近年のゲームに関連した特許侵害訴訟について
１． はじめに
ゲームは知的財産になじみがないような一般の方々にも身近な存在であり、世間でも大きな話題になることが多い分野です。過去のゲームに関連した訴訟としては、90年代以降に著作権（ときめきメモリアル）やパブリシティ権（ギャロップレーサー）を巡って争った事件が挙げられます。今回はその中でも特許権侵害を巡る事件についていくつかご紹介したいと思います。
２． コナミデジタルエンタテイメント vs Cygames（ウマ娘 プリティーダービー）
近年話題となった特許権侵害に関する事件としては、2023年にコナミデジタルエンタテイメント（コナミ）が保有する特許をCygamesのゲーム（「ウマ娘 プリティーダービー」）が侵害しているとして、コナミが特許権の侵害訴訟を提起した事件が挙げられます。
対象となっている特許は明らかにはされていませんが、特許第5814300号である可能性が高いと言われています。特許第5814300号の請求項は以下の通りです。
【請求項１】
ユーザが所有する複数のキャラクタの中からユーザによって選択された少なくとも１つのキャラクタを、イベント発生用の第１キャラクタとして設定する設定手段と、
前記設定手段によって設定された前記第１キャラクタまたは複数の前記第１キャラクタの組み合わせに応じた特定のイベントをゲーム中に発生させるイベント管理手段と、を備えているゲーム管理装置。
コナミの発売するゲームである「パワフルプロ野球（パワプロ）」シリーズでは、「サクセス」と呼ばれるキャラクターを育成するゲームモードがあり、育成するキャラクターに加え、ゲーム開始時にサポートカード（サポカ）と呼ばれるキャラクターを設定することができます。本特許は、ゲーム開始時に設定したサポートカードの組み合わせによって、ゲーム中に特定のイベントを発生させることができるようにする特許です。
一方、Cygamesの「ウマ娘 プリティーダービー」では、育成するキャラクターに加えてサポートカードとなるキャラクターをゲーム開始時に設定することができ、設定したキャラクターに応じてゲーム中で特定のイベントが発生します。
引用：「第2話「編成」【サクラバクシンオーのバクシン！お悩み相談！】」ぱかチューブっ! 2021/2/24 （00:02:27-00:02:31） （2025年1月23日閲覧）
ここで注目すべき点として、分割出願の多さが挙げられます。特許第5814300号は2013年に最初の原出願がされ、そこから現在は第８世代まで分割が進んでいます。分割出願では、原出願の出願日が分割出願の出願日とみなされるため、分割後の出願でも先願の地位を維持することや、ある出願が拒絶査定となった場合には、拒絶理由を解消するように分割を行うことで、スムーズに特許登録を進めることも可能となります。また、権利範囲の最終的な確定を先延ばしにし、実施される態様に応じた複数の発明について権利化を図ることも可能です。このように分割を繰り返していることからも見て取れるように、この特許がコナミにとって重要かつ戦略性が高い特許であることが窺えます。
さらに、分割を進めていく中で、実際のゲーム実装に近い内容の権利範囲に限定していくことで、無効化されにくくするという特許戦略を取っているということも想定されます（もちろん、これは原出願の明細書に記載されていた内容に基づくものでなければなりません）。
Cygames側は特許権を侵害している事実はないとしており、争う姿勢を見せています。こちらの事件については現在も訴訟が継続中となっており、これからの成り行きが注目されるところです。
３． 任天堂・ポケモン vs ポケットペア（パルワールド）
次に紹介する事件は、ニュース等でも話題になった、Palworld（パルワールド）に関する事件です。
Palworld（パルワールド）は、株式会社ポケットペアが開発・提供を行っているオープンワールドRPGです。「パル」と呼ばれる生物を集めて、捕獲・戦闘・育成・拠点建築といった要素を楽しむオープンワールドサバイバルクラフトゲームとなっています。
当初、パルのデザインや世界観などがポケモンに似ているとして話題にあがりましたが、2024年9月19日、任天堂とポケモン社がポケットペアに対して特許権の侵害訴訟を提起しました。
対象特許については当初は明らかになっていませんでしたが、その後のポケットペアからの発表により対象特許が明らかとなりました。
対象特許
・特許第7545191号
・特許第7493117号
・特許第7528390号
この中で、特許第7493117号の請求項を見てみると、
【請求項１】
情報処理装置のコンピュータに、
