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ぽつぽつ、あめのひ《モグラの豆知識 一》

はじめに

本ページでは、「ぽつぽつ、あめのひ《短編小説》」内で登場するアズマモグラに関する豆知識について解説します。一部、ネタバレが含まれる可能性もありますのでご注意ください。



モグラは飼育できるのか?

今回の小説でまずお伝えしなければならないことがあります。それは「原則として、モグラは飼育してはいけない」ということです。
鳥獣保護管理法により、平成14年(2002年)の法改正でネズミ・モグラ類と海棲哺乳類が保護対象に追加されました。
そのため、モグラを捕獲・保護するには、お住まいの都道府県にある野生鳥獣保護窓口、または市町村の害獣対策課に連絡する必要があります。

なお、例外もあり、農業または林業の事業活動に伴いやむを得ず行われるネズミ類、モグラ類の捕獲は、捕獲許可を要しないとされています。

鳥獣保護管理法の所管は環境省ですが、農林水産省も連携して鳥獣被害対策を行っており、マニュアルは下記のサイトから参照できます。


アズマモグラの大好物はミミズ

ミミズはとても大事な生き物で、畑を耕してくれたり、生ごみを土に返してくれたりする。そして、大切な小さい弟の食事にもなる。最近では、養殖ができないかと考えるほど、必要な存在だ。

ぽつぽつ、あめのひ《短編小説》 一

アズマモグラはミミズが大好きです。
しかも、食事のお作法がちゃんとあり、特にミミズの食べ方にはこだわりがあります。
ここでは、アズマモグラ流のミミズの食べ方についてレクチャーします!
(誰が使うんだ)

  1. ミミズを捕まえたら、まず頭を探す。

  2. 頭にかじりつく。

  3. ミミズのカラダを親指と人差し指の間に挟み、ミミズをしごきながら食べる。
    このとき、手の位置は動かさず、自分の頭を上下に動かしてミミズをするする食べる。

  4. ミミズを半分まで食べたら、一度ミミズのカラダを離す。

  5. ミミズのしっぽを探し、同じようにしっぽ側から食べる。

この食べ方には、しっかりとした2つの理由があります。

(1)ミミズが食べた腐葉土を体外に排出させる

頭から食べることで、どうやらアズマモグラの唾液に含まれる毒でミミズが動けなくなるそうです。また、しっぽは切れやすいため、逃げられるのを防ぐ目的もあるとされています。
さらに、体の半分まで手でしごきながら食べると、ミミズの体内にある腐葉土がしっぽの方へ押しやられます。その後、一度離してしっぽ側から食べ直すことで、断面から腐葉土を押し出すことができます。
このように手間がかかる食べ方をしていることから考えられるのは、アズマモグラは土をあまり食べたくないということです。

(2)ミミズの粘膜を取り除く

ミミズは体全体が粘膜で覆われています。この粘膜は、土の中で効率的に酸素を取り込み、また体に砂や土がつかないようにするために出ているようです。
ただし、アズマモグラにとってこの粘膜はあまり美味しいものではないらしく、ミミズの粘膜を取り除きながら食べているそうです。

ちなみに、ミミズは古くから「地竜(じりゅう)」と呼ばれる漢方にも使用されています。主に解熱剤として使用されています。
また、ミミズの体腔液には細菌増殖抑制や溶菌作用があるとする研究もあります。
これはあくまでも私の想像ですが、ミミズはアズマモグラにとって体調を整える薬のような役割も果たしているのかもしれません。

YouTubeでもモグラがミミズを上手に食べている姿が見られますので、ぜひ探してみてください。


アズマモグラのアルビノ

ビロードのような美しい毛並みを持ち、鮮やかな稲穂色をしたふわふわの小動物が穴から顔を出していた。

ぽつぽつ、あめのひ《短編小説》 一

モグラのアルビノには、頭がオレンジ色で体からお尻にかけて白(もしくは薄い黄色)になる個体がいます。
今回、主人公のアズマモグラ「おころ」はアルビノのモグラです。全体的に金色なのですが、お尻だけ白という設定にしました。
理由は、単純に私の好みです。
お尻がふわふわの白なんて可愛すぎます……!
他にも理由があるのですが、それは別のお話で書きたいため、とっておきます。

余談ですが、通常個体の場合、コウベモグラのほうが胸毛がオレンジ色の個体が多いように思います。アズマモグラの胸毛は、体毛と同じ色か、それよりやや薄い色が多いようです。


モグラの様々な呼び方

 名前の由来は、昔、今は亡きひいじいさんが「またオゴロが畑で悪さしちょる」と憤慨していたのを思い出したのがきっかけだ。

ぽつぽつ、あめのひ《短編小説》 一

『にわのもぐら』の折り込み付録で、作者の田中豊美氏が祖母とオゴロの思い出を語っています。私はこのとき初めて、「オゴロ」という呼び名があることを知りました。

偶然、国立国語研究所の調査資料を発見したので確認してみると、「ウンゴロ(モチ)」「オゴロ(モチ)」「オンゴロ(モチ)」「ムグラ(モチ)」「モグラ(モチ)」などの呼び名がありました。
方言にはさまざまな種類がありますが、「モチ」をつけるのは一貫しています。
確かに、モグラはどことなく餅っぽいですよね。


