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14:空き地に込めた夢と欲
前記事で、おじいちゃんが「地元県に高速道路が通ると信じていた」と書いた。
その予想には相当の自信があったらしい。おじいちゃんは山奥に土地を買っていた。
おばあちゃんに無断で購入した土地だった。
一度だけ、父の運転で見に行ったことがある。
そこは地図上では山奥だったが、実際に目にすると、山の麓の林の中という印象を受ける場所だった。
市街地から遠く離れ、県道から一本外れた先。目的地までに広がる風景は田圃と畑ばかり。民家は二、三軒ぽつぽつと在るだけ。取り敢えず必要最低限の物は何でも揃いそうな、個人経営の小さな商店さえない。田圃と畑の間を縫うように、まめに舗装されていない灰色の細い生活道路が敷かれている。緑ばかりかと思ったら、暫く進むと海(というか細やかな漁港)が現れる。
そんなTHE 田舎の更に端。周りを杉林に囲まれた所に、件の土地はあった。
そこそこ広大な土地は、名も知らぬ雑草群に占領されていた。
ボーボーなんてものじゃない。ボーボーの∞乗と表記したいぐらい雑草だらけだった。恐ろしいことに、よく伸びたやつは小学一年生の身長を優に超えそうな高さを保持していた。夏の日差しを反射する葉が、青々とし過ぎて目に痛い。バッタを筆頭に昆虫達が跳びまくっている様は、虫嫌いの私には軽い地獄だった。
即刻車内に退避して、同行していたおばあちゃんに訊ねた。
「おばあちゃん、なんで此処こんなに雑草だらけなの?」
「誰も買わんかったからなあ。わたしも手入れなぞせんけえ、ほったらかしだ」
全ての答えが一言に詰まっていた。
おじいちゃんは、いつか地元に高速道路が出来ると予想した。そして強く信じた。誰も見向きもしない土地を買い「ここは絶対道路が通る。建設計画が纏まった時にゃあこの土地、高く売れるぞ」と自信を漲らせていた。
実際、高速道路を建設する案は提出された。きっとおじいちゃんは「よっしゃきたあ!」と喜んだだろう。
しかし、案が出ただけで計画はされなかった。こんな田舎の県に莫大な費用を投じて高速道路なんぞ作って何になる、誰も通行料を払いたがらない道は要らん──と、議会で否決されたのだ。
代わりに、高速道路並みに長い道が建設された。
県の面積が広い割に公共交通機関を使っての移動が限られ、車に頼らざるを得ない県民には、街中を走る一般道以外の道が必要だった。特に未開発の山や雑木林等をビューンと越えられて、且つ渋滞しない道が欲しかった。ので、市街地と市街地を渡す『信号機のない道路』が、山の間を抜ける形で作られた。
その道は、おじいちゃんが買った土地よりも遙か内陸側だった。
「読みは当たってたんだな、読みは」
父が、亡き父のフォローをしていた。
確かに高速道路と勘違いしてしまいそうなほど立派で、快適な道が存在していた。私達家族も、遠くにある大型スーパーに行く際に利用した。一般道を走っていた筈が、どう見ても有料な道に変わっていることに気付いた時は「えっ、嘘いつの間に高速入った!? それとも有料道路!?」と焦り、料金所は何処だと視界をキョロキョロさせたものだ。
結局料金所などなく、するすると県道に合流してしまったので、初めて走った時はおったまげた。今の道、無料で良いの? まじで? と。
おじいちゃんの読みは間違ってはいなかった。
当たらずといえども遠からずってやつだった。
結局、未開の広野だけが残った。
ここに道路が通らんのなら用はないと売ろうとしたらしい。けれど、元々誰にも見向きもされなかった場所だ。当然、買いましょうと手を挙げる人は居なかった。
おじいちゃんがこの世を去り、遺産としておばあちゃんの手に渡った。
おばあちゃんは苦々しげな顔で雑草畑……じゃなかった、遺された土地を眺めながら言った。
「読みが当たっても、形にならにゃ意味ないね」
わあ……辛辣ぅ。
でも、その通りなので、孫は大人しく口を噤んだ。
(続く)
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