第１のモードにおいて、
方向入力である第１の操作入力に基づいて、仮想空間内における照準方向を決定させ、
第２の操作入力が行われた場合に、前記照準方向を仮想空間内のフィールド上に配置されたフィールドキャラクタに向けさせるとともに、第１の指標を表示させ、
第３の操作入力に基づいて、前記照準方向に前記フィールドキャラクタを捕獲するための捕獲アイテムを放つ動作をプレイヤキャラクタに行わせ、
前記捕獲アイテムが前記フィールドキャラクタに命中した場合、捕獲が成功するか否かに関する捕獲成功判定を行わせ、
前記捕獲成功判定が肯定判定された場合に、前記捕獲アイテムが命中したフィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定させ、
前記第１の指標は、前記捕獲成功判定の肯定判定し易さを示す情報である、ゲームプログラム。
という記載にとなっています。大まかに内容を纏めると、
① フィールドのキャラクターを捕獲する動作を行う際に、
② 照準方向をキャラクターに向けさせると同時に第１の指標（捕獲のしやすさを示す情報）を表示させる
と言う内容になっています。
一方、パルワールドではパルを捕獲する際に、スフィアと呼ばれるアイテムをパルに向けて投げることで捕獲を行うことができ、このスフィアをパルに向けて構えた際に捕獲率（Capture Chance）が表示されるようになっています。
引用：「【Palworld】パルの捕まえ方。【Palnews】【ポケットペア】」 ポケットペア 2023/5/26 （00:00:06） （2025年1月23日閲覧）
今回の訴訟では、フィールドのキャラクターがパルに、第１の指標がパルワールドでの捕獲率に相当するとして、特許権の侵害を主張しているとも考えられます。
さて、先ほども少し述べたように、パルワールドに関しては特許権の侵害という点よりも、「ポケモンのキャラクターを真似ている（＝著作権の侵害）のではないか？」という点で話題になることが多かったゲームです。しかしながら、今回任天堂とポケモン社は著作権侵害ではなく特許権侵害という観点で訴訟を提起しています。
これは著作権よりも特許権の方が権利侵害の主張がしやすいということが背景にあると考えられます。著作権は著作物が創作された時点で発生しますが、出願や審査を経ていないため、どこまでが権利の侵害になるのかの判断は容易ではありません。一方で特許権の場合は、出願・審査を経て登録されることで権利が発生し、どこまでが権利範囲なのかということが分かりやすいという面があります。そのため、今回の訴訟についても、著作権侵害ではなく特許権侵害という観点で訴訟を提起したと考えることができます。
とはいえ、こちらの事件についてもコナミとCygames間での争いと同じように訴訟は始まったばかりであり、訴訟の行方が注目されるところです。
４． まとめ
今回はゲームに関する事件・訴訟について２つの事例を紹介いたしました。ゲーム訴訟では、結果によっては対象となったゲームのサービス終了や、仕様の変更・制限が必要となる場合もあり、企業間での争いに留まらず、世間一般のゲームユーザーにも大きな影響を与える可能性があります。
ゲーム業界についてはその話題性や世間への影響度も踏まえ、これからも注目する必要があるのではないでしょうか。
調査１部 田中
【参考】
参考文献等
当社に対する訴訟の提起について
https://www.cygames.co.jp/news/id-23172/
「第2話「編成」【サクラバクシンオーのバクシン！お悩み相談！】」ぱかチューブっ! 2021/2/24
（00:02:27-00:02:31） （2025年1月23日閲覧）
https://www.youtube.com/watch?v=Ic2VDPdWdUk&list=PLzFNGS7Rcf-P0yASPXeTqMFXL-1glCWbZ&index=2
株式会社ポケットペアに対する特許権侵害訴訟の提起について
https://www.nintendo.co.jp/corporate/release/2024/240919.html
特許権侵害訴訟に関するご報告
https://www.pocketpair.jp/news/20241108?lang=ja
「【Palworld】パルの捕まえ方。【Palnews】【ポケットペア】」 ポケットペア 2023/5/26
（00:00:06） （2025年1月23日閲覧）
https://www.youtube.com/watch?v=BWdpAYXTeZ
ポケットペア公式HP
https://www.pocketpair.jp/palworld?lang=ja