神話に出てくるモグラの神様

続けて、「おころ」という名前は、古書『ホツマツタヱ』に登場するオコロノカミから名前をお借りしました。
八百万の神がいらっしゃる日本なのだから、モグラの神様もいるのかな?と疑問に思って調べたところ、この神様の名前が出てきました。
しかし、『ホツマツタヱ』自体は読んでいないため、真偽は現時点では不明です。(そのうち気が向いたら調べてみようかと思います。)

<2024/11/04 追記>
『ホツマツタヱ』に関連する書籍を4冊ほど探してみました。
モグラにオコロノカミと名付けた「ニニキネ」という神は出てきましたが、オコロノカミ自体は書籍には登場しませんでした。
(国立図書館で調べないとダメだろうか……)


害獣モグラ

モグラについて語る際に避けては通れないのが、害獣被害です。
田んぼや畑、ゴルフ場で大暴れしているモグラたち。可愛いだけではすまされない現状があります。

そんなモグラたちがどれだけ暴れているのかを、農林水産省の『農作物被害状況 全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和4年度)』で確認すると、モグラの被害は「その他獣類」に分類され、総額3億1600万円の被害が出ています。
「その他獣類」にはモグラのほか、マングース、タイワンリス、キョンが含まれています。
そのうち、純粋なモグラの被害額は1400万円で、24年間の平均は900万円です。関東(アズマモグラ)と関西(コウベモグラ)のどちらでモグラ被害が多いのか、少々気になる点です。

余談ですが、モグラと同じく穴を掘って巣を作る外来種ヌートリアは別枠となっています。彼らはネズミと互角の戦いをしており、日本の生態系はいろいろとまずい状況です。


モグラの身体能力

 モグラは非常に耳が良く、鼻の先にある特別な感覚器官を使って周りのわずかな振動でさえも感じ取ることができる。この能力で、おころは目の代わりに世界を見ているのだ。

ぽつぽつ、あめのひ《短編小説》 一

インターネット上でよく見かけるモグラの身体に関する説明には、「目が見えない」「耳が良い」「鼻が良い」の3点が挙げられます。

一方、書籍では、「目が見えないが、明るさはわかるようだ」「聴覚は鋭く、人間にはわからない超音波を使用している可能性がある」「鼻先にあるアイマー器官を使用して、周囲のわずかな振動さえ敏感に感知する」といった詳細が挙げられています。
特にアイマー器官は非常に優れており、空気の振動さえも感知できているのではないかとさえ言われています。

嗅覚については、「良い」と書かれているものと、「思ったほど良くないのでは?」と書かれているものの2パターンがありました。
確かに動画を見ていると、バケツに入れられたモグラは目の前にミミズを置かれても、なかなか見つけられないような動きをしています。人間が補助して、やっとミミズを食べ始めるといった感じです。
ただし、これらは人間に捕まって、土の中ではないバケツに置かれているため、「今、食事なんてしてる場合じゃない!」とモグラが思っている可能性もあり、実際のところははっきりわかりません。

モグラが鼻を忙しなく動かしているのは、匂いを感じるためというよりも、アイマー器官で周囲の状況を調べている可能性が高いです。


あとがき

まだ、1章分しか解説していないのに本文よりも長くなってしまいました……。
2章の解説は次回とさせていただきます。


<参考文献>

  • 田中豊美(1984) . 監修:今泉吉晴. 『にわのもぐら かがくのとも 189号 はじめてであう科学絵本』 . 福音館書店 .

  • 今泉吉晴(1985) . 『モグラ 地下の宇宙ステーション』 . 平凡社 .

  • 今泉吉晴(1987) . 『空中モグラあらわる 動物観察はおもしろい』 . 岩波書店 .

  • 手塚甫(1987) . 『生き生き動物の国 トンネルづくりの名人 モグラ』 . 誠文堂新光社 .

  • 飯島正広(2007) . 『モグラの生活』 . 福音館書店 .

  • 川田伸一郎(2009) . 『モグラ博士のモグラの話』 . 岩波書店 .

  • 川田伸一郎(2012) . 『はじめまして モグラくん』 . 少年写真新聞社 .

  • アヤ井アキコ(2018) . 監修:川田伸一郎 . 『もぐらはすごい』 . アリス館 .

  • 山村紳一郎(2007) . 監修:中村方子 . 『あなたの知らない ミミズのはなし』 . 株式会社大月書店 .

  • 関沢良之(1998) . 『No. 213854 シマミミズEisenia foetida体腔液中の生理活性蛋白質ライセニン(lysenin)に関する研究』 . 東京大学附属図書館・情報基盤センター . 東京大学学位論文データベース . http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=213854 , (参照 2024-11-02).

  • 国立国語研究所 . 『方言の諸相 : 『日本言語地図』検証調査報告』 . 国立国語研究所 . https://repository.ninjal.ac.jp/record/1287/files/kkrep_084.pdf , (参照 2024-11-02).

  • 国立国語研究所 . 『日本言語地図資料用紙 注記一覧 72-33 - 質問番号 地番号』 . 国立国語研究所 .https://mmsrv.ninjal.ac.jp/laj_map/data/laj_map/LJC-M211Q223.pdf , (参照 2024-11-02).

  • 農林水産省 . 『農作物被害状況 全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和4年度)』 . 農林水産省 . https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/ , (参照 2024-11-02).

  • 農林水産省 . 『野生鳥獣による被害防止マニュアル等』 . 農林水産省 . https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/manyuaru/manual.html , (参照 2024-11-02).


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