「その人を表す」名刺
◆作品事例08: 空押しの名刺
美容師さんの名刺
ハーフエアコットンに空押し
特色(銀)1色で活版印刷
できる限りシンプルに
56mm×92mm(定型サイズ+1mm)
名刺作りには思い入れがある。
デザインのなかで好きなジャンルは、ロゴデザインと名刺だ。
いちばん端的に、その人を表す媒体だから。
単なる情報を載せた小さい紙ではなくて、その方に似合う紙を選ぶところから名刺を作る
っていうのが好きだし得意としているところだけど、その最初の1枚がこちらの名刺だった。
どうしたらその人を表せるか?って真剣に考えた
とっても憧れていたアーティストであり
長年お世話になっていた美容師さんの名刺。
この写真は裏面で、空押ししたイラストはクライアントさんからの支給。某有名人のタトゥ図案を手がけた人に描いてもらったと話していた。
デコラティブなハサミと月、お店のロゴタイプが反映されているこのイラストは、モノクロ線画で見るととってもインパクトがあるので、インクを乗せずに型押しするくらいのさりげなさが丁度良かった。
その意図は
この美容師さんが、とっても、カリスマのある人だから。
デザインでごちゃごちゃ飾る必要、ないでしょ。と思うくらい、存在感とカリスマを携えている人なのだ。黙っていても。オーラが滲み出てるとでも言おうか。
とにかく、掲載要素をできる限り省いた。
表面は、肩書きとお名前(漢字)のみ。
そしてサイズにもこだわった。
日本の定型サイズより、縦横ともに1mmずつ大きくしたのだ。
身体の大きい人だから、手も大きい。あえて印象を揃えた。たくさんの名刺を重ねた時に、埋もれずはみ出す。「その人らしさ」を、ぎりぎり名刺入れに入るサイズで私なりに表現した。
失敗談もあって。
初めての活版印刷、凝りすぎてしまった結果、紙選びを間違えて表面にシボのある紙を選んだら、このイラストの空押しが全く目立たずとっても残念な仕上がりに…。
オーダーは 500枚。活版印刷は手作業なので刷り直しは結構な金額になったけど、自主的に紙を変更して刷り直した。お金なくて痛かったけど、ここで何を残すかのほうが、個人で仕事をする私には一番大切だった。
貴重な勉強代。
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◆私の人生を変えた名刺
「人生を変えた」なんて大げさに聞こえるかもしれないけど。この名刺は私にとってひとつのターニングポイントだったなと、今振り返ってみると思う。
なんのターニングポイントか、っていうと
安易なフルカラー印刷、商業印刷の延長としての名刺ではなく
紙から選定して、加工やインクの色にもこだわった“その人らしさ”を表すフルオーダーの名刺を作りたい、単なるデザイン以上のそういう関わり方を、クライアントとする。そう決断して方向転換するきっかけになったから。
自分が心の底でそう思っていることを認めて、実際に行動に移すまで、この後すぐにできたわけじゃなくてずっと長い時間がかかった。けど、この1枚を作ったから、自分の深層心理に気づくことができたのだ。
いま、私は
デザインよりももっと手前の
「なにを表現したいのか?」を、決めていくところからクライアントと関わるようにしている。
「あなたのパーソナリティとは?」
「なにを大切にしているか?」
「なにに苦しんで、なにに喜びを見出してきたか」
「誰とどんな風に関わりたいのか」
そう質問して、すぐにぽんとその人らしい言葉が返ってくることは、まれ。というより、ほとんどないに等しい。
もちろん皆さん返してくれるけど
どこにでも落ちてるような通りいっぺんの当たり障りのない表現だったり
どっかで借りてきたようなキャッチフレーズ的な文言だったり。
(それはそれで、良いのだけど)
どうせ作るのだったら
受け取ったら「へえ」と思うような1枚
「とっておきたくなる名刺」を作りたい。
そう思うのは、紙が昔から好きだったからもあるし
自分がずっとフリーランスだからもある。
どんな名刺を渡すかで、相手の反応が違うからだ。
若かったり実績がなかったり主婦だったり、女でフリーランスって正直ナメられることが多い。今は違うかもしれないけど、私が駆け出しの頃は少なからずそうだった。
だから、無言でなにかを伝えられる名刺を持とうと思った。
紙の種類ひとつ、厚さを一段変えるだけで
手のひらに乗る1枚の印象や重みは変わる。
ぺらっぺらのチープな名刺を渡していた頃、「私は安く使えますよ」という印象にを無言で相手に伝えていたんだと、いま振り返ると思うから。
絶対に捨てられない
「どこで作ったんですか?」って聞かれるような
「どうしてこういうデザインなの?」って話題に上がるような名刺を持ちたいし
持って欲しい。
名刺は、あなたの人となりを端的に表す優れた媒体だから。
自分をどう思い、どう扱っているか?
自分のセルフイメージが投影されたものが、名刺なのです。
◆本当はどうしたい?って問いかけてみる
“その人らしさ”を表すフルオーダーの名刺を作りたい、単なるデザイン以上のそういう関わり方を、クライアントとできるようになるんだ。
自分が心の底でそう思っていることを認めて、行動に移すまでにはずっと長い時間がかかったけれど、この1枚を作ったから、自分の深層心理に、気づけた。
他の記事でも、何度か書いているけど
もし、あなたにも
「こうしたいな」「やってみたいな」
と思う何かがあるのなら
やってみて欲しい。
それが自分の自信になるから。
人からみたらなんてことないことでも
本人にとってはすごくすごく怖い。怖くてもやってみればいいし
今はやらなくてもいい。どっちでも選べる。
でもね
自分に、「本当は、どうしたい?」って、問いかけてみてほしい。自分の本音。「本当は、こうしたい!」という気持ちだけは
捨てないで欲しい。
捨てなければ諦めなければ
いつか、自然とそっちに流れていくから。
◆普通になっちゃダメだよ
転職して会社勤めのデザイナーになったばかりの頃。
この人が言った言葉は、私の心の深いところに落ちているんだと、つい最近気づいた。
いつも、個性的なヘアスタイルにしてくれた。
普通っていうのは たぶん
個性を感じられないことで
この人の言う“かわいい”はいわゆる美人とか愛され系みたいな顔のことではなくて
個性的であれ
という意味だと思ってる。
この名刺を見るたびに、いろいろなことを思い出すし再認識する。私の、初めての活版印刷で作った名刺の原点ともなった1枚。
肩書きも、ご提案したら気に入っていただけて
今でも手に取ると、誇らしい気持ちになる。
作らせていただいたこと、今でも深く感謝しています。
スマホもSNSもなかった頃のお話でした。
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◆1秒で世界観を伝える名刺の作り方・5つのセオリー