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【書評】掃除婦のための手引き書

Twitterでフォローしていた広田雅将氏がオススメしていた作品。
オートフィクションというジャンルで、エッセイにフィクション要素が混じった内容。
どこまでがホントの話か分からないが、印象に残る話が多かった。
日本で言うと『ちびまる子ちゃん』と同じようなジャンルだと思う。
以下は個人的に好きだった話を挙げていく。
★付きは2回以上読み返した話。

01.掃除婦のための手引き書

表題作。
掃除婦たちのルールや、家の人間に対する評価が面白い。

掃除婦が物を盗むのは本当だ。
ただし雇い主が神経を 尖らせているものは 盗らない。
余りもののおこぼれをもらう。
小さな灰皿に入れてある小銭なんかに、わたしたちは手を出さない。
どこかの奥様がブリッジの集まりで、掃除婦が信用できるか知りたければ、バラのつぼみの小っちゃな灰皿に小銭を入れたのをあちこちに置いておけばいい、と噂を流した。対策として、わたしは行くたびに一セント玉を何個か、時には十セント玉を足しておく。

掃除婦のための手引き書

掃除婦という地味な職種をこれほどユーモラスに書ける人間は少ないだろう。
作者の観察眼に驚かされる内容だった。
自分も他人に仕事を頼むときは、相手に観察されていることを意識しようと思う。

02.今を楽しめ

コインランドリーで他人の洗濯機を回してしまった話。
しかも洗濯完了直後
本当にこれだけの話なのだが、ガチ切れする男性と励ます女性の姿にユーモアを感じた。

03.いいと悪い

レズビアンの疑惑があり、革命的な考え方の先生との休日の出来事。
先生の部屋が汚くてむさ苦しかったり、ブラなしのノースリーブで出かけたりと性的な描写が目を惹いた。
主人公は話し相手が欲しかっただけだったのに、先生が浮かれて色々な場所へ連れて行くのが悲しい。
最後は仕事も失ってしまうし、後味もやや悪い。
子供の頃の嫌な記憶を連想する不思議な話だった。

04.セックスアピール

美人の従兄弟と金持ちを誘惑する話。
2人で作戦を練ったり、誘惑方法を教授するところが面白い。
ハリウッド映画の名シーンを切り抜いたような感じだった。

05.喪の仕事 ★

亡くなった人の遺品整理をする話。
兄妹が遺品を取りに来るのだが、2人の掛け合いが良い。

旧いアイロン──黒い鋳鉄製で、飾り彫りの木の把手がついている。
「もらった!」二人が同時に言った。
「お母さまは、これで本当にアイロンを?」わたしは息子に訊いた。
「いや、よくこれでハムとチーズのトーストサンドを作ってたよ。それからコーンド・ビーフをのすのにも使ってたな。

喪の仕事

遺産の取り合いのようなドロドロとした話ではなく、思い出を語りながら遺品整理をする描写が沁みる。
兄妹には何らかの確執があったことを窺わせるが、最後には歩み寄るところも良い。
涙というのは故人が亡くなったことを実感するときに流れる物だと思う。
この話は結構好きなので、何回か読み返した。

06.ママ

エキセントリックな母親の思い出話。
言動だけでもまともじゃなのが分かるが、作者のバイアスがかかるとユーモラスに見える。

母は変なことを考える人だった。人間の膝が逆向きに曲がったら、椅子ってどんな形になるかしら。
もしイエス・キリストが電気椅子にかけられてたら?
そしたらみんな、十字架のかわりに椅子を鎖で首から下げて歩きまわるんでしょう。

ママ

アル中でスモーカーでネグレクトで自殺未遂を起こすという、とんでもない母親なのだが、作者も似たような人生を送っているのが怖いところ。

07.さあ土曜日だ ★

刑務所で囚人たちに文章創作を教える話。
この話は視点が囚人目線で展開される。
雰囲気は『BANANAFISH』をイメージして読んだ。
文章とは縁のない人生を送ってきた囚人たちが、自己表現に目覚めて行く姿が良い。

「シェイクスピアの詩にあったんだよ、 兄弟。アートってそういうもんだろ。幸せを冷凍保存する。この話を読めば、CDはいつでも幸せな時間を呼びもどせるんだ」

さあ土曜日だ

CDと呼ばれる中国人と黒人のハーフが知的で印象に残った。
とても好きな話なので、何度も読み直している。

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