ジャンクディーラー・イン・ザ・スペース! #1200文字のスペースオペラ
俺は大した男じゃないんだ
お前ならきっといいやつに出会えるさ
だから背中に追いすがるのはよしてくれ
船内スピーカーは旧世紀テクノ歌謡を情緒たっぷりに歌い上げているが、残念ながら耳を傾けている暇はない。操縦席は警告アラートや操縦系の電子音に溢れている。そして残念ながら、今まさに追いすがってくるのは銀河連邦の戦闘ドローンだ。
「おい、次のジャンプポイントまであとどれくらいだ!?」
ナビに呼びかけると、ワイヤーで中吊りになっているレトロなラジカセじみたそれはランプを灯し始めた。端から端まで光が点灯するとけたたましいファンファーレが鳴り響き、表示欄には「あと10分です」の文字。言語発声システムをケチるんじゃなかった。
民間船信号を出しているのに攻撃してくるなんて、銀河連邦の連中は何を考えているんだ?この辺りはもう掘りつくされた資源小惑星帯だ。辺境宙域の警備が雑過ぎる。これなら帝国時代の方がまだましだ。
小惑星デブリをかいくぐる。向こうの宙域飛行アルゴリズムは優秀なようで、難なく追ってくる。技術屋め。ろくでもない所でいい仕事をするな。BEEP!「おっと!」緑のレーザー光が船体を走った。対デブリ用シールドが発動して辛うじて散らしたが、引き換えにエネルギーが減少した。まずい。ジャンプ用のエネルギーだけは確保しなくては。
「やつの飛行アルゴリズムを解析しろ!5秒でやれ!」
ラジカセがチカチカ点滅する。この船にあるのは掘削用のレーザートーチと頑丈さだけが取柄の作業用アームだけ。だがひたすらケツを追い回されるのも癪だ。やるだけやってやる。ファンファーレが狭い操縦席に響き渡った。
「ドローンに基準を当てて今から入力する位置座標に向かって飛べ!」
ランプバーが真っ赤に光り、ライトがせわしなく左右を行き来した。こいつ首を振ってるつもりか。「やれと言ったらやれ!お前ならできる!」バイブレーションのような低音の唸り声をあげているので不服らしい。作業船が進路を変える。ここからはアトラクションの時間だ。
突然アクロバティックな挙動を始めた船にドローンは戸惑うように動きを一瞬止めた。その隙をついてドローンに肉薄し、作業アームでがっちりと両翼を捉える。間髪入れず船底のレーザートーチが操縦席部分にあたる人工知能を物理的に焼き切り、ドローンは沈黙した。
思わぬ事態だったが収穫は上等。バラせば中々の値段で売り捌けるだろう。いい加減採掘場を漁るのも飽き飽きしていたところだ。宇宙海賊にでも鞍替えしようか。「いや、いや、そんな危険な橋渡りたい訳ないだろ。今回だけだ」
つかの間の星間飛行 ウォー
マゼランの彼方へ俺は往く
どうか引き止めないでくれベイビー
テクノ歌謡は2番のサビに突入していた。ラジカセが音頭をとるように点滅する。豪勢な銀河バッファローのシチューを思い浮かべながら、俺は意気揚々とスペースジャンプのスイッチを起動した。
(終わり・1195文字)