心の狭さ
人間の心の世界は案外せまいものです。自分の年齢に近い人には関心があっても、へだたっている人々には無関心でいるものです。若い人が、道を歩きながら示す視線をみても言えましょう。
わたしの子どものころ、たくさんの信者さんに会っていても、年齢のかけはなれている人は、ほとんど記憶にありません。自分の意識の中にあるのは、その時代々々の自分の年齢に近い人が多いものです。自分と年齢のへだたっている人には、ばくぜんと見覚えはあっても、名前も知らないままにすごしています。ことに私のように大勢の方がお相手では、向うの方はご存知でも、こちらは知らないでいることが多いものです。よほど印象的な特徴のある方は別ですが。
それにしても、意識の中の世界は、そんなに広いものではなさそうです。
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正直であることは人間にとって、尊いことです。けれども、世の中には、正直であったためにかえって、ものごとが壊れることもあります。正直であることが、誰にでも通じるとおもうことは危険です。正直がそのままにつうじない人もいます。また、”自分は正直である”と信じて、おもいのままに思慮なくふるまうことは、どうかとおもわれます。
やはり人は、相手に応じて、愛善の誠をつくさしていただくようつとめるべきでしょう。
出口直日著 『寸葉集』、巻一 「心の狭さ」