筆
(イ)
猫を撫でていた
その日は姉が帰省した、
客と呼んでいいくらい久しい相手に、
猫は気を張りつめていたようだった
その夜、猫を撫でた
猫にきみは頑張ったと伝える時に、
私も外に出たことを頑張ったと伝えた
そのときふっと、張りつめた気が
すこしほどけた気がした
私は未来に一抹の不安を、
感じている一人で
そのときだけは、張りつめた気が
すこしほどけた気がした
私は頑張れより
頑張ったと言いたくて
筆を執る
(ロ)
小説と、詩の違いは?
文字を書くにあたって、知ろうとした。
しかし蝶と蛾というように、
知らなくてもよくて、
あるいは知らない方が、
幸せに生きられるかもしれない。
気になったことは調べないといられないのに、
これだけは調べなかった。
他人の未だ訪れない最期を、
好奇心で知ろうとする、
そういったもののように初めて感じられた。
私は心が浮いたのを感じながら、
なまえのない文を書きはじめる