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ライディング・ホッパー チャプター2 #5
ライディング・ホッパー 総合目次
「まったく、あんな無茶苦茶な使われ方をするとは」
中継モニタ越しにワタルがビルの間をスイングする様を見て、コウイチロウは苦笑した。
あれは本来、重機装備に換装したライディングギアのために開発したものだ。グライダーにしても、有事の際の仮設住居に使用するための自動仮設構造の骨組みに、強度、柔軟性、対裂性に秀でたタープ生地を組み合わせている。どれも巽建機が独自開発した製品であり、最上級の品質を持つ。だが当然のことながら、空を飛ぶためのものではない。
コウイチロウが用意したプライベートガレージでの運用テストでは十分な結果が得られたらしいが、実際のレースとなると話は別だ。刻々と変化する状況で全ての装置が問題なく使用できるとは限らない。純正のパーツでさえ、ギアのスペックをフル回転させながらでは自ずと無理をさせ、最悪自壊するリスクもある。それが取ってつけたような装備あれば尚更だ。
そもそも、ライディングギアをあそこまで大胆に換装することそのものが普通ではない。たとえ脚部一つ変わっただけでもその乗り心地は全く別物になるライディングギアで、レースの度に機体構成をごっそり変える人間など見たことがない。
ワタルの発想力は常識に囚われない。おそらく育ちに影響しているのだろう。ならばメカニックとしての技術と知識は?それは生まれに起因するものだろうか。
あのトレミーと呼ばれるAI。あのワタルの常識外な発想に臨機応変に対応し、的確に操縦の補助をこなすとは。人工知能の技術は大崩壊前の水準には未だ程遠い。アライランスの技術であっても、あれほど人間と言葉で意思疎通させるのは不可能だろう。
レース模様を遮り、カナズミのプレゼンターがいかにリヴィエールが優れているかを熱弁している中継映像を眺めていたコウイチロウの思考は、別の方向からの知らせによって中断させられた。
「おや、レース中ではなかったのかい?……それはまた急な話だ。いや、歓迎する。では、こちらもできるかぎりのことはしよう。君は自分のことに集中してくれたまえ」
コウイチロウは個人用の通話機を切る。
「やれやれ、何とも困ったじゃじゃ馬たちだ」
大見出しになっているリヴィエールと、小さなワイプに追いやられているトレミーを見て、コウイチロウは独り言ちた。
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