おかみ様の遣わすもの
朝起きたらスマホが充電できていなかった。
ケーブルを差し直しても再起動してもダメだった。残りのバッテリーは三十三パーセント。結構ヤバい。
「お母さん、スマホ充電できないんだけど」
「ウソ、あんた今日リモート授業あるでしょ。越島まで修理に行かんとあかんじゃん」
「えー、ダル……」
愚痴っても仕方がない。先生に欠席を連絡し、出かける支度をした。
「行ってきまーす」
いってらっしゃーい、という母の返事を背に受けて私は自転車のペダルを漕ぎ、軽快に走り出した。
幸い天気は良い。これなら一時間ほどで越島町まで着きそうだ——という私の予想は、道中で立ち塞がった白装束の二人組に阻まれた。
「君、何処から来た」
「どこからって、あっちからですけど」
「文化保護区レベルDの方角だ」
「あそこは半世紀も前に遺棄されている」
二人はヘルメットを被っていて顔は見えない。教科書に載っていた大昔の宇宙飛行士みたいだ。
「身分証は?」
「えーと、スマホなら壊れちゃってて……」
私はドギマギしながら言葉を選んだ。『白装束に出会った時にやっちゃいけないこと』を必死に思い出そうとする。会話はまだセーフだったはずだ。
「この場合処理ってどうなる」
「マニュアル十四-Aだ。古い規程だがおそらく有効だ」
「あの、急いでるんですけど」
「我々と来てもらおう。集落に案内しなさい」
「や、私越島へ行く予定で」
「つべこべ言うな、この——へぶっ」
白装束が突然仰向けに倒れた。胸の真ん中に矢が刺さっている。
「警戒レベル四、発砲の許可を——」
もう一人の白装束のヘルメットに立て続けに矢が三本突き刺さり、ぐんにゃりと崩れ落ちる。
「おうい、無事だったか」
茂みから顔を出したのは、昨晩から猟に出かけていたお隣の中村さんだった。
「昨日はシシもシカも捕れんでな、かーちゃんに怒られるの覚悟してっとよ。でもシロ二匹狩れたんは良きじゃった」
中村さんは疲れた顔をしていたが、弾むような声で言った。
【続く】