山登山口から登るルート。このルートは一番人気で登る人も多いとか。なので金時山登山口の反対側、箱根ではなく南足柄市の地蔵堂登山ルートを選ぶことにした。

地蔵堂ルートの方がキツめで、その分登る人も少なくて登山道の渋滞に巻き込まれにくい。登山道の前に、マサカリ担いだあの金太郎こと坂田金時が産湯を使ったという「夕日の滝」なるものがある。

よし、それなら滝を眺めてから山歩きを始めよう!

そうと決めたら計画を練る。小田急線新松田駅からバスで地蔵堂バス停へ行き、山頂で富士山を眺めて帰りは箱根方面に降りるかなー……と地図を眺めて考える。心配性なので、念には念をいれて途中で山から引き返す為のエスケープルートも調べる。電車とバスの時間を調べる。朝は早起きして必要なものをザックに詰める。忘れ物のないようにリストまで用意して。

当日の朝、ここでも心配性を発揮して予め調べていたバスの時間より一時間早く新松田駅に到着する。バスは一本しかないから念のために。間に合うかどうかハラハラするくらいなら、早くから待っていた方が精神的に楽。到着したバスに乗って登山口のある地蔵堂へ向かった。

妙だな、と感じたのはバスが終点に向かう少し前。

元々乗客の少なかったバスは、終点の地蔵堂に向かう頃には私も含めて二人しかいない。金時山は人気のある山だと聞いていたから、もっとバスに乗る人はいると思った。新松田から地蔵堂行きのバスは本数が少ないので、朝から登ろうとしたら8時台のバスにある。それでも登山道に着くのは9時過ぎ。関東近辺から来ても、日帰りするなら始発の8時台のバスくらいしかバス便はないはず。

まぁ、みんながみんなバスで登山道へ向かうわけでもないし、地蔵堂ルートは普段から二人くらいしか登らないのかも知れない。行ったことがないので私には分からなかった。

バスが地蔵堂に到着。十分ほど歩き、噂に聞いていた夕日の滝を眺める。

大きな滝ではないけれど、水の音を聞いていると癒される。十分に癒されたところで、さぁ! 登るぞ! と、気合を入れて歩き始めた私の目に飛び込んできたのがこちらの写真。

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朝は4時に起きて準備をして、バスを待つこと一時間、バスに揺られて40分、マイナスイオンと気合を入れてようやく辿り着いた登山道は崩落で通行止め。それは登山客も少ないわけだ。私ともうひとり、見知らぬ登山愛好家(たぶん)の方も看板を眺めて、とぼとぼと来た道を引き返した。お互いに無言だった。ただお互いに同じミスをしたことはわかっていた。南足柄市のホームページでキチンと調べれば、2019年の台風19号で登山道が崩落していることが書かれていた。

というか、通行止めの記述を見た記憶があったはずなのにもうすっかり忘れていた。被災地の現状は忘れられやすく、まだ復興していなくても無関係の人々の記憶から消えていくと、批判的な記事を見た覚えがある。まさにこれのことだなあ、と思って反省。

結局、その日は何もせず帰宅。早起きして準備して電車とバスに乗って滝を見て終わり。何をしに行ったのやら。

写真が通行止めの一枚では寂しいので、せめて登山道に近いバス停の写真でも。これから登るぞ! と思って撮ったのに、まさか一時間と経たずに戻るとは思わなかった。

準備と下調べは入念に、というお話でした。

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また新しい山に登ります。